第28話 乱心
「ちっ、厄介な」
どんなに攻撃してもすぐに再生するゲドちゃんに苦戦するセイヤ。だが実力的にはセイヤが上のため、先ほどからセイヤが傷を負うことはない。
それども終わらない戦いはセイヤに精神的な疲労を与えていく。
ここまで戦って分かったことは二つ。
一つはゲドちゃんの攻撃には周期性があること。おそらくウンディーネによってプログラムされているのだろう。
そしてもう一つは少しでも水が残れば、ゲドちゃんは再生するということだ。先ほど八割を消滅させたにも関わらず、再生したゲドチャン。
つまり倒すには一気にすべてを消滅させる必要がある。ゲドちゃんが口元に青い魔法陣を展開する。
「ブレスだろ!」
セイヤが即座に跳躍してその場を離脱すると、直後セイヤのいた場所にゲドちゃんからのブレスが撃ち出される。ブレスを避けたセイヤは後方に着地すると、すぐにまた跳躍した。
「今度は飛行からの翼の攻撃だろ」
セイヤの言う通り、ゲドちゃんが翼をはためかせて地面から飛び立つ。だがその動きを予想していたセイヤはゲドちゃんの背後を取ることに成功した。
「『光延』」
セイヤがホリンズに纏わせた魔力を延ばして刃物上にする。そして長剣になったホリンズでゲドちゃんの首を刈った。
グギャァァァァァァァァァァ
悲鳴を上げるゲドちゃん。しかし頭と胴体のどちらかが残る限り再生されてしまう。だからセイヤはすぐに次の魔法を行使した。
「『闇の息吹』」
無秩序に撃ち出された闇属性の魔力がゲドちゃんの頭を消滅させる。
「あとは胴体。『闇球』」
頭を失ったゲドちゃんの上に、セイヤが巨大な闇属性の魔力の球体を出現させる。闇属性中級魔法『闇球』、魔力が尽きるまで触れたものを消滅させる魔法だ。
闇の球体はゲドちゃんの頭があったところに出現すると、そのまま重力に逆らわず地面に向かって落下していく。
そして落下すると同時に、ゲドちゃんの胴体を巻き込みながら消滅させていく。
「終わりだ」
球体が地面に到達する頃には拳ほどの大きさに縮小しており、ゲドちゃんの水もすべてが消滅した。
これでゲドちゃんとの戦いは終わりだ。
「ユア、こっちは終わった……ぞ……」
セイヤはすぐにユアたちの方の戦闘に向かおうとした。しかしユアたちの戦闘はすでに終わっていた。ユアの死亡をもって、ウンディーネの勝ちだ。
「ユア……?」
状況を理解できていないセイヤはふらふらとユアの下に近付いていく。セイヤの視線の先にいるのは地面に横たわるユア。体に傷などはない。
だからセイヤはユアが死んでいるとは思えない。
「ユア……ユア……」
ユアの下に駆け寄り、その亡骸を抱えるセイヤ。体温はまだ温かいが、いくら揺らしても反応がない。
「なぁユア、寝てるんだろ? それともあれか、死んだふりか? それなら安心していいぞ。俺が来たから。二人であいつを倒そうぜ。だから目を開けてくれ……」
懇願するようにユアの体を揺らすセイヤ。しかしユアが目を開けることはない。
「ユア、ユア。起きろ、なぁ、大丈夫だって。俺が来たから」
自分の背後にウンディーネがいるのもお構いなしでユアの体を揺らすセイヤ。そんなセイヤにウンディーネは冷酷非情に事実を告げる。
「無駄よ。その子はもう死んでいるから」
「ユア、起きろよ、目を開けてくれ」
「完全に沈静化させて窒息死させたもの」
「ユア! ユア! ユア! 起きろ! なぁ起きろよ!」
ウンディーネの話を聞かず、ただひたすらユアの体を揺らすセイヤ。
セイヤにとって、ユアは初めての仲間だった。もっと正確に言うのであれば、はじめて自分を必要と言ってくれた存在だった。
落ちこぼれ魔法師だったセイヤは同世代から疎まれることはあっても必要とされることはなかった。しかしユアはセイヤのことを必要としてくれた。
それが闇属性を使えるから、聖属性を隠すのにちょうどいいから、どんな理由があったかは知らない。でもたとえどんな理由があろうとも、自分を必要としてくれたことに変わりはない。
それがセイヤには溜まらず嬉しかった。
生まれて初めて必要にされた、仲間と言ってもらった。だからセイヤはそんなユアとずっと一緒にいたいと思っている。
それが恋心なのか、それとも依存なのか、はたまた別の感情なのかはわからない。それでもユアの死を受け入れられないことは事実だった。
いくら呼び掛けても反応のないユアに呆然とするセイヤ。その表情はまるで魂が抜け落ちたようだ。
「あなたも終わりよ」
ウンディーネが水の剣を構築しながらセイヤに言ったが、セイヤはまったく反応していない。
もはやウンディーネの存在などどうでもよかった。
ユアを失ったことに対する悲しみが大きすぎた。
「さようなら、光と闇の魔法師さん」
「うっ……」
ウンディーネが水の剣でセイヤの心臓を貫く。心臓を貫かれたセイヤはその場に倒れると、胸から大量の血を流し始めた。
ウンディーネはその姿を見てセイヤの死を確信すると、水の剣を消して周りの湖の法に近付いていく。
「また新しい椅子を作らないとね」
ウンディーネはそう言いながら、新しい椅子の制作に取り掛かった。
胸を貫かれたセイヤの意識は不思議な空間にいた。
そこは白虎戦でセイヤが致命傷を負った時に着た場所。当然ながら目の前にはあの闇が無尽蔵に広がっている。
今思えば、あの時セイヤを闇から守ってくれたのはユアの聖属性だった。でももうそのユアはいない。ウンディーネの手によって殺されてしまったのだから。
「またお前か……」
ユアを失ったセイヤは意思のない瞳で闇に向かって堕ちていく。その闇が危険だと本能的にわかっていても、今のセイヤにとってはどうでもよかった。
だから闇がセイヤに話しかけて来ても、セイヤは光の宿らない瞳のまま聞いていた。
「よぉ、ずいぶんな面だな」
「……」
「ちっ、頼りが死んでご傷心か。ざまぁねーな」
闇が話しかけても、一向にセイヤは反応を示さない。
「はぁ、そんな態度でいいのか? まだあの娘を助けられるというのに」
「……えっ?」
「やっと興味を持ったか」
「どういうこと? まだユアを助けられるの?」
セイヤは必死に聞いた。まだユアを助けられるなら、どんなことをしても助けたい。
「ああ、まだ間に合う。俺に任せてくれたらな」
「お願い、ユアを助けて」
「ふん、いいぜ。なら早くこっちに来い」
ユアを助けられると聞いて、セイヤは藁にも縋る思いでその闇に向かって進んでいく。そして闇はセイヤのことを受け入れると、その体をあっという間に包み込んだ。
そして、目覚めた。




