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第20話 ユアの父親

 ダリス大峡谷での激闘から二日後、セイヤとユアの姿はアクエリスタンにあるユアの家にあった。


 ウンディーネとの激戦の後、二人が目を覚ますとそこにはゲドちゃんがおり、二人を背中に乗せて一気にダリス大峡谷を突破したのだ。そして無事アクエリスタンに戻ってきたセイヤはユアの家に滞在していた。


 「ふう、いよいよか」


 セイヤはユア宅の一室である人を待っていた。それはユアの父親。


 ユアが家に戻ってきたとき、ユアの父親は仕事で街の外に出ていて、今日戻ってくるのだ。そしてセイヤはこれからユアの父親と対面するのである。


 「緊張してる……?」

 「まあな」


 挨拶を前に緊張するセイヤ。しかしそれも無理のないことだ。なぜならユアの父親はこの国でも有名な魔法師だから。


 ユアの父親の名前はライガー=アルーニャ。


 その男はレイリア王国に十二人しかいない特級魔法師の一人である。特級魔法師は最強クラスの実力を誇る魔法師だ。当然、敬意を払うべき相手だ。


 コンコン、そこでドアがノックされる。どうやらユアの父親が帰ってきたようだ。


 「失礼する」


 扉を開けて入ってきたのは緑の髪をした筋肉質の男。


 (これが雷神の異名をとる魔法師でユアの父親……)


 セイヤはライガーの姿を見ると、姿勢を低くしてあいさつをする。


 「初めまして、お邪魔しています。私、初級魔法師のキリスナ=セイヤと申します」

 「キリスナ……セイヤ……」


 ライガーがセイヤのフルネームをつぶやく。そしてセイヤの改まった挨拶にユアが驚いた表情を見せる。その表情を見て、ライガーがセイヤに言った。


 「別に改まる必要はない。いつも通りにしてくれ」

 「しかし……」

 「魔法師の格式なんて気にするな。俺はお前の本質が見たい」

 「ですが……はぁ、わかった」

 「それでいい」


 ニヤリと笑みを浮かべてライガーが席に座ったので、セイヤたちも腰を下ろす。


 「まずはうちの娘を届けてくれたことに感謝する」

 「いや、レイリアに帰るついでだ」

 「そうか。それでも礼を言わせてくれ。ありがとう」


 セイヤに向かって頭を下げるライガー。その光景は見る人が見れば異様だが、ライガーは気にしない。


 「ところで、ダリス大峡谷を通ったと聞いたが?」

 「ああ、ユアが聖教会に行きたくないと言ったから」

 「なるほど。ではユアの秘密は……」

 「聖属性のことは知っている。だが他言する気はない」

 「そうか」


 セイヤの答えに少しばかり安堵の表情を見せるライガー。このあたりは人の親なのだな、とセイヤは心の中で思う。


 「お父さん……」


 そこでユアがライガーを呼ぶ。


 「なんだ、ユア?」

 「セイヤ……お父さんにお願いがある……」

 「お願い? なんだ?」


 改めてセイヤの方に視線を向けるライガー。無意識だろうが、その視線は鋭い。


 「えっと……」


 口ごもるセイヤ。さすがにいきなり闇属性が使えるというのもどうかと思い、セイヤは考える。


 「安心しろ、別に聖教会に報告なんてしない」

 「それじゃ……俺は闇属性を使う」

 「闇属性か、異端の力だな」


 あまり驚いた様子を見せないライガー。このあたりはさすが特級魔法師と言えるだろう。


 「それで?」

 「できれば今後、俺の力がバレないように便宜を図ってほしい」

 「なるほど、具体的には?」

 「情報の隠蔽」


 セイヤの要求は聖教会への報告の隠蔽。いくら注意しても、本人の知らないところで調査されれば対抗できない。


 そこで特級魔法師に協力をしてもらうのだ。


 「そう来たか。ところで、これからの予定を聞いていいか?」

 「これからの予定?」


 そう聞かれて考え込むセイヤ。よくよく考えれば、セイヤはこれからの予定を決めていない。ウィンディスタンに帰るにしても、セナビアに戻れば事件の参考人として聖教会に呼ばれるだろう。


 だからといって、他の地方に行くにしても当てがない。つまり今のセイヤはホームレスだ。


 そこでライガーが提案する。


 「行く当てがないならうちに住め」

 「ここに?」

 「幸い、この家には空き部屋が何個もある」


 確かにユアの家は屋敷のように広いから空き部屋もたくさんあるだろう。しかしここに住むのはどうかと思うセイヤ。


 「それにうちにいれば聖教会も簡単には手を出せない」

 「確かにそうかもしれないが……」


 聖教会も簡単には特級魔法師の家を捜索はできない。


 「セイヤがうちに住むことを、ユアはどう思う?」

 「いいと思う……」


 そう言いながら、セイヤの手を握るユア。


 「ユア?」

 「セイヤ……ダメ……?」


 不安そうな表情で上目遣いをするユア。


 「ダメというわけではないが……」

 「ほう、ユアはずいぶんセイヤを気に入っているようだな」

 「うん……セイヤは大切な人……」

 「ユア!?」

 「珍しいな、ユアがそこまで言うなんて」

 「うん……できれば一緒がいい……」

 「ならこの際、婚約者にでもするか?」

 「はっ!? なにを言って……『そうする……』」


 とんとん拍子に進む二人の話。完全にセイヤは蚊帳の外だった。


 「という訳でセイヤ、今日からお前はユアの婚約者としてうちに住め」

 「いきなりなにを言っている」

 「デメリットはないぜ?」

 「セイヤ……ダメ……?」


 二人からの圧力に考え込むセイヤ。だがここで拒否できるほど、セイヤの神経は図太くなかった。


 「わかったよ。今日からここで世話になる」


 こうしてセイヤの新しい家と、ついでに婚約者が決まったのであった。



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