五十鈴は成田と違ってかわいい
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道山の妹はいつも初等部の校舎の中庭にいるらしい。ものすごい難易度の高いアクションである。
俺はすでに高等部になっている。そして、初等部の校舎とはその名の通り初等部のガキしかいないのである。
そんな中、道山の妹に話しかけるとか、どう考えても「おまわりさーん、こっちです!」案件だ。
かろうじて犯罪ではない理由がつくとしたら、知り合いの妹であり、元カノの友達であるということだけだ。元カノの友達の方は話したらやぶ蛇になることはコミュニケーションスキルがない俺でもわかることである。
「五十鈴だな」
そんな難易度の高いアクションを空気を読まず実行する俺は格好いいのではないだろうか。
「話は聞いています。保さんですね」
誰から話を聞いているのかわからないが、話が通っておりなんとなく安心した。
「たしか初等部で彼女になってくれる女子をお探しとか?」
え?! 誰から話を聞いたの?
「ふふふ。嘘ですよ。保さんは噂通りかわいいですね!」
お茶目に笑う。成田と違ってヤクザ感がまったくない。ショートカットにメガネ、よく笑うけど、口を手で隠すおしとやかさ。とても初等部とは思えなかった。
「まあ、保さんにその気があるなら付き合いたいとは思いますけど」
「友達でお願いします」
本当は初等部の友達だっていらないぐらいなのだ。リップサービスである。
「サイトの話でしたらお断りいたします」
「サイトはどうでもいい。とりあえず、五十鈴の話を聞かせてくれ」
「私の話?」
「ああ、五十鈴には興味がある」
「えっと、それは異性としてでしょうか?」
「違う。人間としてだ」
「人間として……」
「アンや椿を訳もなく貶めたりしないのだろう?」
「私がアンちゃんや椿ちゃんを貶めているというのですか?」
俺は大きく頷くと五十鈴の横に座った。
「俺以上のクズは見たことないからな。参考にさせてもらおうかと思って」
きつねの話によれば五十鈴に限らず三人組は正しいことをしていると思い込んでいるという。だから、自分たちが間違えていると気がつけば、三人組は操られた状態から脱する。そうなれば三人組を操っていた人物にたどり着くことが出来そうだといっていた。
「クズ……私たちは何も間違っていません!」
俺は首をかしげた。
「間違っていないのに、アンや椿は苦しんでいるのか?」
「苦しんでいるわけありません」
「アンや椿に確認したのか?」
五十鈴が最近アンや椿とコミュニケーションをとっていないのは確認済みだ。
「そ、それは……私たちと繋がっていると思われたらアンちゃんや椿ちゃんに迷惑がかかるし」
「誰に言われた?」
「え?」
「迷惑かどうかなんて本人以外にわからんだろう? そんな適当なことを言ったのは誰なんだ?」
俺は重ねて問う。五十鈴は思い込みを維持するように行動を縛られている。そして、それは五十鈴が自分では気がつかないうちに刷り込まれていたのだ。
「迷惑がかかると思ったのは……」
五十鈴は考え込んでいる。
「誰に言われたんだろう?」
おばあさんか! 初等部なのに物覚えが悪すぎるだろ!
「まあ、本人に聞いてやれよ。アンなんか友達減って死にそうな顔していたぞ」
「うそ!」
「嘘だ。だが、友達減って悲しんでいたのは本当だ。いつでもいいからアンや椿と話をしろ。本当に迷惑かどうかは本人から聞けよ」
ここだけ聞いたら俺はいい人に見える。
「そうですね。保さんの言うとおりです。話してみます」
「じゃあな」
「あ、あとのふたりにも同じ話をしてくれませんか? 私から話しても裏切り者とか思われそうですし……」
「わかった。お兄ちゃんに任せておけ」
「はい!」
俺の去り際に五十鈴が「保さんが本当のお兄ちゃんだったらよかったのに……」と成田が聞いたら俺を釘バットで殴り殺しそうな台詞が聞こえた。




