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突然ですが、我々には部費がない  作者: 小鳥遊七海
生徒会の野良アプリ対策開発
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彩は完璧超人である

 おかしなことがある。彩がいくら完璧超人だからと言っても高等部一年の未成年なのに、保証人大国の日本でひとり暮らしているとは思えない。


 フランスの寮を出たのなら、我が家に戻るのが予測される正しい結果である。


 別にさみしいから妹に帰ってきてほしいわけではない。妹がどこにいるのか把握して遭遇したくないだけだ。


 とりあえず、遭遇する前に帰国していたことがわかっただけでもよしとしよう。


 俺は自宅に帰った。


 そして、まず一番に確認することは、エロゲの無事である。エロゲが無事なら俺はそれでよい。


「あった」


 これで妹にエロゲを捨てられた兄という不名誉な事態は避けられた。


 念のために扉を開けた最初のパッケージは普通のゲームにしておく。一見無駄にも思えるこの作業が俺の人生の師匠(たからもの)を守るのだ。


「おい、クソ兄貴」


 不意打ちに俺はビクリと身を固くした。


「彩か……」


 まさか隠すところを見られた訳じゃないよな。


「今、紀子さんのところにお世話になっているから、そのつもりでよろしく」


 なるほど。清華家にいるのか。


「わかった。迷惑かけないようにおとなしくしてるんだぞ」


「大丈夫。クソ兄貴と一緒暮らしたくないし」


「ならいい」


 俺は蓋を閉めて宝箱をクローゼットへしまう。ウォークインクローゼットなので、中はかなり広い。


「なんで何も聞かないんだよ?」


 彩は不満そうだ。スポーツな短い髪をワシャワシャとかきみだしている。切れ長の目はどことなく潤んで黒目がちに見えた。


 相変わらず鍛えられた体は俺と喧嘩しても彩が圧勝しそうである。


「何を聞いてほしいんだ?」


「何で帰ってきたのかだよ」


「そりゃ、日本が彩の母国なんだから、いつかは帰ってくるだろ。そこに理由なんて必要ないだろ」


「……くそ。兄貴がそんなんだから……」


 よくわからない捨て台詞をはいて、出ていってしまった。


 彩が日本に帰ってきるのは、フランス留学が終わったか、それとも挫折したかのどちらかだ。まだ留学期間はあったから挫折したんだと思うが、それを聞くほど俺も空気が読めないわけではない。


 それに挫折した人の気持ちはわかるつもりだ。何を隠そう俺は挫折しまくりの人生だからだ。絵師を目指して挫折し、シナリオライターを目指して挫折し、プログラマーを目指して挫折した。


 もはやエロゲを作るのに関わるのを飽きられていたのだが、そこにハナ様が持ってきたアルバイトの話である。


 挫折したときは目の前が真っ暗になるし、そこから立ち直るのには時間が掛かる。そして、決して他人の声は挫折から立ち直るのには役に立たない。


「彩も自分で立ち直るしかないよ」


 俺は誰にでもなく呟いた。




 いつものようにコンピュータ同好会の部室に行こうとすると、テニス部のコートが目に入った。いつもならそんなに見学する人はいないはずなのに、凄い人だかりだ。


 気になって近寄っていくと、どうやら彩とテニス部の男子生徒が試合をしているらしかった。


 男子生徒もかなり健闘しているようだが、疲労の色は隠せない。対して彩は汗こそかいているものの顔には余裕が浮かんでいた。


「手を抜いているな……」


 彩は世界レベルの実力の持ち主だから、手を抜いても問題がある訳じゃない。男子生徒が稽古をつけてやる的な流れで彩と試合していたらの話だが。


 試合は最後まで続かなかった。男子生徒の足が釣ったようだ。男子生徒は最後まで続けようとしていたが、回りの生徒に止められていた。


 彩は男子生徒に近寄ると手を差し出す。その手を受け取って立ち上がらせると耳元で何かを囁いた。


 男子生徒は驚いたようだが、顔を赤くして去っていく彩を熱のある視線で見ていた。


 なに、あの男前。


 一言で異性を落とすとかさすが情熱の国フランスで長いこと生活したことある。俺にもそのスキルを分けてほしいところである。


 テニスコートから出たところで彩は俺に気がつくと、こちらに向かって歩きながら汗をぬぐう。ますます男前である。


「兄貴、見てたのか」


 一応人前では「クソ」を外してくれるらしい。


「見事な指導テニスだったな」


 囲碁には指導碁というのがあるので、それのテニス版だろうと、適当な名前を着けてみた。


「なんだ、それ。まあ、テニスを教えていたのは確かだけどな。まあまあ、見込みあるけど、もう少し体を鍛えなきゃダメだね」


 みんな、彩ぐらいの鍛え方したら大変なことになりそうだ。


「兄貴もテニスしなよ。小さい頃、凄いうまかったでしょ?」


 出た。


 俺はこれが苦手なのだ。


 俺は彩にどう言い訳しようか考え始めた。

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