図書部の受付システムが三日で出来た話する?
女子コンピュータ部のパソコンは、既に台車で持ってきており、俺や部長が重い思いをしなくてすんだ。なんと言っても筋肉などない軟弱ものだからな。
「ハナ様があなたたちに割り振りを決めるのよ?」
「はい! お願いします!」
妹川さんが元気よく答えた。ハナ様は部長ハーレム騒動で時間を取られている間に、他のメンバーとも自己紹介を終えているらしい。
「その前に、gitの使い方を教えるのよ?」
ハナ様は鳳さんに教えてもらった通りに、ソースコードの管理方法を説明しはじめた。ソースコードは、ハナ様が朦朧とした意識の中、消してしまい自殺まで考えた重要なものである。
gitは、そのソースコードを分散して保護すると共に、大勢のプログラマが分担して作れる仕組みを提供している。
「gitなら使っていたので大丈夫です!」
最近の中等部女子は凄いな。むしろ、我々の方が教えを受ける方なんではなかろうか。
「では、分担を発表するのよ?」
ハナ様はあらかじめ印刷しておいた紙を配り始めた。受け取ったメンバーは紙を見るとざわざわしはじめた。
「ハナ様!」
「なんなのよ?」
「ほとんど、進捗してませんが、何か技術的な問題点があったのでしょうか?」
「木戸舞は、頭がいいのよ? 実際、その通りなのよ? でも、ハナ様が解決してあるから、これからはどんどん作るだけなのよ?」
技術的な問題が何かは、個人の解釈によるが、俺は技術的というよりは体力的な問題だったんじゃないかと思うよ。
「舞、わかったら、早速開発にとりかかりましょう」
妹川さんがみんなに声をかける。俺が流石初代部長だなーと思ってみていると、妹川さんと目が合う。
「保さんも期待しててくださいね。私たち、意外とやるんですよ」
「もちろん、期待してるよ」
先ほどのやり取りを見ると明らかに我々よりも経験値は上だと思う。ぶっちゃけ我々はプログラムなどしてなかたからな。
女子コンピュータ部が合流した日からちょうと三日目。
「ハナ様、コーディングがすべて終わりました。テストも書いて実施終わっています」
「よ、よくやったのよ? ほめてつかわすのよ」
あまりの速さにハナ様もびっくりである。木戸はハナ様に褒めてもらってうれしそうだ。
しかし、ハナ様が三週間やっても終わらなかった開発をいくら三人増えたからと言っても三日で終わるものなのだろうか。
素人の俺には詳しいことはわからないが、女子コンピュータ部の三人は元天才プログラマーのハナ様か、それ以上の力があるようだ。
「部長が作っていた部分はどう?」
部長はハーレム構築後から割と真面目に開発していた。もっと姉葉や斉藤とイチャイチャすると思ったのだが、そもそもイチャイチャの仕方がわからないらしい。結果として、コミュニケーションを取らなくて済む開発にのめりこんでいったようだ。
「もうすぐ出来上がるのでござる」
「私の監修のおかげよね」
斉藤がない胸を張る。役に立っていなかった斉藤だが、ゲームのインターフェース部分を図書部の受付システムのアプリに流用し開発することを提案。しかも、アプリ部分の動作の細かな挙動まで細かく定義した書類を作成しており、自他ともに認める開発メンバーとして定着した。
たった三日でここまでやるとは誰も思っていなかったようで、姉葉さえ「斉藤さん、いっしょに女子コンピュータ部のシステム営業しましょう」と言ったほどだった。
「なんか、余裕で納期に間に合っちゃったな」
そう言いながら、月末に予定されている図書部への導入指導の段取りを考える。
マニュアルなんかを作っても、実際に使ってもらえるようになるまでは非常に時間がかかるという。
しかし、今回は部長が斉藤の提案でチュートリアルの実装をしてくれたので、仕事が非常に楽になったと姉葉が言っていた。
「じゃあ、月末で斉藤ともお別れだな」
何気なく言ったセリフに部室がシーンと静まった。
「少し早いけど今日はお別れ会しようか」
「ちょっと待ったー!!!」
お別れ会を提案する声に、斉藤が待ったをかけた。声でかいな。
「なんで、おわかれなんですか! 私、コンピュータ同好会のメンバーですよね?」
俺の知らない事実を口にする斉藤。俺が部長を見ると、部長は首を横に振った。
「え? やだなー、平川部長。私、入会届出しましたよね?」
「某、受け取った記憶がないのだが……」
部長も困惑している。
「まぁ、まぁ。斉藤だけじゃなくて、朝ちゃんをはじめとする女子コンピュータ部のみんなともお別れなわけだし」
俺が適当に慰めようとすると、斉藤がキッとにらんだ。
「知ってるんですよ。この図書部の受付システムの開発が終わったら、女子コンピュータ部と併合されるんですよね? 実質私だけお別れじゃないですかー!!」
そんなところまで情報をつかんでいるとは、おそるべし斉藤。
「くそ! 邪魔してやる。今月末で終わりになんかさせるものか」
斉藤が暗黒方面に落ちそうになっている。今までも割と暗黒サイドのキャラだったが、もっと暗い感情のやばい奴だ。
「そうは言いましても、最初の打ち合わせ通り作ってあるのなら、図書部も受け取らないわけにはいかないのでは?」
姉葉はちょっと勝ち誇った感じだ。そりゃ、部長争奪戦のライバルが減るんだから有利になるよな。
しかし、斉藤はにやりと笑った。
「最初の打ち合わせ通りって、何が証拠になるのかしら?」
悪い顔だ。もう暗黒面が斉藤を支配したのかもしれない。
「そりゃ、コンペの資料とかだろ」
それ以外、図書部と打ち合わせなどしていない。
「実際に受付システムの要求をまとめた資料はないんですよ」
斉藤はゆっくりとしゃべった。
「ふふふ。今から私がまとめますね?」
俺は得体のしれない恐怖に震えた。




