保は退部
本日十話目です。
「さて、保は退部よ」
女子コンピュータ部の部室に来たのは紀子だった。いつ見てもツインテールである。髪を下ろしたら大人っぽさが増すと思うんだけどな。高等部二年にもなってツインテールはないだろう。単なる俺の趣味ではあるが。
「いきなり来て何を言うんですか」
紀子のいきなりに慣れすぎていた俺は突っ込みを入れた妹川さんに新鮮さを覚えた。いや、そうだよな。普通は、突っ込まれる変な行動だよな。
「わからないの? 保は男子なの。つまり、女子コンピュータ部には入れないの!」
ドヤ顔である。今日は我孫子はついてきていないようだ。
「それで、我孫子は何て言ってたんだ?」
「え? 特に常磐くんには相談してないけど……」
なるほど、だから計画が杜撰なのか。我孫子はよくこのアホ娘をサポートしている。他の生徒会役員は紀子の暴走に付き合ったりしない。
それにしても今日は我孫子はどうしたのだろうか。風邪か?
「女子コンピュータ部は名前だけで、男女混合の部活動として申請が受理されています。お帰りください。生徒会長」
あれ、妹川さんがいつもとくらべて棘があるような話し方だ。紀子はもう涙目だ。中等部女子に泣かされるとか豆腐メンタルにも程がある。
「それに保さんは大事な人です。生徒会長には渡しません!」
俺をかばうように妹川さんが紀子との間に入った。うれしいことを言ってくれる。
「え? 保はこの子と付き合ってるの?」
紀子がめちゃくちゃ震える声で質問してきた。なんか生き甲斐を奪われたおばあちゃんみたいだ。
「あさちゃんに失礼なこというな。付き合っているわけないだろ。俺は二次元ラブなのだから安心しろ」
「でも、この子、かわいいよ。あと二年もしたらきっと凄い美人になるし、保は絶対に浮気するよ……」
あと二年したら俺はこの学園を卒業している予定なのだが、紀子は俺を留年させたいのだろうか。
「え? そんな……」
紀子に誉められて悪い気はしなかったのか、妹川さんは照れていた。
「保……ハーレムを築いてもいいけど、平等に愛してね……」
ハーレムとか現実にありえないことを言い始めた。現代日本人なんていう独占欲の塊がハーレムに所属するとか出来るはずがない。
「俺はハーレムを築くつもりもリアル恋人を作るつもりもないぞ。面倒だし」
こいつらは俺の二次元愛が分かっていない。
「え? 保さん、私のことが好きなんじゃ?」
一度も好きなんていったことはないが、これはあれか「友達として好きか?」という意味で聞かれているのか?
「好きだよ」
「私のことは?!」
紀子も聞いてくる。
「好きだよ」
好きじゃないやつと友達している意味もあるまい。何を当たり前のことを確認しているのか。
「保さん、気が多いんですね……」
「でしょ。私、これで幼い頃から苦労してるのよ」
「わかります」
ふたりは顔を見合わせて納得していた。よくわからんが、「友達として好きか」という意味ではなかったようだ。しかし、俺が好きなものは二次元だと断定しているので、問題はないだろう。
「ところで、姉葉は?」
「ともなら、斉藤さんと話があるとかで、コンピュータ同好会へ行っています」
「紀子、我孫子はどうしたの?」
「常磐くんなら予算案作成で死にそうになっているわ」
この二人の暴走を止めてくれる安全装置はビジーだったらしい。なんか、二人の相手をするのは面倒なので、俺もコンピュータ同好会へ避難しにいくか。
「俺も荷物取りにコンピュータ同好会行ってくるよ」
「手伝いましょうか?」
「手伝わない方がいいわよ」
妹川さんか手伝いを申し出てくれたが、紀子が止めた。いい判断だ。荷物はパッケージから過激なものも多いからな。パッケージ見せただけでセクハラで訴えられかねないからな。
「じゃあ、いってらっしゃい」
二人に見送られて俺はコンピュータ同好会へ急いだ。




