忘れられた田貫
今日は台風なのでたくさん更新します。
とりあえず、今日二話目です。
田貫さんと待ち合わせしている場所に行く途中、図書部の受付システムのアプリを開いて談笑している生徒たちの姿を見た。
アプリ自体の物珍しさもあって、凄い勢いで広がっているようだ。
「この猫、かわいいよねー。誰が描いたのかな?」
それは平川前部長だ!と教えてあげようとしたが、イメージが悪くなりそうなのでやめておいた。
「オススメの本を教えてくれる機能って、割とおかしいよね? 『中世拷問具辞典』とか明らかに誰も借りないでしょ」
君の目の前にいる友達の趣味だと思うのだが、ラノベでも書くための資料にしたんだろう。
そんな感じで、反応を盗み聞きしながら、廊下を歩いていると、遠くに田貫さんが見えた。
「わざわざ迎えに来てくれたのか?」
田貫さんは俺に向かって手招きしている。俺が手招きに応じて歩くと、田貫さんは渡り廊下に入った。
急いであとを追うと、今度は渡り廊下にある理科準備室の戸の前で手招きをしている。
俺は段階怖くなってきた。これって、よくある学校七不思議のテンプレに似ているよね。
「まさかね」
こんな真っ昼間から会談なんてあるわけない。そう言い聞かせて、理科準備室の扉を開けた。
中は薄暗く、教材である標本を日光から守るため遮光カーテンが引かれている。整然と並べられた機材が戸が開いた隙間から入る僅かな光を反射して鈍い輝きを放っていた。
「宗川先輩……」
「うおっ」
突然後ろから声を掛けられ、驚いてしまった。
「先輩は田貫をお忘れではなかったですか?」
「忘れるわけないよ」
本当は忘れていた。田貫さんがコンピュータ同好会の次の部員になるはずだったが、完全に忘れて斉藤や女子コンピュータ部のメンバーを先に部員にしていたのだ。
「まあ、いいのです。田貫はハナ様さえいれば部員名簿の末席に名を連ねることになろうとも堪え忍びます」
俺は安堵した。田貫さんは得たいの知れない特技を持っている。それを自分の身をもって具体的に知りたいとは思わない。
「宗川先輩がコレクションしているゲームって、あるジャンルに片寄ってますね?」
俺はピンチに陥っていた。俺は敵に回してはいけないやつを、怒らせてしまった。性癖は人それぞれではあるものの、率先して公開したいとは思わない。だが、なぜそれを知っている! 人前でエロゲをしようとも、そのジャンルだけ自分の部屋でしかやらなかったのに。
「ふふふ。まあ、いいでしょう。その絶望に満ちた表情を堪能できたので、今回は勘弁いたします」
「あ、ありがとう」
俺は間抜けな返答を返した。
「その代わり、今回のお仕事は、ハナ様と宗川先輩だけでやってください。コンピュータ部ではありませんが、もちろん私もお手伝いいたします」
「わ、わかった。じゃあ、仕事の詳細を教えてくれ」
「はい。では、机の上を見てください」
言われて見た机には、校舎の平面図がおいてあった。所々に扇形が描かれている。
「これは?」
「監視カメラの設置予定場所です。どこも生徒からは見えない死角に配置しています」
もう不穏な空気しか漂っていない。薄暗い理科準備室に、日本人形を思わせる女の子。さらに何に使うかわからない監視カメラ。犯罪じゃないの、これ。
「宗川先輩が何を考えているかわかりますよ? でも、それは知魚楽というものです」
それは荘子の意味ではなく、恵子の意味ですよね?
「論じても無駄という意味です。私だけが知っていればいいことですから」
「でも、ハナ様が手伝ってくれるかな? 何に使うか聞かれたりしない?」
まさか、ハナ様まで脅したり騙したりはしないだろう。なんと言っても田貫さんはハナ様の崇拝者だし。
「神を思うあまり、罪を犯す羊もいるんですよ?」
さきほどから、心の中の発言に返答をもらっている気がする。俺はそんなに分かりやすいだろうか? まあ、コミュニケーションスキルに属するポーカーフェイスなんて皆無に近いからな、俺。
「それで、この監視カメラをどうすればいいんだ?」
「とりあえず、人がいたら動画を撮影してクラウドのストレージへ保存してください」
「それだけでいいのか?」
どれぐらい技術的に難しいかはわからないが、ハナ様ならすぐに作ってしまう気がする。
「今はとにかく時間がおしいので、追加機能は追々依頼します」
とりあえず、お仕事は引き受けておこう。田貫さんに逆らってはいけない気がする。
「俺は要らないが、ハナ様には報酬が必要だと思うぞ。現物支給でも文句は言わないと思うが」
「用意しています。もちろん、宗川先輩の分も」
「それはお心遣いありがとう。期待しておく」
最新エロゲとかだと嬉しいな。
「それと、田貫さんはいつ部活に合流する?」
田貫さんはニッコリと微笑んで「システムが出来てからでも遅くないですから」と断った。俺は田貫さんを最初に誘っておかなかったことを心の底から後悔した。
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