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突然ですが、我々には部費がない  作者: 小鳥遊七海
図書部の受付システム開発
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俺と部長の勘違い

「というわけで、図書部から派遣されてきた斉藤(さいとう)佐十(さとう)さんです」


「斉藤です。私はシステムができない方が都合いいので、頑張りません。よろしくお願いします」


 その挨拶はどうなんだと思ったが、部長がすごい勢いで拍手している。リアル女子中学生がコンピュータ同好会に来てテンションがおかしくなっているようだ。


「あと、宗川先輩の情報を図書部のみんなに流すことになっているスパイでもあります」


「なんでやねん」


「なんか、みんな宗川先輩のことが気になるようですよ」


 その台詞に部長がすごい形相で俺を睨んでくる。これは七つの大罪の嫉妬というやつではないだろうか。変な能力に目覚める前にどうにかしたい。


「でも、私、面倒なことは嫌いなんで適当にしますんで、気にしないでください」


 と言うのが早いかハナ様の隣に行ってしまった。ちなみにハナ様は全然挨拶を聞いておらず、一心不乱に鳳さんからもらったプレミア本を読んでいる。

 斉藤さんは隣に座ると、ハナ様の前に積み上げられていた別のプレミア本を手に取って読み始めた。

 マイペースにもほどがあるだろ!


「ということで、図書部の受付システムを受注したので、開発お願いします」


「わかった。任せたまえ」


 よくわからないが、いつもやる気がない部長が急にやる気を出している。あれだ。斉藤さんがいるからだ。斉藤さんには常に部長の周囲でくつろいでもらいたい。


「ハナ様もお願いします」


 俺が声をかけるがハナ様は本に集中して返事をしない。


「あー、鳳さんから返信ありました」


 本当は昨日あったのだが、今まで内緒にしていた。ぐりんとハナ様の首が俺の方を向く。日本人形にまつわる怪談を思い出してすごい怖い。


「神はなんと?」


 もうキャラが総崩れである。


「あったことがない人には連絡先を教えられないって」


「か、神よ……!」


 その返事には続きがあるのだが、ちょっと意趣返しに言葉を止める。


「保様、神となんとかして通じることはできぬのですか?」


 ハナ様が俺に向かってよろよろと歩いてくる。その間も斉藤さんは本をリラックスした姿勢で読んでおり、部長はそれをチラチラ見ながらプログラムをしている。


「なんとかしましょう。要は鳳さんと会えればいいんだよ。俺が場をセッティングしたから今から秋葉原に行きましょうか」


「下界に行くというの? このハナ様が……。下界の汚れた空気で死ぬかもしれないのよ?」


 急に正気に戻って弱気になるハナ様。大げさに言っているだけなので、俺は無視して教室から出た。案の定、ハナ様は俺のあとをついてきた。


「鳳さんはいつも秋葉原にいるらしいので、行けば会えるでしょう」


 というのは大嘘で事前に鳳さんと待ち合わせしている。待ち合わせ場所はなぜか男装執事カフェだ。本物の男性はBLが好きでもない限り緊張して無口になってしまうらしい。本当かよ、と思ったが女の子がたくさんいるところなら俺も大歓迎なので、了承した。


「神は秋葉原にいらしたか」


 ハナ様を引き連れて校内を歩くと、九割がたの男子生徒が振り返る。美人だし、今は鳳さんと会えるうれしさで、少し頬が紅潮して表情が柔らかくなっているから、非常に魅力的に見える。

 俺から見ても美人だと思う。思うだけで手を出そうとは思わない。その先を俺は知っているからな。




「ここが神のおわす場所!」


 ハナ様が感慨にふけっているが、俺はさっさと待ち合わせ場所に歩いていく。途中でメイドさんが呼び込みをしているが、チラシももらわずに歩いていく。しかし、呼び込みって店の外でやったらアウトじゃないの?とヤクザもののゲームをやった付け焼刃の知識で思う。


