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第3話 落ちこぼれの特訓

 セナビア魔法学園では、二時間目が終わると、長い休みに入る。


セイヤはザックたちに見つからないよう足早に教室を出ると、中央階段を上り、校舎の屋上へと向かった。セナビア魔法学園の屋上は通常、生徒の立ち入りを禁止しているが、セイヤだけは特別に許可されている。


 これはセイヤのためであると同時に、他の生徒のためでもあった。アンノーンと軽蔑されているセイヤと同じ場所で自主練をすれば、その場の空気は空気が悪くになり、セイヤにとっても他の生徒にとっても心地が悪い。


 そこで気を利かせたラミアが屋上の使用許可をとってくれたのだ。


 屋上使用の許可はセイヤにとってもありがたく、一人で集中できる空間を有効活用させてもらっている。だがセイヤが鉄製の扉を開けて屋上に着くと、そこには先客がいた。


 屋上にいたのは紺色の燕尾服を着た、小太りの初老の男性。口周りには黒いひげが生えており、印象としては優しいおじさまといった感じだ。


 「やあセイヤ。元気かい?」

 「はい、先生」


 彼はこのセナビア魔法学園の学園長であり、同時にセイヤの保護者でもあるエドワードだ。


 エドワードとセイヤが初めて出会ったのは、セイヤが十歳の時。当時のセイヤは記憶を失っており、ウィンディスタンの街をさまよっていた。そんなところを偶然エドワードによって保護され、それ以来セイヤとエドワードは一緒に暮らすようになったのだ。


 エドワードには子供がいなかったため、セイヤのことを実の息子のように可愛がり、魔法も教えた。しかしセナビア魔法学園に通う生徒の保護者達から、魔法学園の学園長が一個人に魔法を教えるのはどうか、といった声が上がり始める。


 最初はセイヤのことを養子にすると言い出したエドワードだったが、セイヤの生い立ちや能力を知った一族に止められ、エドワードは泣く泣くセイヤのことを手放すしかなかった。


 それでもせめて自分の近くに置きたいと考えたエドワードは別荘にセイヤを住まわせ、セナビア魔法学園に入学させたのだ


 セイヤがセナビア魔法学園に入学以来、二人は学校がある日は毎日中休みに屋上で会うようになっている。エドワードはセイヤにとっても実の父親のような存在であり、同時に魔法の師匠でもある。


 といっても、毎日話すことは他愛のないことだ。だが二人にとってこの時間がとても大切だった。そして今日もエドワードはセイヤにある提案をする。


 「セイヤ、わたしは君を息子のように思っている」

 「ありがとう先生。僕も先生を父親のように思っているよ」

 「なら私の息子になれ。養子になれば、セイヤがアンノーンと言われ軽蔑されることもなくなるんだぞ」


 エドワードはセイヤが受けているいじめを知っている。しかし彼の立場上、問題にならないことに関わることはできない。


 セイヤが助けを求めれば、すぐに手を出すことができる。でもセイヤは何も言わない。これ以上、エドワードに迷惑をかけたくなかったから。


 もしセイヤがエドワードの養子になれば、セイヤは確かな家柄を手に入れることができ、今のいじめも当然なくなる。だがセイヤはそれを断固として受け入れなかった。


 例え一族が反対したところで一度養子にする手続きさえしてしまえば、セイヤはもうエドワードの子供だ。エドワードにはそれほどの覚悟がある。


 「先生それはできない。僕は先生にいっぱい助けてもらった。だから迷惑かけられない」


 セイヤの言う迷惑とはセナビア魔法学園長が養子に迎えたのがアンノーンであるということだ。エドワードには子供がいないため、セイヤを引き取ると必然的に次期当主がセイヤになる。そんなことになったらエドワードの一族の名に傷をつけることになってしまう。


 それに加え、セイヤを養子にすることは、法律的にもいろいろ厳しいところがあるのだ。そこのところをよく理解しているセイヤは、エドワードの提案を受けることは決してなかった。


