図書部はだれの味方なのか
いつものようにスタッフ本を読んでいると、いきなりドアを開けて常磐線が入ってきた。
「システム開発を前倒しで行っていると聞いたが、もうできたつもりなのか?」
我孫子は我々三人が手に持っているものを見ながら言う。もちろん、誰一人としてシステム開発に手を付けていない。
「余計なお世話だ」
「そ、そうか。ところで、図書部から返事はもらったのか?」
我孫子の言っている意味が分からない。
「もう図書部からの返答の期限は過ぎているだろう?」
俺ははっとした。確かに過ぎている「来週には結論を出す」と言いながら、もう二週間は経っている。そして、一回目の部室使用料の納入期限も間近だ。
「ちょっと確認してくる」
と言って、俺は急いで部室を出た。廊下を急いで歩きながら、ふと気が付いた。我孫子は心配して様子を見に来てくれたのではなかろうか。なんだかんだ言いながら我孫子は我々にやさしいと思う。もしかしたら、ハナ様か部長のどちらかが好きなのかもしれん。
気が付いたものの、指摘するとツンデレがツンドラに戻ってしまいそうなのでやめておいた。
「たのもー」
俺にしては大きな声を出しながら図書部の部室のドアを叩く。驚くことに図書部にも部室がある。部室なんてなくても、図書館を使えばいいじゃないかと思わないでもない。
「どうぞ」
という声を聴いて、部室に入ると、十人ぐらいの女子が険悪な表情で座っており、ピリピリした空気が充満していた。もう帰りたい気分になってくる。
「ちょうど、よいところに来たわね」
木本さんは俺の肩を抑える。軽く抑えられたように見えるのに、まったく動けない。いくら俺がエロゲばかりしている貧弱な男の子と言えども、一切の抵抗ができないぐらい押さえつけられることってあるの? 図書部は重い本を持って歩くから必然的に筋肉隆々なの?
「まあ、座って」
木本さんのセリフに合わせて、近くにいた女の子が席を立って退いた。そして、俺をそこに座らせる。
「今ね、誰をシステムの担当にしようか、十三回目の話し合いをしているところなの?」
なんでそんな回数が……?
「我々が嫌いだから誰もやりたがらないとかなら、我々は居なくても構いませんよ?」
それを聞いた木本さんは首を横に振る。
「逆よ。みんながやりたくて譲らないの」
意味が分からない。そんなにやりたい仕事かな?
「なんか、知らないけど、宗川くんて人気あるのよ。特に中等部の女子に」
ますます意味が分からない。しかし、部長ならこのシチュエーションを大喜びで受け入れただろう、と関係ないことが頭をよぎった。
「それで、担当者が決まらないから、顧問の先生に『女子コンピュータ部にしちゃえば?』と言われてるのよ。今日ぐらいに決まらないと、作る方だって困るだろうし」
そうですな。我々も二か月後には、いや一カ月強過ぎたら三万円ずつ入るようにならないと、やばいです。
「いい機会だから、もう宗川くんが選んだらいいと思うわ。みんな、優秀で良い子たちだから、システムを作るのに役に立ってくれるわよ」
中等部の図書部女子だと思われる女の子が俺に視線を向ける。熱い視線というよりは、殺意というか呪いのような寒気がした。これは誰を選んでも恨まれるフラグじゃないんだろうか。陰で噂を流されて女子全員から嫌われちゃう状態になりそうだぞ、これ。
「え、俺が選んでいいんですか?」
などと言いながら必死に回避策を考える。うなれ、俺の灰色の脳細胞!
しかし、エロゲのルートは暗記できても、こういう事態には役に立たない俺の脳みそ。もうこれはどうしようもないんじゃね?
俺が覚悟を決めた時だった。
「私、辞退します」
一人の女の子が声を上げる。
「え? 斉藤さん、いいの?」
「はい。私はみんなほど、熱意はありませんし」
斉藤さんと呼ばれた女の子は確かにやる気のない顔をしている。俺の短い人生の経験上、本当にやる気がないタイプだ。
「採用」
俺は、即座に斉藤さんを採用した。
「こうやって譲り合う精神が今の若者には欠けている。そこに感銘を受けた。斉藤さんと言ったよね? 明日からよろしくお願いします」
「いやです」
断られた。なぜだ解せぬ。だが、その反応は俺にとって好都合だった。
「木本さん、俺は斉藤さんがいいと思うので他の人は選べません。斉藤さんが辞退するというのなら、図書部の担当者はなしということでお願いします」
図書部からの人員はいない方がいい。我々がいつも開発していると思うなよ。俺なんか、開発にかかわることないからな!
「うーん、でも、新しいシステムに精通している人がいないと、スムーズな導入ができないわよね……」
木本さんは迷っているようだった。
「担当者が斉藤さんがなるにしろ、ならないにしろ、開発するのは我々にしていただければ特に問題ないので、あとは図書部の皆様で話し合っていただければ幸いです」
「そうね。わかったわ。生徒会と顧問の先生にもそう報告しておくわね」
そう言って、木本さんは俺の肩から手を外した。ふっと圧力が消える。
俺はすかさず立ち上がると、「斉藤さん、考えておいてね」と心にもないことを言って、図書部の部室を出た。
危なかった。我孫子が警告してくれなかったら、我々は諦める前に試合終了になるところだった。
それにしても我々はリーダーシップを取る人物がいないから、すべてグダグダなんだよな。部長は名前だけで、ほぼ何もしないし、ハナ様はマイペース以外に表現しようがない。
来月末までは気合を入れて気を付けてないといけないな、と俺は思っていた。
UnityでARcoreのBuildが成功しました!
しかし、スマホが対応していないので、アプリを動かしてもエラーしか出ない……対応しているスマホは約10万円……正式版のリリースまで待つしかないかな?と思っています。