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第5話 落ちこぼれの苦痛

 背中に悪寒を感じたセイヤはすぐに振り向いた。


 「よぉ~アンノーン。探したぜ」

 「ザック君……」


 そこにいたのはセイヤにやたら絡むザック、そして取り巻きの二人。


 セイヤは急いで双剣ホリンズを構えようとしたが遅かった。ザックが展開していた魔法陣から赤い鎖が出現してセイヤの足に巻き付く。


 セイヤは足に巻き付いた鎖を外そう試みるが、鎖は火属性の魔法だったため、触った瞬間高熱がセイヤの手を襲う。


 ザックが使った魔法は火属性初級魔法『火鎖ひぐさり』。この鎖はたとえ切れたとしても、すぐに活性化して鎖に戻る捕獲によく使われている魔法だ。


 ザックがセイヤの足に巻き付けた鎖を引っ張り、セイヤはバランスを崩してしまう。


 「アンノーン、俺達も訓練を始めようぜぇ。といってもここじゃなんだから移動するか」


 ザックは鎖を持ちながら走って移動を開始する。ホアとシュラもザックに続き走り出すが、セイヤの足は『火鎖』のせいで自由が利かないため、必然的に地面を這いつくばる形になってしまう。


 「クッ……」


 森の地面特有の凹凸が容赦なくセイヤのことを打ち付けるが、ザック達はそんなことを気にしない。


 引きずられること五分、セイヤの顔や制服は泥だらけになりながら連れてこられた場所は小さな広場。ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながらセイヤのことをみる三人。その眼からは恐ろしいほどの蔑みと憎しみが感じられる。


 逃げようにも逃げることができない。周辺には人がいる様子もなく、誰かと遭遇することもなさそうだ。といっても、セイヤと遭遇したところでセイヤに加勢するものなどいないが。


 三人はセイヤのことを蔑みの目で見る。


 「アンノーン。楽しい戦闘を始めようぜぇ」

 「サバイバルだからなぁ。みんな敵だ」

 「でもまず誰か共闘しないか~? まず一人倒そうぜ〜」

 「そうだなぁ。じゃあまずはアンノーンからだな!」


 わかりきっていた茶番を繰り広げた三人は、セイヤに向かって次々と魔法を行使する。


 「我、火の加護を受ける者。今、我に火の加護を。『火弾」

 「我、火の加護を受ける者。今、我に火の加護を。『火弾」

 「我、風の加護を受ける者。今、我に風の加護を。『風刃ふうじん』」


 三人の行使した魔法が、次々とセイヤのことを襲いかかる。


 「うわぁぁぁ」


 セイヤは双剣ホリンズでその攻撃を防ぐが、行使された魔法の数が多すぎた。


 無数の攻撃がセイヤに襲いかかるが、その体に傷などはつかない。それでも肉体に襲いかかるはずだったダメージは精神に行くため、セイヤは苦悶の表情を浮かべる。


 「どうしたぁアンノーン? 反撃しないのか?」

 「それとも反撃できないのかぁ?」

 「そういえばお前魔法使えなかったな~」

 「「「ギャハハハハハ……」」」


 セイヤが守りに徹している姿を見て、大声をあげながら笑う三人。確かにセイヤは魔法が十分に使えなかったが、三人程度のなら反撃することは可能である。


 けれどもセイヤは絶対反撃はしないと決めていた。もしここで反撃でもした場合、普段からきついいじめが更にきつくなってしまう。ザックはそういう男だとセイヤは知っている。


 そしてザックたちもまた、セイヤが反撃してこないことをわかっていた。


 「我、光の加護を……うわぁぁぁ」

 「ハハッ、アンノーンしっかり詠唱しないと魔法は出ないぞ?」

 「うっ……」

 「ザックどうする? とどめさすか?」

 「いや、まだだ。まだまだ戦闘しないとなぁ。ギャハハハハハ」


 反撃はしないが、防御魔法で自分の身を守ろうとしたセイヤ。しかし詠唱が完了する前に、強制的に詠唱を中断させられてしまう。


 セイヤが反撃しないことを知っているザックたちは防御を考える必要がない。だから思う存分セイヤに攻撃することができる。


 セイヤのことを痛めつけている三人だったが、ザックだけは心の底から歓喜の笑いを上げていて、他の二人とは何かが違っていた。


 普段では見たことがないザックの姿に、ホアとシュラは少しだけ戸惑う。


 ザックの様子がおかしいことはセイヤも薄々感じていた。いつもなら気が済んだらすぐにセイヤのことをリタイヤさせるというのに、今日だけは違っている。


 セイヤのことを痛めつけても、痛めつけても、満足した様子はなく、攻撃を続けているのだ。


 (このままじゃ……)


 根拠のない危機感がセイヤの心に浸食し始める。それは人間としての本能。けれども数々の攻撃がセイヤのことを襲う中ではどうすることもできない。


 (こうなったらあれしか……)


 やむことのない苦痛の中でセイヤはある手段を考える。それはいつも練習している魔法。一度も成功したことはないが、この状況を打開するにはあの魔法しかない。


 成功する保証なんてない。


 けれどもここであの魔法を使わなければいけない。セイヤはそう感じていた。


 苦痛に耐えながら、セイヤは体内で光属性の魔力を錬成し始める。


 焦る必要はない。そう自分に言い聞かせて、セイヤは落ち着く。


 「アンノーンがなんかしようとしているぜ」

 「どうせ不発だろ」

 「無駄なあがきをするね~」


 三人はセイヤが何かをしようとしていることはわかったが、詠唱をしていないことから魔法が発動するわけがないと確信した。


 理論上、無詠唱での魔法の行使は可能だとされているが、そんな芸当ができるのは一部の実力者だけ。そしてセイヤはそのような魔法師ではない。


 並の魔法師が詠唱破棄をするには、魔晶石という補助具が必要になるが、目の前にいるセイヤが例え魔晶石を持っていたとしても、使えるとは思えない。


 つまりセイヤが無詠唱で魔法を行使することは不可能である。


 「ふぅ……」


 セイヤは落ち着きながらも、心の底ではかなり焦っていた。もし今から行使する魔法が成功しなかった場合、自分がどうなるかわからない。今のザックの様子を見る限り、下手したら自分はザックに殺されるかもしれない。そんな恐怖がセイヤの魔力を高めていく。


 いつもは感じない量の魔力。それは自分の危機に目覚め始める潜在能力の片鱗。


 「「「なんだこれは!?」」」


 魔法の発動直前になって、三人はようやくセイヤから感じる魔力がいつもと違うことに気づく。


 焦った三人はすぐに追加の魔法をセイヤに向かって行使した。


 「『火弾』」

 「『火弾』」

 「『風刃』」


 三人が行使した魔法がセイヤに襲い掛かる、はずだった。だが次の瞬間、さきほどまで苦悶の表情を浮かべていたセイヤの姿が三人の視界から消えた。

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