ハナ様の秘密
コンピュータ同好会の部室では、依然と同じように部長は写真の鑑賞、ハナ様は読書、俺はエロゲをプレイしていた。
風紀部のシステム開発で得られたお金は月額五万円。図書部の受付システムは女子コンピュータ部と半々になってしまったのだが、部費として月額七万五千円が入ってくることになった。その中から部室使用料として生徒会に三万円持っていかれてしまうが、月額四万五千円もの活動費が手に入ることになったのだ。
当初の一人頭五万円と比べたら少ないが、働いて得たお金だと思うと、働かないで得た金額より多く感じてしまう。使うのがもったいないぐらいだ。
「部長、部費はどうやって分けるんですか?」
「某は風紀部のシステム開発にはあまりかかわっていないので一万円、二人は一万五千円ずつ、残った五千円は予備費ということにしようと思っている」
すごい。一万五千円ももらえるとは。もうエロゲ買うしかないね!
「ハナ様はもう少し稼ぎたいのよ? 保はお仕事取ってくるのよ?」
「そうは言われても仕事なんて都合よく転がっているものではないしなぁ」
「なければ作ればいいのよ? システム営業は必要としていないものまで売りつけるのがお仕事なのよ?」
ハナ様は姉葉からあまりよくない知識を植え付けられたようだ。必要としていないものまで売ってお金を取ったら普通怒られるよね。
「じゃあ、このエロゲ終わったら探してみるよ」
「面白そうなエロゲなのよ?」
ハナ様は俺のパソコンの画面に興味があるようだ。
「ハナ様がやっても面白くないと思うけど?」
今やっているエロゲは少し前にはやった育成ものだ。
異世界に転生した男子中学生が異世界転生ものよろしくチート能力を発揮しようとしたが魔法が使えず落ちこぼれていく。宮廷魔導士を何人も輩出する名家に生まれながら魔法が使えないことで王都の商人のところへ丁稚奉公へ出される途中の飛空船が墜落。お忍びで載っていた魔力だけが高い姫様と無人島に流れ着く。
魔法は使えないが魔法の論理体系に詳しい主人公と、魔法がよくわからないが魔力だけが高いお姫様の無人島サバイバル生活から始まる「戦略級美少女魔導士の育て方」というゲームだった。
育成ゲームなので姫様のパラメータを上げることが目的なのだが、上げるパラメータによって使える魔法系統が異なってきて、途中で挟まれるミニゲームでその魔法を使ってクリアーしなければならないパズル的な要素もある。
「その魔法使うところはかなり面白そうなのよ」
ミニゲームはリアルタイムで進行し、無人島を抜けた後は祖国と軍事的に対決する国で傭兵として活躍することになる。当然戦争の場面になるのだが、そこで無数の兵隊がマップ内を動き回り、効率よく兵士を撃破していくのだが、ここで範囲魔法など使おうものなら、敵は散開戦術やゲリラ戦術に切り替わってしまう。そうなると範囲魔法を極めても無駄になることが多いので、一人一人をやっつける魔法に切り替える必要が出てくるのだが、敵も強くなり低レベルの魔法では倒せないという袋小路にはまるのだ。
俺がハナ様に熱く語るとハナ様は何か考え付いたようで、「ありがとうなのよ?」とだけ言って席に戻っていった。
「ハナ様、なんだったんだろう……?」
このエロゲの無人島の部分では当然姫様とエッチもできるのだが、好感度が上がりきらないままのエッチはその後のステータスの上昇に悪影響を与える。無人島でのイベントをスルーして好感度を高くし、パラメータを上げやすくするのもこのゲームの攻略法の特徴となっている。
「ついに来た」
俺の目の前にはトゥルーエンディングと名高い主人公が魔法を使えるようになるシーンが表示されている。ある条件を満たすと主人公は魔法が使えるようになり、姫様と一緒に新しい国を興すのだ。
「長かった」
エンディングを見終えた俺は感慨にふける。
ふと見るとハナ様はまだ席にいた。何やら顔がにやけている。
ゆっくりと後ろに忍び寄ってみると、そこには風紀部員の志染と成田が得も言われぬ雰囲気で文字通り乳繰り合っているところだった。
ハナ様は同性不純交友禁止が始まる前に動画を集めまくるつもりなのだろうか。
しかし、成田とな……。成田は龍ヶ崎が好きなんだと思っていたが、まさかの裏切り者だったとは。これで動画が消えた理由もはっきりした。あれは成田が消したんだ。
「ハナ様」
「ひゃうわっ!」
変な声でハナ様が鳴く。
「急に声をかけちゃダメなのよ? いえ、それ以前に乙女の後ろに回るのは犯罪なのよ? ドキドキするのよ? 吊り橋効果で保のことを好きになってしまうかもしれないのよ?」
「その動画、俺にもコピー頂戴」
「保……ついに目覚めてしまったのよ? さらにドキドキするのよ? もうこれは恋としか言えないのよ」
「お約束はいいから動画をくれ。ちょっと成田しめてくるから」
ハナ様は特に抵抗する様子もなく動画を共有してくれた。
俺は動画を携え、風紀部の部室に向かった。
風紀部の部室には成田しかいなかった。なんか俺が来ることをわかって待っていた魔王のようだ。
「来たか、宗川」
「成田、お前が裏切り者だったんだな」
部長は最初から同性愛者だった。風紀部員は殺害現場を提供していた。そして、安全な殺害現場の情報を提供していたのは成田だったのだ。
この学園で行われていたこととは被害者は誰もいない同性愛の奨励に過ぎなかった。
ただし、問題はこれを風紀部員が斡旋していたということだ。
「枝里先輩が余計なことをしなければ、この学園はパライソのごとく永遠に栄えるところだったに。BLの何が悪い! ただ普通の恋愛じゃないか」
言葉はあっているが、世の中には限度というものがある。周囲の理解を得ずに「権利だから」と突っ走ると権利が制限されてしまうことがある。一度制限された権利は二度と回復しない。少なくとも人間が生きているうちには。
だからとはいえ、我慢しろとは言わない。俺も我慢しないからな。
だからTPOを考えろというだけだ。
「部長のように周囲の理解を得るために機を見て頑張っている人を無理やりカミングアウトさせてまで仲間を増やしたいというのは理解できないな。個人の自由に任せろよ」
「そんなことをしていたら、いつまでも俺たちの立場は向上しない。所詮世の中は多数派が牛耳るんだ」
成田はそこまで言ったところで涙を浮かべる。
「俺は……俺のような……かわいそうな奴を……」
言葉が切れ切れになっていく。
その様子から俺は成田に何があったのか察してしまったが、ヤクザまがいの怖い相貌の男がかわいく泣くと気持ち悪いなとしか思えなかった。
「成田、お前がやるべきことは事実上の基準を作ることじゃなくて、風紀部員であることを利用して、理不尽に虐げられないようにすることだろ?」
俺はとりあえず、正論を言っておいた。
「宗川……」
なぜか尊敬にまなざしになる。俺はスマホを取り出すと動画を見せた。
「もう安全地帯などないということか……」
そういうことだ。諦めろ。
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