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突然ですが、我々には部費がない  作者: 小鳥遊七海
図書部の受付システム開発
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BL本を買いに行く男の子

「保はバカなの? 死ぬの?」


 ハナ様はご立腹だ。


「で、でもさ、レコメンドはアプリの機能だし、ハナ様が作る部分は増えないじゃん」


 俺は悪くない。なんでハナ様が激怒しているのか理解できない。部長が作るところだろ?


「ハナ様の話を聞いてなかったの?」


 ハナ様が今まで見たことがない冷たい目で見てくる。日本人形のような容姿と相まってかなりゾクゾクする。これがファンタジー小説なら俺は凍っていたに違いない。


「保くん、レコメンドエンジンはサーバーにあって、アプリは結果を受けとるだけだ。しかも、(それがし)の作る部分はない」


 ヤバい。コンペの下調べとミーティングの時に、よくわからんなあ、と思っていたが、大事なところが分かっていなかったようだ。


「保はどう責任取るというの? 勝手なことしてシステムの納期が守れなかったら作っても意味ないのよ?」


 俺はもはや謝るしか(すべ)を知らなかった。


「ごめん! 本当にごめん!」


 手をあわせて必死に拝み倒す。

 そんな俺を見て、「はぁ」とため息をついた。

 許してくれるのかな?と思って顔を挙げると、ハナ様はキーボードを持ち上げていた。


「バカは死なないと治らないのよ?」


 ハナ様は本気だ。この台詞はハナ様が好きなBL作家がよく好んで使う台詞で、「バカは死なないと治らない。BLは死んでも治らない」というものだ。BLに関連付けされているときは、ハナ様は狂信者もかくやと言う実行力を持つ。


「待て! 待って! ハナ様!」


 部長が止めに入ってくれる。


「こんなんでもいなくなると外界と通信が出来ん。ここは保に貢物をさせて気を鎮めてくれ」


 その台詞を聞いたハナ様はニヤリと笑った。これは何か悪いことを思い付いたに違いない。


枝里(えださと)華詩(はなうた)勅令(ちょくれい)をもって命じる。BL本を一万円分、同人誌ショップ(とらのあな)で買ってきなさい!」


 やばい。勅令とか、拒否権皆無。陏身保命(ずいしんほめい)しちゃう。


「新作エロゲのために取っておいた一万円(虎の子)が……」


「諦めろ、保くん」


 部長がガックリと項垂れる俺の肩に手を置く。


「部長、一緒に買いに行きましょう」


「断る」


 くそ! 所詮は部長か。

 俺は立ち上がると、汚れた膝を払った。


「買ってきますよ。ダブったら勿体無いので、買うときに写真を送るんで、ちゃんと選んでくださいよ」


「まかせてなのよ? ハナ様は宗川保(サーバント)に優しいのよ?」


 サーバントにもエロゲを買う権利をください、と言いたかったが、却下されるのは明白なので黙っておく。


「じぁ、行ってきます」


「いってらっしゃいなのよ」


 二人に見送られながら、俺は秋葉原に向かった。




 超久しぶりに来たな……。秋葉原自体は何度も来ているけど同人誌ショップ(メロンブックス)は久しぶりだった。

 さて、BLのジャンルはどこにあるかなぁ。久しぶりだし、買い物は最後にして新刊を見に行こう。最近はアブノーマル系が多いときくが、俺はいちゃラブ(あまあま)が大好きなので、そっちのオリジナルがありそうな方へ歩く。


 棚には薄い本が並べられたている。大体五百円から千円の価格帯が多い。中々、良作を思わせるようなデザインの表紙が並ぶ。


「え? まだ発売していないゲームの同人誌まであるの?」


 数少ないオリジナルを過ぎたところに、俺が待ちに待っている「はじめてのおにぃちゃ」の同人誌があった。


「おいおい、レベル高いな」


 独り言をいいながら本の近くによる。本を手に取ると、レベルが高い理由がわかった。


「スタッフ本じゃないか、これ!」


 スタッフ本とは、「はじめてのおにぃちゃ」の製作スタッフがゲリラ的に出した同人誌だ。スタッフだけあって、イラストはオリジナルそのものだし、ゲーム製作の裏事情的なことまで載っているファンなら堪らない一品だ。

 俺はノータイムで本をもってレジに並ぶ。

 並んでいる途中でBL本を買わなきゃと本来の用事を思い出したが、レジ前にある新刊を適当に取ればいいやと思い直した。


 俺の番になったので「これと、適当にBL本を一万円以内で見繕ってください」と店員さんに渡した。


「すみませんが、当店ではBLジャンルは取り扱っておりません」


「え?」


 そう言えば店内には男しかいなかった。


「あ、じゃあ、これだけで」


 俺はしどろもどろになりながら会計を済ませると店を出た。

 そして、ふと考える。俺はBL本を一回もかったことがない。そもそもどこに売っているか知らなかった。

 同人誌ショップにくれば全部のジャンルがあると思っていたが、これはジャンルごとにお店があるパターンではないか?


 仕方ないので検索エンジンに頼る。同人誌ショップの良し悪しまではわからないが、仕方ないだろう。


「近いところは……ここでいいか」


 近くに別の同人誌ショップ(まんだらけ)があったので、そこに向かう。

 店にはいる前から異界に来たような雰囲気を感じる。店の前にいるのは女性だけ。店の中に入っても女性だけ。しかし、本に書いてあるのは男性だけだった。

 さっきの同人誌ショップ(メロンブックス)とは大違いだ。俺は完全にアウェイの空気の中、新刊を選ぶ。

 さっき、スタッフ本を買ってしまったので、計算しながら買わないとならない。


「あ、あの」


 隣で新刊を見ていた女性が話しかけてくる。


「それ、譲ってくれませんか?」


 俺は手に持った本を確認すると、どうやら最後の一冊だったようだ。


「お、お礼なら何でもしますんで……」


 女性は洒落気がなく、化粧も最低限で、髪も後ろで縛るだけという典型的な婦女子だった。何でもすると言われれば、大きな胸に目がいってしまうが、相手はBL好きである。期待は出来ない。


「わかりました。どうぞ」


「あ、ありがとう……」


 女性は凄く嬉しそうに受け取った本を胸に抱いた。


「その代わり、オススメのBL本を五千円くらいで選んでくれませんか? 俺、BLはよくわからないんですが、妹に頼まれまして」


「なるほど、わかります」


 恥ずかしくてBLが好きって言えないんですね、と言いたそうな顔で頷く女性。

 違います。


「じゃあ、BL伝道師(エヴァンジェリスト)(おおとり)らいすが選ばせて頂きます。因みにどんな系統が好きですか?」


 そう言えばハナ様がどんなジャンルを読んでいるか知らないな。我々、お互いの趣味には不干渉だからな……。


「いちゃラブ系でお願いします」


 いちゃラブ系ならBLでも読める気がするんだよなあ。


「わかりました。それなら、これとこれ、それにこれですね」


「はや!」


 あっという間に揃えてしまう。こいつ只者ではない(さっき、伝道師って言ってた)


「す、すごいですね」


「BLなら任せてください。この時間帯はいつもこの辺をうろうろしているので、見かけたら声をかけてくださいね。本を譲っていただきまして、ありがとうございました。このご恩は忘れません」


 大げさな、と思ったけど、本人にしたら重大なことなんだろうな。俺も勧められた本を買って帰るか。






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