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第9話 落ちこぼれの終焉

 レイリア王国フレスタンは上空から見るとドーナッツの上三分の一にある地方で、その地での地位はウィンディスタンのような家柄ではなく、個人の実力で決まる完全実力主義の地方だ。


 だがそれ以上に驚きなのが、セイヤたちのいたセナビア魔法学園からフレスタンまでは少なくとも二日はかかる。つまりセイヤたちは丸二日意識を失っていたことになる。


 一体何を考えているのかわからない男。セイヤはとりあえず何か情報を得ようとした。


 「もしかして僕らが連れてこられたのは、あなたがフレスタン内での実力をつけるための人体実験ってところですか?」


 セイヤの質問に対し、白衣を着た男は嬉しそうに微笑む。


 「話のわかる餓鬼はいい。そうだ、お前の言う通り、お前らはフレスタンでの我らの地位を向上する為の道具として役立ってもらう」


 フレスタンは完全な実力主義だけあって、教会のトップたちも戦闘で決めるほどである。力がすべてのフレスタンでは、今回のような人体実験はあまり珍しいことではない。


 特に非魔法師の魔法師化や魔法師造兵などは表沙汰にはされていないが、かなり存在するらしい。


 セイヤは白衣の男に対して疑問をぶつける。


 「いくらフレスタンでも人体実験は禁止されていますよ? それにここがフレスタンである以上、聖教会も動き出した今では、もう終わりだと思いますが」


 セイヤの言う通り、魔法師の人体実験は禁止されている。もしそんなことが知れれば、たとえいくら実力をつけても、地位などを得ることはできない。


 しかし白衣の男はセイヤの言ったことに対して鼻で笑った。


 「クックックッ。残念だな、餓鬼。聖教会は決して来ない。なぜならここはフレスタンではなく、フレスタン近郊の暗黒領なのだから」

 「暗黒領だと……お前ら正気かぁ」

 「マジかよ……」

 「そんな……」


 暗黒領と言う言葉を聞き、一同は絶望する。


 暗黒領、それは強力な魔獣が住む地であり、人など寄り付かない。いくら聖教会といえども、まさか犯人が暗黒領にいるとは思わないだろう。


 それにたとえセイヤたちが脱獄したところで、ここが暗黒領である以上、無事に帰れるわけがなかった。


 まさに絶望の淵に追いやられた瞬間であった。


 ここが暗黒領という衝撃の事実を語られたザックたちが信じられないだの、頭がおかしいだのと、小声で言い始める。


 「おかしいだろ……」

 「五月蝿いな。また電気を流すぞ?」

 「「「「くっ……」」」」


 ザックたちの反応を見て、白衣を着た男が再びリモコンを見せびらかす。


 「わかれば、よろしい」

 「ひとついいですか?」


 白衣の男に対して、セイヤが質問をする。


 「なんだ? 話の分かる餓鬼」


 どうやら白衣の男はセイヤに対しては比較的いい感情を持っているらしく、質問などにも答えてくれるようだ。だからセイヤは少しでも情報を集めようとした。


 「最近ウィンディスタンで多発している人攫いはあなたが原因ですか?」


 もしウィンディスタンでの人攫いも目の前の白衣の男であるのなら、おそらく攫った魔法師の数も相当のはずだ。


 それはつまり、犯行に及んだ数も多いという事であり、もしかしたら何かしらの失態を犯しているかもしれない。


 セイヤはそれに期待していた。


 「ほう、よくわかっているな。その通りだ。と言ってもウィンディスタンだけではない。アクエリスタンからも攫っている」

 「そんな……」


 想像以上の答えが返ってきて、言葉を失うセイヤだが、同時に希望も見えた。


 男の言う通りなら、フレスタン、ウィンディスタン、アクエリスタンの三つの地方の教会と聖教会、つまりレイリアの全機関が捜索に動いていることになる。


 それなら時間を稼げばいつか助けが来るはずだ。


 「といっても、もうほとんどが亡骸だがな。クフフフ」

 「なんて野郎だ……」

 「完全に狂っている」

 「そんな~」

 「好きに言っているがいい。哀れなモルモットたちよ」


 目の前の男は完全に狂っている。魔法師のことをただの実験道具としか思っておらず、人の命に対してもまるで罪悪感がない。


 これは一刻も早く対策を立てなければならない。


 「せいぜいおとなしくしているのだな」


 白衣の男はそう言い残して、立ち去ろうとした。しかしそこに一人の男が駆け寄ってきて耳打ちをする。


 すると白衣の男はにやりと笑みを浮かべながら、セイヤたちの方を見た。


 「残念な知らせだ。私たちはいま金に困っている。そこでとりあえず貴様らの中から一人選べ。今からそいつの臓器を貰うことにする。知っているか? 魔法師の臓器は高く売れるのさ」

