合体アクションはキャンセルできない
「認められないわね」
紀子は俺の持ってきた書類を一蹴した。
図書部の受付システムが無事に納品され、すでにシステムの運用を行っている。評判は上々でかなりの生徒がアプリをスマホにインストールして使っているらしい。図書部員は総出で図書館の本のISBNとCコードをスキャンして登録している。
俺も知らなかったが日本の本についている二つのバーコードのうち、1つは本を分類するために使用されているものらしい。
順調に進んでいる今のうちに中等部の女子コンピュータ部との併合をやっておこうと思って、手続きをしに生徒会室へ来たのだ。
「なんでだよ。条件も書類もそろってるだろ?」
「だって、女の子ばっかりなんでしょ? 女子コンピュータ部と合併したら保が浮気するかもしれないじゃない」
生徒会長がそんな私的な感情でルールを曲げていいのか?
「大丈夫だ。俺は二次元にしか興味がないからな」
俺は努めて冷静に紀子を窘めた。
「まあ、会長。認めたところでつぶれるのはコンピュータ同好会の方です」
我孫子は何を言っているんだ? コンピュータ同好会は部室使用料をもらえないが、女子コンピュータ部は部室使用料をもらえる。そのうえで、図書部から月々三万円のシステム使用料がもらえるんだぞ。もはや生徒会の悪だくみはないもどうぜんだ。
「それもそうね。いい、保。よく聞きなさい」
紀子は座っていた椅子から立ち上がると、器用にもホワイトボードにコンピュータ同好会と女子コンピュータ部のイラストを描き上げた。そして、「女子」を丸で囲む。
「女子コンピュータ部は、女子だけなので部室使用料は半額の三万円。ただし、これが男女混合の部活は部室使用料は七万円になるのよ!」
なんだ、その後出し感は!
「じゃあ、コンピュータ同好会はどうなるんだよ? 男女混合だぞ」
「同好会は一律三万円なのよ」
生徒会にとって都合が良すぎる。いつの間に決まったルールなんだ。
「この計画を立てたときに、他の部活と合併して生き残る方法を取ることは想定済みだったからな。考えられる抜け道はすべてつぶしてある」
ぐぬぬ。我孫子が優秀すぎる。さすが、万を超える部活動の部費をすべて管理する我孫子だ。その才能を別のところで活かしてくれればいいものを……。
「じゃあ、同好会を続ける限り月三万円でいいんだな?」
「ところがそうはいかないのよ」
紀子は自信満々だ。我孫子もニヤニヤと笑っている。
まだなんかあるのかよ。
「部費のロンダリングを避けるために、部費を他の部活動へ渡すときは生徒会長の許可が必要なの!」
「それで?」
何を考えているか分かった俺は紀子を冷たい目で見た。
「紀子は許可しないのか?」
俺の視線で凍る紀子。割と豆腐メンタルである。そんなにショックを受けるのなら、変な悪だくみなんかやらなきゃいいのに。まあ、我孫子は一秒でも長く紀子と過ごしたいから、悪だくみをささやいてぎりぎりのところで失敗させるんだろうな。
我孫子が本気になれば、我々などとっくに活動停止に陥っていただろう。
「ど、どうしよう? 常盤くん。保、激おこだよ?」
「落ち着いてください。会長」
我孫子が紀子をかばうように前に出た。
「もちろん、許可はする。しかし、図書部から出ている申請は月五万円だ。当初の金額と違うがこれはどういうことか説明してもらおう」
斉藤を引き取る迷惑料だ!と言いたかったが、実はそうではなかった。斉藤が追加した機能やその他の部分で便利な機能がこれでもかと盛り込まれたため、当初の金額より多めにくれることになったのだ。木本さんに感謝である。
「図書部の受付システムが当初見込みより大規模なシステムになったから、木本さんがシステム使用料を上げてくれたんだよ」
我孫子は想定内の返答だったようで頷く。
「コンピュータ同好会と女子コンピュータ部が併合した『コンピュータ部』の設立を認めるしかないようですね、会長」
我孫子も悪である。ここまで我孫子のシナリオ通りなのだろう。
「えー、常盤くん、話が違うよ!」
隠しもせず不満を漏らす紀子。アホ丸出しである。
「まあ、活動内容を報告会でちゃんと報告できればですけどね」
我孫子のどや顔である。
「報告会……だと?」
「そうだ。部活動になった場合、部長が毎月の報告会で部費の使用用途と活動内容を報告するんだ。先に言っておくが、これはコンピュータ同好会をつぶすためにできたルールじゃないぞ」
普通に考えればそうだよな。少なくないお金を渡しているのだ。部費の使用用途と活動内容は報告していて当たり前だろう。その点で考えると、コンピュータ同好会でなくなるのは、我々の存在意義にかかわる。
エロゲをするための聖域だったのに、いつの間にか中等部女子が入り込み、さらに活動内容まで報告する義務が生じてしまうのは本末転倒ではないだろうか。
「申請はちょっと考えさせてくれ」
何よりも問題は部長が報告会などという公の場で嘘をもっともらしく発表できるとは思えないことだ。突っ込まれたら確実にぼろが出る。そうしたら、つぶされるのは目に見えていた。
俺は生徒会室をとぼとぼ後にした。
「バカなのよ?」
「バカですね、保さん」
「宗川先輩は意外に頭が回らないですね」
失意の中、部室に帰った俺に散々の言われようである。
「保くん、某の代わりに君が部長になればいいだけの話でござるよ」
俺は「え?」と思った。プログラムもできない俺が部長……?
「そうですよ。今回の件も保さんがリーダーシップを発揮してくれたから、みんな一丸となって解決できたわけですし、保さんが部長になることに反対の人はいないと思いますよ?」
妹川さんがみんなを見回すと頷いていた。
「俺が部長になっていいの? エロゲしかしないよ?」
せっかくのいい雰囲気が俺の発言でドン引きである。しかし、ここは引けない。ここで引いたら聖域がなくなってしまう。俺が頑張ってきた意味がなくなる。
「それでいいでござるよ。保くんからエロゲを取るのは、某から女子中学生の鑑賞を取るのと同じでござる」
同じにしてほしくないが、言いたいことは分かったので、部長と手を取り合って固い握手をする。
「ハナ様は今まで通りだから何の問題もないのよ? あさちゃんたちが問題ないならいいと思うのよ?」
そういいながらハナ様が妹川さんたちを見ると、妹川さんは少し怒っているような表情を浮かべていた。
「いいですよ。私たちの目の前でエロゲしてくれるのなら」
え? なにその羞恥プレイ。
「そうですね。保さんのだらしない顔も見てみたいですし」
姉葉が悪ノリしてくる。
だが、そんな圧力に負ける俺ではない。
「委細了承した。俺は堂々とエロゲをする!」
そうして俺は(エロゲしかしない)コンピュータ部の部長になったのであった。




