NTRを仕組んだのは誰か
本日七話目です。
平川先輩を助け出した姉葉と斉藤は、平川先輩を連れてコンピュータ部の部室へ戻っていった。
ちなみに衣服が乱れているほかは外見上は何もされたように見えなかった。平川先輩の顔がちょっと赤くなっているのが気になったが。
「なんで平川先輩なの?」
俺はその場に残る風紀部員に訪ねる。もっと襲い甲斐のある人はたくさんいるだろう。
こいつらの行為はハナ様が夢中になって見るほど、耽美系の容姿をしている。男色の中では大人気なんではなかろうか。女にもモテそうな顔してるしな。
「なんのことかしら?」
髪を書き上げながら志染が答えた。ハナ様が夢中になって見ていたときは、こいつは受けの方だったはずだ。
「シラを切っても今回は証人がいるから無駄だぞ?」
「そうかしら?」
志染はなぜか自信たっぷりに答えた。平川先輩が脅されてるとかして証言しないとしても、こっちには動画があるから本当に無駄なんだが。
「何をしていても本人同士の合意があるんだから問題ないだろう?」
金髪の井島も志染に追随した。
「合意?」
井島はあまり頭がよくないのかもしれない。語るに落ちている。合意が大前提の行為に及んだということではないか。
しかもあの中等部女子にしか興味がない平川先輩が合意するわけないだろう。何をいってるんだ?
しかし、この三人には得たいの知れない雰囲気がある。絶対に捕まらない自信を持った悪党と言おうか、悪いことはしていないのだろうが、放っておくとヤバい状況になる予感があるのだ。
「あ、もしかして、平川君はあなたの恋人だったかしら? それは悪いことをしてしまったわね」
ここでそういうことを致していたことは理解できるが、なぜそこに俺が出てくるんだ! 俺がホモに見えるってのか?
「そこは断固として否定しておこう」
「あら、残念……可愛い顔してるから、こっち側だと思ったわ」
背筋がぞわぞわする。同性愛には理解あるつもりでいたが、その価値観を押し付けようとするこいつらの言い方は洗脳か精神支配みたいだ。思わず対抗呪文を唱えるレベルである。
「とりあえず、このことは龍ヶ崎に報告しておく」
「当然ね。こちらからも報告しておくわ」
何を報告するかわからないが、志染は不敵な笑いで俺を見送った。
「松本さん!」
平川先輩は、斉藤の必死の呼び掛けにも反応しない。なにやら虚空を眺めて笑っていた。
「キスでもすれば目覚めるんじゃない?」
俺が適当なことを言うと、斉藤は平川先輩の顔をつかむと、口づけをした。
周囲が「え?」と驚くと同時に、平川部長が斉藤をはね除けた。
「な、なにをするんだ!」
平川先輩にして見れば、中等部女子の口づけなんて夢のような出来事だろうに、心底嫌そうに口を拭った。
「某はもう女子とのふれあいは遠慮したいでござる!」
ものすごい嫌な予感が俺を駆け巡る。まさかまさか。
「某は目が覚めたでござる。これからの時代は男色でござる!」
ハナ様が凄い勢いで拍手している。斉藤は呆然と平川先輩を見ていた。同じ立場であろう姉葉はなぜか笑いを噛み殺している。見る角度によっては泣くのを我慢しているように見えるだろうが、あれは間違いなく笑いをこらえていた。
俺は怖くなった。ヤバい。この精神状態はエロゲでなんとかするしかない。
「失礼する」
俺が「はじめてのおにぃちゃ」を取り出したときだった。龍ヶ崎が部室に入ってくる。成田も一緒のようだ。
「風紀部員と揉めたと聞いた。何があった」
志染たちはあくまでも揉めた呈にしたようだ。
「平川先輩が襲われてホモになった」
俺は端的に説明した。
「それは間違いなのよ? 平川先輩は自ら体を差し出したのよ? それは巫女が神にするような、とても神聖な行為だったのよ?」
「ハナ様は黙って」
俺は切って捨てる。だが、ハナ様がそんなことを言い始めるのに違和感があった。
「まさか、ハナ様、動画が編集してないだろうな?」
「ハナ様は動画を見ていただけなのよ?」
俺はパソコンで動画を確認する。そこにはハナ様と見ていた平川先輩が襲われる場面はなく、双方合意の上で行為におよび、嬌声をあげる平川先輩が映っていた。
「ハナ様……」
「ハナ様じゃないのよ? ハナ様は見ていたけど、編集はしてないのよ?」
嘘を言っているようには見えないが、ハナ様でなければ誰が動画を編集したというのだろうか。
「とりあえず、宗川の言い分を話してくれ」
龍ヶ崎の声で俺は志染の都合のよい方向に話が進んでいるということに気がついた。




