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突然ですが、我々には部費がない  作者: 小鳥遊七海
図書部の受付システム開発
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ハナ様の書置き

 鳳さんに秘策を伝授してもらった俺は、次の月曜日の放課後、意気揚々とコンピュータ同好会の部室に入った。


「あー、先輩。おつですー」


 俺の気合いに反して、部室にはぐーたらした斉藤以外いなかった。


「あれ? ハナ様と部長は?」


「ハナ様の机の上を見てください」


 言われた通り、ハナ様の机の上を見ると、何やら可愛い付箋に「ソースリムった。死んでくる」と書いてあった。


「部長が翻訳してくれたんですが、作っていたプログラムをハナ様が朦朧(もうろう)とした意識の中、操作ミスして半分ぐらい消してしまったそうです」


「え?」


 ちょっと意味がわからなかった。納期まであと二週間しかいないのに、三週間かけて開発したプログラムを削除してしまったなんて、理解できるはすがなかった。


平川(コンピュータ同好会)部長はハナ様を探しに行きました。さすがに死なないとは思いますけど、念のためだそうです」


「な、なるほど」


 それで斉藤はコンピュータ同好会の部室でくつろいでいるわけか。ってどんなわけだよ!


「斉藤、お前も捜索隊に加われ!」


「え? 嫌です」


 こいつは……。


「よし、我孫子の上半身裸でどうだ?」


「意味がわかりません」


「ハナ様を見つけたら我孫子がシャツをはだけた写真をやろう」


「そこに宗川先輩が手を添えた写真なら中等部の図書部員が十二名参加確定です」


「ぐぬぬ」


 背に腹は変えられぬ。


「仕方ない。載った」


「約束ですよ」


 と言いながら、斉藤は自分のスマホに指示を打ち込んでいた。


 校内はこれで網羅できるとして、後は自宅と活動範囲だな。自宅は田貫さんに頼むとしよう。幸いにもハナ様は活動的とは言いがたいので活動範囲は俺一人で探せそうだった。


 俺は田貫さんにメッセージを飛ばした後、秋葉原に向かう。ハナ様は基本的に通販で用事を済ませているようなので、イベントぐらいしか街に出たりしないと考えられた。

 こう考えると、今までの我々は部活動という感じではなかったなと改めて思う。お互いのことを知らなすぎるのだ。

 他人と距離を置くことに慣れてしまい、信用できる人たちとも距離を置くようになってしまった気がする。




 秋葉原に着くと、いくつかの同人誌ショップを見て回る。俺は精神的に辛いことがあると、すぐにエロゲに逃げる。だから、ハナ様も同じように趣味に癒されようとすると思ったんだが……。


「空振りか……」


 そう呟くと焦る気持ちがなくなってきた。ハナ様がいなくなって、心配なのと同時にハナ様が見つかってもコンピュータ同好会は終わりだ。

 システム開発は間に合わないし、部室使用料も支払えない。

 せっかく、鳳さんに秘策を授けてもらったのに、無駄になってしまったな、と考えたところでふと気がついた。


「鳳さんのところに相談してたりしないか?」


 俺はメッセージを送ろうとしたが、途中で止めた。俺がハナ様を探している状況はハナ様の心理的な圧力(プレッシャー)になるかもしれない。

 ここはこっそりと執事喫茶の様子だけ伺おう。そして、ハナ様がいたらそれで良しとしよう。俺は「それが名案だ」ということにしておきたかったのかもしれない。




 案の定、ハナ様は鳳さんと話していた。店の外からうかがっているだけなので、話の内容は聞こえないが、おそらく鳳さんがハナ様を慰めているようだ。

 ハナ様に悲壮感はなく、鳳さんの笑いにつられてぎこちないながらも笑顔が浮かんでいる。


「これなら心配することもないかな?」


 そう思っていると、捜索が終了したメンバーから次々に報告が上がってくる。俺はここにハナ様がいることを伝えようかとも思ったが、場所を隠して「見つけた。心配ない」とだけ返信した。

 次々にみんなから「よかったー」という返信がくる。ハナ様は我々が考えているよりもずっと人気があるようだ。


「おぼっちゃま、お帰りなさい?」


 返信を確認するのに夢中になっていると、いつも相手をしてくれる執事喫茶のウェイトレス(ウェイター)さんが私服姿で立っていた。

 胸が大きいなと思っていたが、胸の下で絞られたワンピースを来ていると、さらに大きく感じる。


「宜しければ入りませんか?」


 ウェイトレスさんが店の扉を開けて招く。

 断ろうかと思ったが、鳳さんとハナ様に見つかってしまった。


「あはは」


 誤魔化し笑いをしながら、俺は中に入っていく。


「保は何をしているというの?」


 俺がハナ様を探しているということは分かっているようで、若干顔が赤くなっている。ちょっと嬉しいのだろう。


「ハナ様を探していたんだ。もちろん、みんなもね」


 そう言って、スマホのチャット履歴を見せる。そこにはみんなからの返信がずらりと並んでいた。


「ず、随分、多いのよ? この娘たちは誰なのよ?」


「中等部の図書部員だよ。斉藤に頼んで協力してもらった」


 今思えば代償はかなり高かったがな。


「悪かったのよ」


 思ったよりも大事になっていて、ハナ様は反省しているようだった。かなりシュンとしている。


「仕方ないよ。私でもソース消したら同じことすると思うから」


 鳳さんがフォローに入ってくれる。


「でも、これでコンピュータ同好会は終わりなのよ。ハナ様が引導を渡してしまったのよ?」


 その台詞を聞いた鳳さんはクスリと笑った。


「何がおかしいんですか?」


 俺から見ても絶望的な状況であることはわかる。しかし、鳳さんは何か考えがあるようだった。


「私もよく似た状況にいたから、宗川くんや枝里さんの気持ちはよく分かるなと思って」


 鳳さんはカバンからノートパソコンを取り出すと、何かのプレゼンテーションファイルを開いた。


「じゃあ、コンピュータ同好会の後輩たちのために、リカバリープランをご説明しますね」


 いつの間にそんなものを作ったのか、鳳さんは俺に授けてくれた秘策とは別の説明を始めた。


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