 「「「「なっ……」」」」

 「私は優しいからなお前らに選択の余地を与える。三分で決めろ」


 ニヤニヤと極悪な笑みを浮かべている白衣の男は、まるでセイヤたちの話し合いを楽しみにしているようだった。


 自分の命を前にしてどのような選択をするのか。白衣の男にとってはそんな人間の醜さが何より好物だった。


 「狂いすぎだろ……」

 「無駄口叩く暇があったらさっさと決めろ、デカブツ。また電気を流されたいか?」

 「くそっ……」

 「早く決めないとこっちで選ぶぞぉ? クヒヒヒ」


 セイヤはどうすればいいのかを考える。ここにいるのは先ほど協力しようと誓った仲間たち。まずは男に聞かれないように話し合いをしたい。


 そんなことを考えながら仲間たちのことを見たセイヤだったが、仲間たちはセイヤのことを見つめている。


 「えっ……まさか……待ってよ、みんな! さっき……」

 「うるせぇ! アンノーン、俺は中級魔法師一族だぞ」

 「そうだアンノーン。お前は死んでも悲しむ人がいないだろ? 俺らには家族がいる」

 「頼んだよ、アンノーン~がんばれ~」

 「それに、これこそお前にできる唯一の協力だろ」

 「ちょっと待っ、『決まったようだな』……」


 白衣を着た男がそう言うと、後ろに控えていた男たちが牢のカギを開けセイヤのことを連れ出す。


 「さて、話のわかる餓鬼だったが仕方ない」

 「待ってよ! ザック君! ホア君! シュラ君! 仲間って言ったよね!」

 「「「ああ、そうだ。だからじゃあな! アンノーン。お前の犠牲は無駄にしないぜ」」」


 ザックたちが笑顔でセイヤのことを見送る。皮肉にも、三人がセイヤに笑顔を向けたのはそれが初めてだった。

三人は自分が生き残るために必死であり、おそらくこれからも仲間のことを見捨てていくのだろう。


 別れ際まで裏切った三人を睨むセイヤだったが、そのまま引きずられるように連れていかれる。


 連れていかれたのは手術室のようなところ。広い部屋の真ん中に一つのベッドが置いてある。


 セイヤは真ん中のベッドに寝かされ首、手首、足首、お腹に拘束を受けてベッドに貼り付けられてしまう。


 抵抗しようにも、体は拘束され、魔法も魔封石の影響で使えない。そんなセイヤのことを大きなライトが照らした。


 少しすると、手術着に着替えた白衣の男が手術室に入って来る。隣には助手のような研究者もいて、まさに手術直前だ。


 白衣の男と助手の男は手術機器などをセットしていく。セイヤはなんとか抵抗しようと暴れるが、ベッドに貼り付けられたまま動けない。


 そんなセイヤに対して白衣の男が言う。


 「私も鬼ではない。遺言くらいは聞いてやるぞ。話のわかる餓鬼よ」


 それが情けか、はたまた男の気まぐれか、わからないが、セイヤにとってはどちらでもよかった。セイヤは一生懸命に命乞いをする。


 「やめてください! お願いします。助けてください。何でもするから!」

 「なるほど。残念だがそれはできない話だ。ここでお別れだな、話のわかる餓鬼よ」

 「ンーンーンー! ンーンーンー!」


 男はセイヤに麻酔をかけるため、口にマスクを押し当てる。そして徐々に麻酔が効き始め、セイヤ意識を奪っていく。


 意識がかすんでいく中、セイヤは考える。


 (なぜ僕なんだろう……なぜ僕はアンノーンと言われて軽蔑されるんだ……なぜ僕には親がいないのだろう……なぜ僕にはちゃんとした記憶がないのだろう……もし僕がアンノーンじゃなかったら……もし僕に本当の家族がいれば……なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜ、なぜ?)


 セイヤは自分の人生はなんと虚しいものなのだと感じていた。


 十歳までの記憶がなく、保護されてからも教えて貰えた魔法は基本のごく少し。学園に入ったら学園中からアンノーンと軽蔑され、訓練ではクラスメイトからリンチを受け、拉致されたけど仲間ができたと思ったら裏切られ……。


 (あぁ、僕はこのまま惨めに死んでいくんだ。つまらない人生だったな……。もっと僕に力があったら……)


 もしあの時、反撃していなかった、もしエドワードの養子になっていたのなら、もし今日学園を欠席していたら、もし魔法学園に通わなかったら。


 そんな後悔を思い返すセイヤ。


 だがついに麻酔によってセイヤの思考が止まりそうになる。


 麻酔に抗い続けようとするセイヤだったが、ふと思った。


 どうせ殺されるのだったら、このまま麻酔に抗い続けて痛みながら死ぬより、素直に麻酔で意識を失って楽に死んだ方がいいのでは、と。


 そう考えたセイヤは自ら意識を手離そうとする。


 そんな時だった。


(憎いか?)


 セイヤの頭の中で声がした。しかしその直後、セイヤの意識は闇に落ちた。


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