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突然ですが、我々には部費がない  作者: 小鳥遊七海
生徒会の野良アプリ対策開発
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ヤンデレはこうして作られる

俺がまりなと一緒に話をしようと思っていると、スマホが鳴動した。


 なんだろうと思っていたら、紀子からの着信だった。


「ちょっと悪い」


 まりなに断って俺は電話に出る。


『保! いつまでアルバイトを休むつもりなのよ!』


 開口一番怒鳴られたが、俺ももうやめたいのだ。はやくアルバイトへ行きたい。


 まりなとまだ話せる雰囲気ではあるが、ここでやめてしまおう。


「わかった。すぐに行く」


『絶対だからね! 私、初のエッチシーンを担当させてもらえたんだから、イベントシーンのイラストをちゃんと見てね』


 なんと、それは楽しみである。あの真面目な紀子がエロゲのエッチシーンのイラストを描いたのだ。これが萌えなくてなんという。


「約束する」


『じゃあ待ってる』


 電話を切るとまりなの顔が険しい表情になっていた。


「まりなと話しているのになんで電話に出るんですか?」


 抑揚のない詰問口調だ。目は感情がなく冷たい。まるで俺をごみとでも思っているようだった。


 これだからリア充は困るんだ。


 自分たちの常識に照らし合わせてずれているものを認めない。世の中はダイバーシティが重要だと言われているのに大半のコミュニティではそんなことは知ったことではない状態だ。


「保先輩はまりなのこと興味ないんですか?」


「興味はある。しかし、それと電話に出ることは別だ」


「保先輩はまりなだけを見てくれればいいんです」


 小学生でこの迫力出る。まりなは役者をやってもいいところまでいけるのではないだろうか。


「悪かったよ。少し話をしたら解散しようか。俺も用事ができたし」


「は!?」


 その言い方! やばい。オタクが一番委縮するヤンキー的な言い方だ。俺のまりなへの好感度は一気に下がった。


「その言い方、やめてくれないか……」


「なんで?」


「怖い。ただただ怖い」


 俺は正直な感想を伝えた。まりなはびっくりしたような顔をして小さく「ごめんなさい」と言った。


「でも、保先輩がいけないんですよ。まりなって嫉妬深いじゃないですか? そんな嫉妬深いまりなの前で他の女の子と電話なんてありえないですよー」


 まりなの都合など知ったことではない。コミュニケーションスキルがない俺に言われても意味不明な言葉にしか聞こえない。


「なあ、まりな」


「はい」


「お芝居の練習でもしているの?」


 さっきからコロコロ変わるまりなの口調、それに俺に好意を持っているという設定。これらは現実的にはありえない。漫画なんかでは多重人格障害や変な男の趣味の美少女がいたりするが、現実には一分の可能性すらない。


「保先輩にはかなわないなぁ。こうやって変な小学生を演じていれば二度と話をすると考えないと思ったのに」


 俺にはどれが本物のまりなかわからない。わからないからと言って理解する気もない。なぜなら俺はエロゲ開発の方が重要だからだ。


 だが、ひとつだけわかったことがある。


「お前、寂しがり屋だろ?」


 そのセリフにまりなは真っ赤になった。そして、何かを言おうとして口を開けたが、何も出てこなかった。口をパクパクしているだけだ。


「アンや椿に怒っているなんて嘘だな? 今でもアンや椿と話をしたいんだろう。どうせ、初等部の分際で大人っぽいモデルなんかやっているもんだから、初等部らしい扱いなんて受けてないんだろ。周囲から一人前として扱われると言えば聞こえがいいが、それはまりなの未熟な精神では耐えられるようなことじゃない。色んな人格や色んな男性に興味を持つことで、傷ついても捨てられる『自分』を作り出し、それを使い捨てながらだましだまし生きてきたんだろ?」


 俺は心理カウンセラーでもなければ心理学者でもない。


 だから、この推論があっていても間違っていても気にしない。


「だったらどうだっていうんですか!」


 まりなは否定をしなかった。ただ今の自分を責められているように感じて怒っていた。自分じゃどうにもならないことを指摘されると人間は怒るようにできている。俺はまりなの頭を撫でた。


「どうもしない。まりなは周囲の期待を裏切りたくないいい子だということは見ればわかる。生き方を変えろというつもりもない。人の人生に口出しするほど俺も生きてない。ただ言えるのは、俺みたいに自分の好きなことを優先して生きるのも生き心地はいいぞというだけだ」


「自分の好きなことを優先……」


 初等部にはわからんかもしれん。いつだって自分のしたいことをして生きていると勘違いしているのだ。


「じゃ、じゃあ、モデルしているけど、恋愛に生きてもいいのかな?」


「恋愛を優先した結果、モデルをやめる羽目になるかもしれない。だが、人間はいつも同じ状況にいられることができるわけじゃない。恋愛をやってみたければそうすればいいんじゃないか?」


「そうですね! じゃあ、保先輩と付き合います!」


 まりなはもう取り返しがつかないぐらい精神を病んでいたらしい。そして、寂しい女の子にやさしい言葉をかけると好意を持たれやすいということに気が付いた。


 誰だよ、「イケメンに限る」とか言ったやつ。寂しい女の子は割と誰でも好きになるんじゃないか。ただアクションするタイミングが重要なだけなんだ。


「悪いが俺には……」


 と言いかけたときだった。


「知っています。もう彼女がたくさんいるんですよね?」


 誰から聞いたんだ。


「でも、いいんですよ。私は好きにすることにしたんですから。付き合ってくれますよね?」


 だから初等部にふさわしくない迫力で迫るのは止めろ。


「では形式上ハーレムに入れてやる」


「やったー! 保先輩、末永くよろしくお願いいたします」


 丁寧にお辞儀するまりなを見て俺は早くおもちゃに飽きてくれればいいなといじめられっ子の気分になっていた。


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