 「そうか。私はそんなことは気にしないから気が変わったらすぐに言いなさい」

 「ありがとう先生」

 「じゃあがんばるんだぞ」


 エドワードは後ろ髪を引かれる思いで屋上から出ていく。



 屋上に残ったセイヤは三時間目に突入すると自主練を始めた。


 「よし」


 セイヤは体内で光属性の魔力を練成させ、体の周りに光属性の魔力を纏わせる。黄色い魔力がゆっくりセイヤの体を包み込んでいく、が、次の瞬間、光属性の魔力が弾けて消えてしまった。


 「う~ん、やっぱり無理か。無詠唱でやるのは厳しいな。といってもこの魔法はオリジナルだから完全な詠唱もわからないし」


 セイヤは再び光属性の魔力を体の中で練成し、光属性の魔力がセイヤの体の周りに纏わりつくが、すぐにはじけ飛ぶ。


 セイヤは座りながら、もう一度同じことをしてみるが、次も同じところではじけ飛ぶ。


 セイヤが試していたのはセイヤのオリジナル魔法だ。オリジナル魔法は理論から構築するため、詠唱がなかなか決まらない。だから開発にはものすごい時間を要する。そのためこの世界で新魔法が開発されるのはとても珍しいことであるのだ。


 そんなことにセイヤは挑戦していた。


 「詠唱を入れてみるか。でもこの間、光属性と強化と魔力常駐の単語使ったけど成功しなかったし……」


 独り言を言いながら、セイヤは大の字で寝そべりながら雲を眺める。


 今試しているオリジナル魔法のことを師匠であるエドワードに相談してみたのだが、すぐにやめるように言われた。


 理由はいたってシンプル。


 セイヤの魔法は理論もしっかりとしてないというのに、すでに発動段階になっていたから。魔法は理論をしっかりと理解していないと、いつ不測の事態に陥るかわからない。


 それに間違った詠唱同士を組み合わせてしまうと、術者を傷つけてしまうことだってある。


 なので、このままでは危険だと判断したエドワードはセイヤに新魔法の開発をやめるように言ったのだ。だがセイヤはエドワードに秘密で魔法の開発を続けていた。


 それはもしこの魔法が完成すれば、セイヤの戦闘能力が飛躍的に上がるから。そうすれば自分を見下す人々を見返すことができるかもしれない。


 この新たな魔法にはそんなセイヤの願いがこもっていた。セイヤはその後何回も同じことを三時間目の終わりまで続けたが、結局成功することはなかった。


 四時間目の授業に入ると、セイヤは先ほどとは違い、新たな魔法の訓練に取り掛かる。


 セイヤは木の枝を握りながら、詠唱を始めた。


 「我、光の加護を受けるもの。示せ、光の力『光延(スプリード)』」


 魔法陣が展開すると、木の枝が光りだす。厳密には木の枝が光属性の魔力に纏われた。


 セイヤは枝に流し込む魔力量を上げる。すると枝の長さが三倍になる。三倍といっても枝の長さがではなく、枝の纏う光が延びて枝の三倍の長さになったのだ。


 セイヤはそのまま光の長さを保ち、次に長さを二倍に下げる。二倍になったらそこで留め、そしてすぐに六倍にしようとした。


 しかし六倍になる直前に枝が折れ、魔力が消えてしまう。


 「くそ、やっぱりか。もう少しやわらかく、もう一度」


 セイヤが練習している魔法は光属性初級魔法『光延スプリード』といい、対象の長さを光属性の魔力で延ばすことができるという魔法だ。


 セイヤはこの魔法を自由自在に操って戦闘中、剣の長さを自由自在に変えられないかと模索していた。

ちなみになぜ木の枝なのかというと、戦闘中の剣には衝撃があるため、衝撃の無い今の状態で枝を折っているようでは戦闘中に剣が折れてしまうからである。


 セイヤはその後もずっと同じことをやったが、毎回枝を折ってしまい、結局今日の自主練の時間に成功した魔法は一つもなかった。


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