燃えているプロジェクトの見分け方
やったー。初ブックマークいただきましたー。
うれしいですね!
これからも頑張ります!
喫茶店につくと、もう鳳さんが座って待っていた。
「すみません。遅れました」
「大丈夫だよ。私はここでお仕事してただけだから」
そう言いながらノートパソコンをカバンにしまった。
「あ、お仕事のお邪魔じゃないですか?」
「もう終わったから大丈夫だよ」
その返事にひと安心し、執事さんに紅茶を頼むと、当たり障りのない話からしようと思った。
「昨日、ひどいゲームを買ったんですよ」
「え……どんな?」
「イラストやストーリーは凄いいいのに、選択肢のどれを選んでも同じ話になるんです。好感度やフラグが一切ないんですよ」
俺が話題にしているのはもちろん「はじめてのおにぃちゃ」だ。鳳さんはエロゲが好きではないかもしれないので、エロゲであることと具体的なタイトルは避ける。
「へ、へぇ……」
「それが店売りで約二万円もしたんですよ」
「な、なにか特典がついてるんじゃないの?」
「ビックリしたことに、それがないんですよ」
「な、なるほど」
「ずっと前からスタッフブログとか見てチェックしていたんだけど、何度も発売延期繰り返して、これですからね。俺、すごいガックリしてしまって」
なんとなく、鳳さんの顔色が悪くなっていく。同じような業界のお仕事のようだから、身につまされるのかもしれない。
「そ、それより本題は?」
「あ、それなんですけど、俺、今回のシステム開発で何も出来なくて、同好会での存在価値というか、居場所がなくなってしまってですね。鳳さんはそういうのに詳しいようなので、何かアドバイスいただけないかと思いまして」
虫のいい話なので断られてもそれが普通だと思う。
「ちょっと考えさせてね」
しかし、鳳さんはちゃんと考えてくれるようだ。鞄からノートパソコンを出すと、何かの資料を開いて俺に見せてくれた。
なんか家系図みたいなもので、「プロジェクト体制図」というタイトルがあったらついていた。
ゲームシステムチームの中に鳳さんの名前があった。リーダーと側に書かれているから、班長みたいなものなのかもしれない。
「あれ、この一番上の四角にある名前って、もしかしてうちのOBじゃないですか?」
コンピュータ同好会の創始者である藤田さんの下の名前は覚えてないが、こんな名前だった気がする。
「え? 宗川くんは桜千住学園の生徒なの?」
「はい。高等部二年です」
「そうなんだ。プロマネも私も桜千住の出身なんだよ」
「すごい偶然ですね」
「あれ、鳳さんももしかしてコンピュータ同好会に入っていました?」
なんとなく、なんとなくそんな気がしたのだ。あのコンピュータ同好会(だけではなく桜千住学園)に流れる空気が鳳さんと同じような気がした。
「うん。そうだよ」
「じゃあ、先輩ですね!」
そういってニコリと微笑むと、鳳さんは赤くなって下を向いた。「ずるい」と呟きが聞こえたと思ったところで、注文していた紅茶がくる。
「そ、それじゃあ、先輩になんでも聞いてください」
急に胸を張るもんだから鳳さんの大きな胸が揺れた。俺はその破壊力で一瞬頭の中が真っ白になりそうになったが、なんとか理性でこらえた。
危なかった。もう少しでスマホのカメラを起動して連写するところだった(あとでGIFにするために)
「俺たちの状況から話しますと……」
状況をかいつまみながら、しかし、正確に伝わるように説明した。俺が説明している間、鳳さんは静かに聞いていた。
「うーん、最近似たような状況にいたから、私も偉そうにはできないんだけど」
「大丈夫です。俺は未経験者ですし、経験者の話はなんでも参考になります」
「本当は、『成功例』だけ学んだ方が成長は早いんだけど」
「『失敗から学ぶ』ってよく言われますけど……」
「それは嘘だよ。成功例だけ見続けて、学んだ人の方が間違いが少ない。やっちゃいけないことを学ぶのではなく、やらなきゃいけないことを学ぶ方が正解なの」
鳳さんはやさしく諭すように俺に言う。俺はすぐに理解できないまでも、鳳さんに言われたことを忘れないようにスマホにメモした。
「宗川くんの今の状況だと、現実的な機能にまで落とす必要があるね。お金がもらえないと心配になるかもしれないけど、システムが『動く』状況と『動かない』状況だと、お金もらえるのは前者なのよ」
そこで鳳さんは言葉を切った。俺の反応を待っているようだ。
「よくわかりました。飲み込めていないところもありますけど、問題を解決するには『動く』システムを作らないとならないということですね?」
「そう。宗川くんはやっぱり自頭がいいね」
すごくうれしかった。自分でもびっくりしたが、この年齢になっても大人にほめられるというのはうれしい。
「ありがとうございます」
「宗川くんならできるかもしれないから、とっておきの秘策を教えるわ」
心の中で鳳さんのことを『師匠』と呼ぼうと決めた。




