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突然ですが、我々には部費がない  作者: 小鳥遊七海
図書部の受付システム開発
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BLの伝道師(電動ではない)

設定を誤って1日に二話投稿してしまい、ストックが切れた脆弱な小鳥遊です。

日付の設定をドヤ顔で間違えるとか、涙目です。

「あれ?」


 同人誌ショップ(まんだらけ)を出ると、そこには挙動不審な鳳さんがいた。お店の入り口を気にしながら、道を行ったり来たりしている。

 鳳さんと目があった。


「あ、き、奇遇ですね」


「いや、待ってましたよね?」


 鳳さんは頬を掻く。


「バレました?」


 バレるも何も十分ぐらいしか経ってないし、奇遇というには無理があるでしょ。


「もし、宜しければ、布教用に持ち歩いているBL本をどうかな、と思いまして」


「え? くれるんですか?」


「は、はい。貰ってやってください」


 鳳さんは持っていた袋から五冊の薄い本を取り出し、俺に渡してくれた。こんなことが出来るのは秋葉原だけだよな。

 貰った同人誌は、早速、袋の中に入れる。流石に裸のまま(文字通り)で長時間持っていたくはなかった。


「そ、それと……連絡先を交換しませんか? 気持ち悪いのは分かっているんです。歳もかなり離れていると思うんですけど、BLが好きな男性の知り合いって全くいなくて、現実にいると思ってなかったから、目の前にいると思ったら我慢出来なくて」


 うつむいて、めちゃ早口で捲し立てる鳳さん。


「いいですよ」


「やっぱ、ダメですよね?」


 なに、このテンプレ。ラノベで見たことあるよ、俺。


「いいですよ、LIMEしてます? フリフリしましょう」


「ほ、本当ですか? ちょ、ちょっと待ってくださいね」


 俺と鳳さんはチャットアプリの連絡先を交換した。鳳さんは二十代半ばというところだろうか。よく肌の質を見れば年齢がわかるというが、化粧していると顔では判断を謝ることがある。

 そういうときは手を見ればいいとエロゲに教えてもらった。鳳さんは手も顔も一致している。


「本当に何から何までありがとうございます。勇気を振り絞ってよかった」


 何回か仲良くしたいと思った人に拒否されたことあるんだろうな。俺も覚えがある。どうでもいい人に拒否されても別になんとも思わないんだけど、また会いたいなと思った人に拒否されると、人の連絡先を聞くのが途端に怖くなるんだ。

 そんな経験から俺は連絡先交換は断らないことにしていた。


「では、今度こそ、さようなら」


「はい。良い本が手に入ったらまた連絡しますね」


「まってます」


 俺は笑顔で手を振りながら、鳳さんと別れた。




 部室に帰ると、ハナ様の机には赤べこ(レッドブル)が何本か並んでいた。

 これは噂に行くブドウ糖ブーストというやつではないか。プロの将棋棋士もブドウ糖の塊をがりがり噛みながら大事な一番を勝負するという。ハナ様をしても最初から全力を超えた戦闘力で挑まなければならないということか。いや、ハナ様がどれぐらいできるか全然わからないんだけども。


「ハナ様、買ってきたよ」


 俺はあらかじめスタッフ本を分けておいた。BL本だけハナ様へ入った袋を渡す。


「ハナ様はサーバントからの写メを心待ちにしてたのよ? 写メも送らず、ハナ様が持っている同人誌とかぶっていたらどうするというの?」


 などと文句を言いながらハナ様は俺が買ってきたBL本を物色する。一冊一冊を見るたびに、死んでいた目に光が戻ってくる。


「どういうことなの? 最初の三冊は新刊だからハナ様が見たことないのは当然なの。でも、次の五冊はハナ様でもお目にかかったことがないようなプレミア付きの名作なの。保は、タイムリープして買ったというの?」


 ハナ様が扇を広げるようにして持っている五冊は、鳳さんにもらった本だった。それってプレミアムついていた本なのか。


「一万円で買えるはずがないと思うの? 保は今月と来月の部室費のために内部留保している予算に手を付けたというの? ……いえ、そんなはした金じゃこの本は買えないはずなの。どういうことなの? ハナ様、ただでさえプログラムをして知恵熱が出ているのよ。こんな状況で混乱したら大惨事なのよ」


 ハナ様は頭を抱えて横に振る。その様子は超能力が今にも発言しそうなヒロインという感じだった。


「これは新設はBLの伝道師にあってもらったんだよ。他の三冊も選んでもらった」


「保は夢でも見ていたというの? こんな高価で貴重なものを無料(ただ)で上げるはずがないの?」


 ハナ様が疑問を呈する。そんなことを言われても本当のことだから仕方がない。

 このままではハナ様がプログラミングに戻れないので、親切にしてくれた鳳さんのことを話した。


「そ、その淑女は確かに『BLの伝道師』とおっしゃったの?」


 ハナ様が驚愕の表情で確認する。


「あぁ。ほら、これがアカウント」


 と言いながらLIMEのアカウントを見せた。


「おぉ、神よ……」


 ハナ様が俺のスマホを拝み始める。もともと壊れていたと思っていたが、もう宗教の域に達している。


「鳳さんがどうしたの?」


「鳳らいすさん、本名『大森(おおもり)来夏(らいか)』さん。ハナ様がBLの本を買うときに参考にしている同人誌レビュアーだね」


 今まで空気だった部長が口をはさんでくる。だいぶ姉葉ショックから回復したようで、いつものように女子中学生のインスタをあさっていた。俺に解説してくれている間もスマホから目を離していない。

 ちなみに部長はインスタのスクレイピングシステムを作るためだけに、プログラムを始めたというつわものだ。最初はHTMLのスクレイピングがうまくいかなくて何度も泣いたらしい。

 なんでもReact.js(リアククトジェイエス)だと、HTMLのソースコードには出ないのだとか。よく知らんが、そんなことを言っていた。


「なるほど」


「紹介するのよ? ハナ様に連絡先を教えていいか聞いてほしいのよ?」


 ハナ様は(鳳さん)との交信手段を欲していた。一応、聞いてみる。


 しかし、なかなか返事が返ってこなかった。

 ハナ様はさっきから部屋の中をうろうろ行き来している。もちろん、その間にプログラミングは一文字も進んでいない。ハナ様は赤べこ(レッドブル)の大量摂取せいか、目が血走っているので、本当に怖い。


「まあ、向こうは社会人だし、俺たちみたいに暇ではないと思うよ」


 暇ではない人が平日の夕方に同人誌ショップにいるかと言えば、いないと思うのだが、ここは適当な理由をでっちあげてハナ様をプログラミングに戻そうとする。


「そうね。ハナ様はじっと耐え忍ぶのよ」


「プログラミングでもして、気長に待ってなよ」


「神から授かった本を先に読むのよ? 神からお告げがあったときにスムーズに返信したいのよ」


 ハナ様は自分の席に戻ると、BL本を読み始めた。

 部長も開発している様子はないし、本当に間に合うのだろうか、このシステム開発……と疑問に思ったが、俺ができることはないので、俺もスタッフ本を開いて読み始めた。五千円もしたのだ。全部暗記するぐらい読み込むぞ!


午前4時に読んでいただいている方、ありがとうございます。

これからもあなたをターゲットに書いていきます!

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