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突然ですが、我々には部費がない  作者: 小鳥遊七海
図書部の受付システム開発
13/65

マネージャーを笑うものはマネージャーに泣く


 あのあと、俺の退部話は一旦保留(ペンディング)になった。

 薄々感づいてはいたのだ。俺は要らない子(交換可能な部品)なんだということを……。

 鬱だ。このままでは自死を考えてしまうかもしれない。


「ヤバい。この精神状態をなんとかするにはエロゲしかない」


 俺はそのまま秋葉原に向かうと、エロゲショップ(ソフマップ)へ急いだ。

 夕方の店内に入ると店員さんが届いた商品の開梱作業をしているところだった。


「あれ」


 ふと目についたのはビニルの奥に隠れる「はじめてのおにぃちゃ」というポップな書体とパステルカラーで飾られたタイトルだった。


「すみません、それってもう買えますか?」


 俺は店員さんに丁寧に話しかけた。フラゲ出来るお店とそうでないお店があるしね。


「はい。大丈夫ですよ。当店では予約対象ではないので」


 俺が心から楽しみにしていたタイトルでも、期待している人は少ないんだな。大丈夫かよ、予約数を見て生産ロットって決めてるんだろ? 作りすぎて倒産しちゃったりしないかな。

 変なことを考えている間に、店員さんはパッケージをひとつ渡してくれる。


「ありがとうございます」


「いえいえ」


 簡単なやり取りを交わすと、俺はレジでお金を払って、帰宅した。




 さて、俺の部屋についたら、開封後の儀である!

 俺は机の上においたパッケージをスマホでカシャカシャ撮影する。もしかしたら、感動の余り、攻略ブログを立ち上げるかもしれない。

 事前に入手できる情報からするとイラストもストーリーも完全に俺の好みだけに可能性は高かった。


「さて、パッケージをあけるぞ」


 エロゲのパッケージはデカいが中身はほぼ入っていないに等しい。場合によってはイラスト集とか入っていることもあるが、簡単なインストールマニュアルとインストールメディアだけという構成がほとんどである。

 例に漏れず、このエロゲ(はじめてのおにぃちゃ)もDVDと数ページの紙のマニュアルだけだった。


「ふむ」


 マニュアルにあるキャラ紹介を読む。

 スタッフ本で読んだ通りの内容だった。主要キャラは全部で五人。エロゲの中では標準的なキャラ数だ。

 歴史上には百人を越える攻略キャラがいたエロゲもあるらしいが、そこまで増えるとひとりのキャラに対するHシーンがCG一枚とか、下手をすれば五人で一枚なんてものになってしまう。

 それはそれで面白いのかもしれないけど、俺は一人一人のキャラの書き込みを重要視しているので五人で問題ない。


「いざ」


 インストールをしたあとに、俺はゲームをプレイしはじめた。なんと言っても明日は土曜日だ! 徹夜でゲームするぞ!




 夜が明けて空が十分に明るくなった頃、俺は天を仰いだ。


「ヤバい」


 クソゲーだ……。

 イラストもストーリーも悪くない。しかし、選択肢がほぼ意味をなしていない。何を選んでもストーリーが変化しない。これはバグではないのかと思ってメーカーのホームページやスタッフブログを見返したが、バグ修正パッチは出ていなかった。

 散々発売延期を重ねた上に、この出来である。俺は泣きたくなった。


「これ、いくらしたっけ?」


 今になって財布を開く。そこには千円も入っていなかった。エロゲ(クソゲー)を買うまでは確か二万円弱は入っていたはず。

 レシートを見ると「18,000円(税込)」だった。


「これがいちまんはっせんえん?」


 納得できん!

 しかし、それより問題は来月分の部室使用料まで使い込んでしまったことだった。来月は三人で一万円ずつ出しあって乗り切るつもりだったのだ。


「ヤバい」


 ただでさえ、要らない子なのにこれ以上存在価値を低下させてどうするというのか!


「どどどどど」


 もはや、動揺しすぎてどもってしまう。俺はイベントシーンを開くとお気に入りのHシーンを出しだ。賢者だ。賢者になるしかない。




 賢者になった俺は鳳さんに今一度教えを乞うことにした。前回は時間がなくて納期が短すぎるという話しかしていないが、納期を伸ばすことが出来なくなった今、何をすればいいか、俺には欠片すら思い浮かばなかったからだ。


『秋葉原のいつものカフェでお会いできませんか?』


 LIMEにメッセージを送ると、すぐにOKのスタンプが返ってきた。

 変な臭いがしないか確認して、念のために制汗スプレーで匂いを誤魔化す。


「これでよし」


 俺は人と会うのはあまり良い気分になれない。だが、鳳さんと会うのは気にならなかった。


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