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突然ですが、我々には部費がない  作者: 小鳥遊七海
風紀部の防犯システム開発
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さらわれた王子様

本日六話目です。

「松本さんがいません!」


 姉葉が前部長の平川先輩を探しているようだ。前部長は、平川(ひらかわ)松本(まつもと)というどっちが姓だか名だか分からない名前をしている。


「いないと困ることあるの?」


 俺はない。


「でも、でも、松本さんがいなくなることなんて、これまで一度もなかったんです!」


「そうだっけ、ハナ様?」


「部長……前部長は活動費がなくなったコンピュータ部にいやけがさしたのよ?」


「それはないとしても、部長……前部長も受験生だし、図書館で勉強でもしてるんじゃない?」


「それがいなかったんですよ!」


 斉藤まで混ざってきた。


「図書部の中等部女子で探しまくったんですが、どこにもいないんです! これは事件です! 誘拐事件ですよ!」


 そんな大袈裟な。


「待つのよ、保。ハナ様の灰色の脳細胞(ポアロ)がなにか囁いているのよ?」


 ハナ様は腕組みをして目を閉じた。こうしてみると、本当に日本人形みたいだな。

 急に目を開くと、ハナ様はスマホを確認しはじめた。そして、何やら操作するとスマホを閉じた。


「やっぱり、何でもなかったのよ? ハナ様の勘違いだったのよ?」


 周囲がずっこける中、俺は直感した。ハナ様は嘘を浮いている。しかも、BL絡みだ。最近あったBL案件なとあれしかない。

 俺はスマホを取り出すと、男子更衣室のライブ映像を確認しはじめた。いくつか確認したところで、平川先輩(前部長)が風紀部員に囲まれている映像が目に留まった。


「いた!」


「どこですか!?」


 姉葉と斉藤が詰め寄ってくる。本気で心配しているようだ。俺がスマホを見せようとすると、ハナ様がすばやくスマホを取り上げた。


「邪魔はさせないのよ?」


 ハナ様は格好良く決めたつもりだろう。


「第二校舎の男子更衣室にいる」


 だが、普通に、口で言えばいいだけである。


「わかりました! 急ぎますよ、斉藤さん」


了解(ラジャー)! とも」


 息のあった様子で駆け出していく二人。ハナ様が追いかけて邪魔するかと思ったが、そこまで体力はないようで俺を睨み付けてきた。


「このまま黙っていれば、すごく楽しい動画がとれたのよ? なぜ邪魔をしたのよ?」


 BLのこととなると身内を売るのも平然と行う。ハナ様はもはやBLに魂を売り渡した地獄日本人形(少女)だと言っても過言ではない。


「落ち着け、ハナ様。平川先輩はどっちだ? ×(バツ)の右か左か?」


「何を言ってるのよ? 前部長は右に決まってるのよ?」


「なら、さっきの映像はどうだった?」


「左みたいだったのよ?」


「そうだ。平川先輩の初めてはハナ様がお気に入りのシチュでないとな」


「そ、そうだったのよ? ハナ様ともあろうものが、目先の快楽にとらわれて自分のこだわりを忘れるところだったのよ?」


 キモオタの受け動画が録画されなくてよかったと思った。


「でも、気になるから男子更衣室の様子は監視カメラで見るのよ?」


 そう言いながら、俺のスマホを操作してライブ映像を写す。そして、ミラキャストでモニタに表示した。

 今は俺とハナ様以外いないので、大きな画面で見ることにする。


「平川先輩ピンチだな」


「いい感じなのよ?」


 前部長は風紀部の三人にがっちり押さえ込まれていた。必死に抵抗しているようだが、びくともしない。もう泣いていた。音声はよく聞き取れないが、前部長は「もう許してくれ!」を連発している。

 俺はレイプものは好きじゃない。


「助けに行くぞ!」


 もう遅いかもしれないけど、第二校舎の男子更衣室へ向けて駆け出した。




 当然のようにハナ様は着いてこなかった。ハナ様はBLのことになると見境ないな。もう自分の欲望に忠実だ。

 第二校舎の男子更衣室までは歩いても五分かからない。走れば九十秒ぐらいではないだろうか。

 よく考えたら、先に中等部女子コンビが向かっているのだから、何の問題もないかもしれない。


「歩いていくか」


 俺が歩いて第二校舎の男子更衣室へ向かった。

 しばらくしてたどり着くと、そこにはオタオタする姉葉と斉藤のコンビがいた。まだ突入していないようだ。


「何してるの?」


 鍵でも閉まって困っているのか?


「男子更衣室ですし、入っていいものか迷いまして……」


「そりゃ、緊急事態なんだからいいだろ」


 と言ったものの、俺は映像を見ているから、事の重大さがわかっているが、この二人は見てないからな。

 俺は扉に手を掛けて開けようとすると、「らめぇぇ」と平川先輩(キモオタ)の声が聞こえてきた。

 途端に開ける気がなくなった。この先で起きていることを想像してしまった。美しくないものは見たくない。


「宗川先輩! はやく!」


 俺は扉から離れて場所を譲った。


「お先にどうぞ」


 平川先輩の悲鳴にも似た嬌声はどんどん甲高くなってくる。


「開けます!」


 斉藤は俺を突飛ばし、男子更衣室の扉を開けた。


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