女子コンピュータ部に男子がいてもいいのだろうか疑惑
本日九話目です。
「宗川先輩♪」
俺の目の前には極上の美少女が立っていた。髪はメインヒロインのようにセミロング。ふわっとしたカーブを描き方の下まで落ちるやわらかさ。瞳の中に光の宿る生気にあふれる目。胸の下で絞られ、胸を強調するようなデザインながらもふわっとした縦のギャザーで清楚な感じをアピール。
何よりも何百回と練習したであろう張り付くような笑顔。
誰だかもうわかっているが、ここはあえてテンプレート通りに尋ねるしかなかろう。
「え? 誰?」
「いやだなぁ、私ですよ! 私」
「え? たわし?」
「ふ、古」
「いいんだよ。俺ぐらいの年代はこれで笑えるんだよ」
「まあ、斉藤ですよ。由岐ちゃんにお金頂戴って言ったら、お金使わずにこれですよ。世の中、スキルですね。女子力は最強のスキルです」
「ところで、俺でもドキドキするぐらいの美少女になって何するつもりなの?」
正直に感想を述べてみた。
「そりゃ、再び松本さんを私に振り向かせるためですよ」
斉藤は俺の攻撃を無視した。意に介していないようだ。
「で、行ってきたの?」
「まだです。勇気がでません。宗川先輩、一緒についてきてください」
「俺、部外者なんだけどいいのかな……」
「部外者?」
「斉藤が部室を出て行ったあと、再びコンピュータ同好会と女子コンピュータ部へ別れることになったんだが、俺は女子コンピュータ部の部長をやることになったんだ」
「何を言ってるんですか? 女子コンピュータ部へは男子は入れないんですよ? 宗川先輩、おちんちんとっちゃったんですか?」
美少女の姿で言われると破壊力高いな。本当に俺はなんてことを引き受けてしまったのだろうか。
「とりあえず、面白そうだからついていくことにする」
「はい。じゃあ、お願いいたします」
斉藤を伴って、かつての俺の聖域に向かった。
途中で姉葉と会った。美少女に変身した斉藤を見て、すごい驚いていたようだが、平川先輩に会いに行くというと、一緒についてくることになった。
「それにしてもすごい美人になりましたね。元々斉藤さんは美人になるとは思っていましたが、これほどとは」
「そうだ。写真に撮ってやるよ」
「え……遠慮します。絶対に変なことに使われるもん」
つ、使わねーよ。たぶん。
「じゃあ、私が取りますよ」
そう言って突然何枚も撮影し始める姉葉。シャッター音が連射モードになっている。
「そんなに撮影するの?」
「当たり前じゃないですか、何枚も取ってその中から奇跡の一枚を選択するのは常識ですよ」
どこかのコスプレイヤーのようなことを言い始める。斉藤もノリノリだ。
最後に姉葉とツーショットを取って終わったようだ。
「あとで送りますね」
「うん。お願い」
なんか、仲良くなっている気がする。一時期は平川先輩をめぐって争っていたと思うんだけどなぁ。何があったんだろう。
俺が理由を考えている間に、コンピュータ同好会の部室についた。
平川先輩はハナ様から借りたであろうBL本に夢中だ。以前は絶対に読まなかったBL本を熱中して読んでいる様子は俺から見ると異様だった。
「松本さん。あなたの斉藤が来ましたよ」
精一杯、かわいさを作ってアピールする。だが、平川先輩は見もしなかった。
「こうなったら実効支配です」
何をするかと思ったら、平川先輩の膝の上にまたがった。平川先輩はBL本を手前に引き寄せて斉藤との間で読み始めた。
「こっち見てください!」
斉藤は乱暴に本を取り上げ机の上に置く。それでやっと平川先輩は斉藤を見た。
「誰でござるか?」
初見じゃわからないよな。
「私を忘れちゃったんですか?」
斉藤はちょっと悲しそうだった。いくら変身したと言えども平川先輩ならすぐに自分のことをわかってくれると思ったのだろう。
「斉藤くん……?」
少しの間の後、斉藤は平川先輩を抱きしめた。
「松本さん! 正気に戻ったんですね!」
うれしそうに声を上げる。実に感動的な場面だ。
「いや、どいてくれないか」
空気を読めない平川先輩め。見ろ、斉藤が完全に泣いてしまったじゃないか。
泣いている斉藤を気にもせず平川先輩は斉藤を膝の上からおろした。
「どうしたら正気に戻ってくれるんですか? お尻触らせればいいですか? 胸ですか?」
あまりにも厳しい現実に斉藤が混乱し始めた。
「某は今正気なのでござる。今までがくるっていたのでござるよ」
どっちもくるっていると思ったが空気の読める俺は黙っていた。
「斉藤さん、もう諦めましょう?」
姉葉が斉藤を慰める。落ち込む斉藤の方を抱きよせ、慰める姿は絵になっていた。
「ともー」
感極まって抱き着いた斉藤を、姉葉はだらしない顔で受け止める。
俺はなんとなくわかってしまった。部長をこうした犯人は姉葉なんじゃなかろうか、と。
ついに姉葉のガールズラブフラグを回収できました。




