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突然ですが、我々には部費がない  作者: 小鳥遊七海
図書部の受付システム開発
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強引なリカバリープラン

「そ、それは……」


 俺は絶句した。鳳さんの話す「リカバリープラン」は完全に想定外だったからだ。


「確かにこのプランなら|目的達成《コンピュータ同好会存続》のために、二重、ううん、三重の策がはりめぐらしてあるのよ」


 ハナ様がうんうんと頷いた。かなり感心しているようだ。


「上手くいけばいいけど……」


 リカバリープランの鍵を握るのは俺だ。


「まずは女子コンピュータ部の助けを借りること。あとはなんとかなると思うよ。宗川くん、割りと人気あるってことだし」


 その人気は多分鳳さんが考えているのとは違う方向性なんです。さらに我孫子とセットでないと発現しない魅力です。


「ハナ様が説得した方がよくないか?」


 中等部の女子コンピュータ部の部長は、ハナ様を師匠と仰ぐ妹川朝臣さんだ。師匠(ハナ様)に助けてと言われたら助けないわけにはいかないと思われる。


「後のことを考えると、宗川くんが頼んだ方がいいんだよ」


「はっきり言うと自信ないです。少しでも成功率の高い方が担当すればいいと思います」


 俺は部長やハナ様と比べればまだ他人と話せる方だが、人とコミュニケーション取るのは苦手だ。

 妹川さんたちに「俺たちのシステム開発」を手伝ってもらうのはかなり難易度の高い交渉ではないだろうか。


「ダメでも次の策があるのよ? 保は頑張るのよ」


 俺を応援してくれてるように見えるが、ハナ様は自分にお鉢が回ってこないようにしたいだけだ。俺とハナ様以外には部長がいる。部長はやる気だけはあるだろうが、とても交渉を成功させることが出来るとは思えない。たぶん、女子コンピュータ部のメンバーに気持ち悪がられて決裂するだろう。


「ハナ様はちゃんとソースコードをgit(ギット)で管理してね」


「もう大丈夫なのよ? 二度と消したりしないのよ」


「消しちゃったことがポイントではなく、万が一、消しても復旧できるようにすることが大切ね」


「神のおっしゃる通りにするのよ? 手伝ってもらうあさちゃんたちにも伝えるのよ?」


「ふふ。頑張ってね」


 話が一段落したところで、鳳さんは鞄から薄い本を何冊か取り出した。


「さて、難しい話をした後は、お待ちかねのBL読書会でーす!」


 全然待っていないのだが、これは参加せざるを得ない流れ。逆らえぬ。


「神はいつも質のいい(BL)を紹介してくれるので、非常にはかどるのよ」


 何がはかどっているか詳しく聞きたかったが、鳳さんの前では勇気がでなかった。なんとなくだけど、鳳さんはエッチな話は苦手な気がするんだよなぁ。BLがエッチじゃないかと言えば、俺には理解できないことなのでエッチじゃないとしておこう。


「私、宗川くんが好きな感じのいちゃラブ系をたくさん持ってきたんだ」


「ふぉぉぉぉ!」


 鳳さんが出した本を見て、異常な興奮の仕方をするハナ様。


「こ、これは珠玉の一品と言われる幻の本。あまりの限定数にネット上にもアップされたことがなく、噂だけで語り継がれて本物は三種類あるとまで言われた『HはBとLの狭間で』なのよ?!」


 ハナ様はついさっきまで自殺をほのめかす書置きを残して自分探しの旅に出ようとしていた人とは思えないぐらい目が生き生きとしていた。


「これは先に宗川くんへ貸すね」


 鳳さんから受け取ろうとすると、ハナ様が俺の腕をつかんだ。


「保、ちょっと待つのよ?」


 そう言いながらポケットから白い手袋を取り出す。鑑定する人が良くつけているやつだ。


「手袋をするのよ? 汚したら保のキンタマ3つや4つでは足りないのよ?」


 キンタマは2つしかありません。あと女の子がキンタマなんて言っちゃいけません。


「わ、わかった」


 別に中身なんて見たくはないのだが、手袋をはめて(HはBとLの狭間で)を受け取る。

 パラパラと中身を確認すると、確かにいちゃラブ系のストーリーのようだ。もちろん、男同士のだけど。


「今日は本を入れるカバンがないので、ここで読んでいきますね」


「そうだね。みんなで読書しようか。枝里さんにはこれね」


「ふぉぉぉぉ!!」


 ハナ様がまた驚く。俺もタイトルに驚いた。


『BLで理解するgitレポジトリ』


 え? gitってBL関係あるの?


「こ、これはpush(プッシュ)したり、pull(プル)したり、その上、無理やりrebase(リベイス)する展開も……」


 リベイスってなんだよ。スケベ椅子の親戚……?


「それは読んでのお楽しみ」


「どうするのよ? 読んでしまったら、興奮のあまり、ハナ様は公共の場でいたしてしまうかもしれないのよ?」


 ハナ様は多少混乱気味だ。鳳さんはその様子をほほえましく見ている。

 俺からすれば鳳さんはハナ様みたいに壊れて(狂って)いないと思うのだが、BL本を公共の場で渡して読書会を始めようとする点で、ハナ様を上回っているかもしれない。


「そういえば、お仕事は大丈夫ですか?」


「代休が大量に余っていて一カ月ぐらい会社を休んでいる最中なの」


 それはうらやましい。でも、代休ってたしか……。


「ちょっと前までは忙しかったんだけどね」


 そうだよな。お休みの日に出勤したりするとお貰える休みなんだよなぁ、と思いつつも、この時の俺は重要な点に気が付かなかった。


「じゃあ、読もう」


 鳳さんはちょっとうれしそうに俺とハナ様を促した。


リカバリープランを求められる時って、大抵はリカバリー不可能な状態に陥っている時だとマーフィーは言っています。

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