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突然ですが、我々には部費がない  作者: 小鳥遊七海
図書部の受付システム開発
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悪魔が来りて部室使用料を取る

「保! 部室使用料の徴集に来たわよ!」


 紀子は勢いよく扉をあける。朝は「今日は部室使用料の納入期限よ! 昨日は楽しみで眠れなかったわ!」などとのたまわっていた。

 遠足前日の小学生ぐらい興奮して眠れなかったらしい。そして、放課後になるとすぐにコンピュータ同好会の部室に来たというわけだ。


「はい。三万円。領収書ちょうだい」


「これでコンピュータ同好会も廃部ね!」


 あまりの興奮に俺の声が聞こえないのか、それとも廃部にできない現実を見たくないのか、紀子は話を続ける。


「確かに頂戴しました。これが領収書です」


 そんな紀子に構わず我孫子が俺から三万円を受け取り、領収書をくれる。


「え? 我孫子くん?」


「会長、コンピュータ同好会には内部留保された活動費があります。数ヶ月は持つでしょう」


 我孫子は現実のわかる男だった。かなり優秀なのだが、どうして紀子みたいな天然が好きなのだろうか。癒しを求めてるの?


「えー!!!」


 今になって現実を把握する紀子。生徒会長として、それはどうなんだろう?


「保は、まだ生徒会に入ってくれないってこと?」


「そうですよ。あと数ヶ月は」


 俺はコンピュータ同好会がなくなっても生徒会になど入る気はないのだが。


「でも、数ヶ月したら図書部のシステム出来ちゃうよね?」


「真面目に取り組んでいればですが……」


 真面目に取り組んでますよ、ハナ様は。なんと言っても、この状況で真面目にプログラミングをしている。最近はかなり根をつめているようで、鬼気迫るものがある。


「会長、ここは撤収しましょう。また次の策を考えればいいですよ」


 紀子をなぐさめながら、我孫子は帰っていく。傷心のところ、イケメンに優しくされたら誰でもコロリといきそうなものだが、紀子にはそれが通じない。


「あ! 常磐先輩! 待ってください!!」


 部長とゲーム製作の話をしていた斉藤が我孫子を呼び止める。

 なんだ?と足を止める我孫子。


「ちょっと、こっちに来てください」


 我孫子は素直に斉藤に近寄っていった。


「宗川先輩もこっちに来てください」


「なに?」


 俺も近寄る。


「木本部長がコンピュータ同好会と生徒会が険悪な関係にあるんじゃないかって、心配してました。なので、ここは笑顔でがっちり握手をした場面をキャプして送りたいと思います」


 なるほど、と思いながら我孫子と握手してにっこり笑う。我孫子は嫌そうな態度ながらもなんとか笑顔を貼り付けた。


「はい。取ります! 『私たちは?』」


「「かわいー」」


 お決まりの掛け声とともに撮影される。そのまま何枚か連続で撮影された。


「うーん。これじゃ、疑惑を晴らすにはちょっと弱いかもしるないので、ハグして背中をポンポンするところを動画に撮らせてもらえますか?」


 ん? なんだ、そりゃ。

 同じ疑問を抱いたのか、我孫子も訝しげな表情で斉藤を見た。


「ちょっと、おかしくないか?」


 俺の疑問にたじろぐ斉藤の後ろで忍び笑いをしている部長が見えた。こいつ、なんか知っているな?


「部長、なに笑ってるんですか?」


「いや、笑ってないよ」


 と言いながらプププと笑いが漏れている。


「まあまあ、いいじゃないですか。ハグしましょうよ」


 俺と我孫子の背中を押してくっつけようとする横で、机におかれた斉藤のスマホがブルっと動いた。


『常磐×宗川BLはよ』


 メッセージを見た瞬間、俺は斉藤の頭をはたいた。


「俺が気になるって、そういう意味かよ!」


 斉藤は自分のスマホを見て状況を把握する。あ!という顔をしたあとに、えへへと舌を出す。可愛いさをアピールしても遅い。俺はすでに本性を見切っている。


「なんだ? どういうことだ?」


 こういうことに疎い我孫子は、斉藤がおかしなことを言っているとわかっても俺が怒っている意味がわからないようだ。


「我孫子みたいな真面目な奴に説明するのは難しいが、斉藤は友達に売るために、俺たちの写真を撮ったんだよ」


「ふむ。写真を欲しがる意味はわからないが、ハグは勘弁してくれないか」


「はい! そうですよね! ちょっと調子に載ってました!」


 斉藤が突然やる気になると迷惑なことがよくわかったので、斉藤はやる気を出させないように運用しよう。


「今後、そういう写真を撮ったり、シチュをチャットしたら叩き出すからな」


 とりあえず、脅しておく。

 こそこそやっていたら俺に知るすべはないのだが、知らなければないことと同じだからな、気にしない。


「ははは、やだなー。もうしないですよー」


 斉藤は軽い調子で答えた。

 しかし、なんで中等部の女子は、斉藤といい、姉葉といい、こう鼻につくようなことをするやつらばっかりなんだ。


「そう言えば、保と常磐君の水着のツーショット写真見たことあるよ」


 そこへ紀子が爆弾を落とした。


「ください!」


 舌の根も乾かないうちに、約束を破る斉藤。


「斉藤は出禁ね」


 俺が斉藤に告げると、部長が前に出た。アホ部長め、庇うつもりか?


「部長、かばったら部長のBL写真をばらまきますからね」


 部長が口を開くより先に部長の弱味を晒す。戦術の要は機先を制すことから始めるのだ!


「よく考えたら、斉藤さんいれば、保くんは要らないよね?」


 部長の一言に俺は戦慄した! コンピュータ同好会のアンテナ的役割をしていた俺の役割はまさしく対外折衝。渉外というやつだ。

 しかし、部長やハナ様と普通に話せる斉藤がいれば、俺は不要。やばい、エロゲをする聖域が……。

 俺の目の前が真っ暗になると同時に紀子の「それはいいアイデアね!」という声が聞こえてきた。

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