「この先の執事カフェにいるらしいので、急いでください」


「わかったのよ」


 ハナ様は俺の腕を取って組んだ。


「なにしてるんですか?」


「恋人のふりをするのよ。ハナ様は秋葉原でも面倒な人たちに声をかけられるのよ」


 ハナ様はナンパを警戒しているようだ。だが、秋葉原でナンパとか聞いたことがないのだが、周囲を見回してみると、部長といい勝負のオタクオタクした人たちがハナ様をすごい目つきで見ていた。


「なんでも、美少女ゲームのビッチキャラに似ているらしいのよ。それでハナ様も尻軽だと思われてるらしいのよ」


 なんだそれ。と思ったが、俺もエロゲのチョロインにそっくるの女の子が現実にいたら「お前、俺のことが好きなんだろ?」とか口が滑りそうになるからな。人のことは言えん。

 しかし、ハナ様の胸は残念サイズだな。制服の分厚い生地からは柔らかさは伝わってこない。本当に日本人形って感じだ。


「失礼な想像は控えた方がいいのよ。ハナ様の胸はこれでもCカップなのよ」


 え?と思ってハナ様を見ると、ハナ様はぎゅっと胸を押し付けてきた。確かに生地の奥の弾力を感じる。


「保様にはサービスをしておくのよ。だから神にハナ様のことをしっかり売り込むのよ」


 なんという打算。言われなくても鳳さんにハナ様と仲良くなってもらおうと思っていた。いい加減、ハナ様にも開発を始めてもらわないと、来月末の納期(という名のコンピュータ同好会の廃部期限)に間に合わなくなってしまう。


「つきました。ここが待ち合わせ場所です」


 俺がハナ様に言うと、ハナ様は俺の腕をぎゅっと握った。




 中に入るとすでに鳳さんが座っていた。というか、今現在は鳳さんしかいない。どんだけはやっていないんだ?


「鳳さん、お久しぶりです」


 声をかけながら近寄っていくと、カバンの中を見ていた鳳さんが顔を上げる。そして、驚愕の表情になる。


「宗川くん、その隣の方は……?」


「同じ同好会の枝里華詩さんです。BLが好きな女の子で、どうも鳳さんのファンらしいので連れてきました」


「枝里です。はじめまして」


 と優雅な挨拶をした。


「宗川くんの友達というから男の子だと思ってた……」


 なるほど。だから心なしかOKのスタンプがテンション高めでうれしそうなやつだったのか。


「説明不足ですみません」


「いえ、大丈夫。鳳らいすです。よろしくね。枝里さん」


「ハナとお呼びください」


 本当にハナ様はキャラが崩壊している。なんか、急に凛々しい表情になって、片膝をつき、鳳さんの手を取ったぞ。

 そして、手の甲に口づけをした。

 いや、絵になるのだが、野猿をプロデュース的な場面に見えなくもない。


「じゃあ、ハナさん。席に座ろ」


 鳳さんはハナ様みたいな悪ノリをするオタクに慣れているのか、すごく冷静に対応していた。


「はい」


 席に座ると、注文を取りに来た執事にコーヒーを頼む。


「かしこまりました。お坊ちゃま、お嬢様」


 お決まりの挨拶をして執事さんは下がっていく。男装した執事を始めてみたが、胸をさらしで押しつぶしたりしないんだなーと明後日の感想が浮かんできた。


 ハナ様と鳳さんはすぐに打ち解けて、連絡先の交換もスムーズに終わった。BL本の話には全然ついていけないのだが、普段何をしているかという話になったので、俺は気になることを聞いてみた。


「鳳さんは、どんなお仕事をしているんですか?」


「え? うーんと、システムエンジニアって言ってわかるかな? それのフリーランス版をしているの」


 すごい幸運ではないだろうか。こんなところで本職の方と会えるとは。俺は今から開発しようとしている図書部の受付システムについて話してみた。話が進むうちに鳳さんは厳しい顔になっていく。


「宗川くん、開発の期間に無理があるわ」


 俺の話を聞いた鳳さんは一言で我々の計画を否定した。俺も薄々感じていただけに、本職の人のアドバイスを聞きたくて話したところもある。次の言葉を待った。

 しかし、その時は俺が欲しかった言葉は出てこなかった。


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