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突然ですが、我々には部費がない  作者: 小鳥遊七海
風紀部の防犯システム開発
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斉藤は誰がために変身する

本日八話目です。

 平川先輩が襲われた。そして、なぜか男子が好きな男子になってしまった。あんなに好きだった中等部女子の口づけも嫌がる始末だ。

 そして、その一部始終が記録されていたと思われる動画は大事なところが削除されている。

 動画自体は一分から五分の短い単位でひとつのファイルになっている。だから、クラウドストレージサービスにアクセスできるものなら、スマホからでも数秒で削除可能だ。

 クラウドストレージにアクセスできるのは、龍ヶ崎、成田、ハナ様、田貫、そして、俺だ。ハナ様は動画を興奮してみており、平川先輩が襲われたシーンを見て絶賛している。今のところ、一番怪しい。


「保がそんなに疑うというのなら、ハナ様のスマホをチェックすればいいというのよ? スマホをチェックすれば操作履歴がわかるのよ?」


 俺はハナ様のスマホを受け取ると操作履歴をチェックした。確かに操作した後は見られない。俺はハナ様に貸していた自分のスマホも見てみる。こちらにも削除した履歴はなかった。


「でも、状況を考えると、ハナ様しかいないんだよ!」


 俺は訳が分からない状況にいら立っていた。ハナ様は身の潔白を証明したのだ。だが、いら立ちをぶつける先が見つからず、結局、根拠もないままわめくしかなかった。


「保、落ち着くのよ? 平川先輩が襲われてショックなのはわかるのよ? 平川先輩が好きという自分の気持ちに気が付いて、余計にいら立ってしまっているのよ?」


「俺が平川先輩を好き……?」


 言葉にしてみて初めて気が付いた。


「よく考えたらどうでもいいな。平川先輩が男子が好きな男子になろうとも、俺には関係なかった」


 そうだ。そうなのだ。

 なんか、密室殺人的な流れで、これから推理ものでも始まるような導入だったが、平川先輩は心底幸せそうだし、犯人を捕まえるのは俺の役割じゃないし、俺に実害があったわけではないので、放っておけばいいだけなんだ。

 あー、気が楽になった。


「ちっ、なのよ」


 ハナ様の舌打ちが聞こえてくるが全然気にならない。


「ちょっと、諦めないでくださいよ! 平川先輩はノーマルじゃないと困るんです!」


 斉藤は涙目である。だが、俺に対して敬意を払わない後輩など泣いてもなんとも思わない。


「とももなんとか言ってよ」


 斉藤は俺が味方にならないと理解したのか、同じ境遇の姉葉にすがる。


「私は平川先輩が幸せならそれでいいので」


 苦笑しながら答えた姉葉に違和感を感じた。今まで「松本さん」と下の名前で呼んで親密さをアピールしていたのに、今になって「平川先輩」になっている。そりゃ、いきなり男色に走った平川先輩と距離を置きたいと思うのも無理はないが。


「まあ、そうだよな。結局は平川先輩がいいなら問題ないんだよな」


「話はまとまったか?」


「ああ、今回の件は志染たちが平川先輩と事を致しているのを、『襲われている』と勘違いしたことで起こったことだ。俺たちが早とちりした。手間をかけた」


「わかった」


 龍ヶ崎と成田はそれで納得したようで引き上げていった。


「宗川先輩、私は納得できません」


 まだ斉藤は不満のようだ。


「俺に言われてもな」


「私、頑張ってみるのでお金を貸してください」


 お小遣い頂戴的に手を出してくるが、俺は金を持っていない。部費の管理は女子コンピュータ部から会計をしている由岐(ゆき)朱音(あかね)さんに任せている。もうエロゲやBL本を買うためのお金は部費から出るわけではないので何の問題もなかったためだ。


「由岐さんに後でお願いしておくけど、難に使うの?」


「美少女になります。そして、必ず松本さんを正気に戻して見せます」


 斉藤がやる気になっているときは碌なことがないと学習しているので、ぷぷぷと笑ってやった。


「お前が美少女? それは無理じゃね」


 俺にしてはなかなかひどい言いぐさである。


「いつもはやる気がないだけです! 私だってやる気になればすごいんですから!」


 いつもやる気がない人が良く言うセリフだけに、俺は笑いが止まらなくなった。


「見てろよ!」


 斉藤は捨て台詞をはいて部室から出ていった。


「保はバカなのよ?」


「本当に」


 ハナ様に続けて姉葉まで俺がおかしいと責めるので、斉藤の返信を楽しみにしていようと思う。どれぐらい笑えるのかを。


「ところで、平川先輩は風紀部に入るんですか?」


「いや、某はコンピュータ部の部長に復帰しようと思う」


 なぜに?! やっと部長呼びも慣れてきたころに、何を言っているんだ?


「女子は苦手と言えども、さきほどの態度は捨て置けぬ。やはり、ここは某が部長に復帰して部内をまとめるのがよいと考えた」


「いや、それは願ったり、叶ったりだけど……」


 元々部長なんて望んでやっていたわけではないので、平川先輩が部長に戻ってくれるのなら万々歳だ。


「ならば、女子コンピュータ部のメンバーは退部して、元に戻ります。宗川先輩にそちらの部長を頼めますか?」


 姉葉が訳のわからないことを言い始めた。部長はやりたくないっての。


「今なら『下級生と思ったら同級生だった』を付けます」


「引き受けた」


 即落ち三コマである。

 だって、『下級生と思ったら同級生だった』と言えば、伝説の同人エロゲですよ。ネットでダウンロード販売が主流のこのご時世でイベントでのみ頒布しているので、絶対量が少なく、友達の少ない俺のネットワーク力では手に入らなかったものだ。


「では、コンピュータ同好会は、平川先輩、ハナ様、斉藤さんの三名、女子コンピュータ部は、保さん、以下女子コンピュータ部メンバー六名で計七名で再出発ということでよろしいですね?」


 姉葉が勝手にまとめ始めた。この場に女子コンピュータ部の元メンバーは姉葉しかいない。それなのに勝手に決めてしまっていいのだろうか?


「うむ、それで納得したでござる」


 俺はまた誰かを忘れているような気がしてならなかった。


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