第27話 ウンディーネの実力
セイヤはホリンズを手にゲドちゃんへと近づくと、ゲドちゃんは口元に青い魔方陣を展開し、セイヤに向かって水のブレスを撃ち出す。
「悪いが効かない。『闇の息吹』」
ウンディーネとは違い、ゲドちゃんの沈静化はそこまで強くはない。だが攻撃の威力等はウンディーネの数倍だ。
そのため当たれば一撃でその命を削られるだろう。
セイヤは闇属性を駆使しながら、ゲドちゃんに近付いていく。だがゲドちゃんも馬鹿ではない。攻撃が当たらないと見るや、すぐに広範囲攻撃に切り替える。
「これは」
セイヤの足元に小さな魔法時が無数に展開される。それが地面から何かしらの攻撃が来ると予想するのにさほど時間はかからない。
しかし消滅させようにも、数が多すぎる。
そこでセイヤは防ぐのではなく、回避を選択した。
「『纏光』」
魔法行使と共に、青い魔方陣から鋭い水が撃ち出されるが、光属性の魔力を纏ったセイヤは次々と魔法陣からの攻撃を避けていく。
「遅いぜ、ドラゴン」
セイヤはそのまま跳躍すると、光属性の魔力を纏わせたホリンズでゲドちゃんの首元に近付く。そしてそこで新たな魔法を行使した。
「『光延』」
セイヤが魔法を行使すると、ホリンズの纏う光属性の魔力が延びていき、長い剣と化す。長剣と化した双剣でそのままゲドちゃんの首を斬り落とすセイヤ。
頭を失ったゲドちゃんはこれでコントロールを失い水に戻る、はずだった。しかし次の瞬間、そこには信じられない光景が広がっていたのだ。
なんと頭を失った胴体は崩壊するどころか、湖の水を集めだして再生を始めたのだ。そしてあっという間に先ほどまでの姿に戻ってしまった。
ギャオオオオオオオオオオオンンンンン
大きな咆哮と共にセイヤを睨むゲドちゃん。その瞳は殺気に満ちている。
「おいおい、嘘だろ」
セイヤは予想外の展開に脂汗を浮かべるのであった。
セイヤがゲドちゃんと戦っている頃、ユアもユリエルを手にウンディーネと戦っていた。相変わらず空中に据え付けられた椅子に座るウンディーネは余裕の表情でユアのことを見下している。
「負けない……『火斬』……」
ユアがウンディーネに向かって火属性初級魔法である『火斬』を行使する。『火斬』は相手を斬った際に傷口から火を発生させる技だが、当然ウンディーネに効くはずがない。
ウンディーネは水の盾でユアの攻撃を防ぐ。その際、水が蒸発して水蒸気になる。
「無駄よ」
「まだ……『風牙』……」
ユアは続けざまに『風牙』を行使してウンディーネに襲いかかるが、その程度の攻撃を止められないウンディーネではない。
「だから無駄って、言ってるでしょ!」
ウンディーネはまたしても水の盾でユアの攻撃を防いだ。だから一瞬だけ、ほんの一瞬だけユアから視線を外してしまった。ユアはその隙を逃さんとばかりに攻撃を続ける。
いつの間にか左手に握られているユリアル。
ユアはほんの一瞬だけ『単光』を全身に行使して身体能力をあげている。ユアが全身に『単光』を行使できるのはせいぜい二秒が限界だ。
だが二秒もあれば、ユリアルを生成してユリエルを結弦にかけることは可能だ。
ユリエルにまとわりつく魔力の色は白。それはユアが使うことのできる魔法の中で最強の魔法。
「ホーリー・ロー」
ユアが結弦から手を離すと、白い魔力を纏ったユリエルが螺旋回転しながらウンディーネに向かって一直線で飛んで行く。
両者の距離は十メルもない。その距離でウンディーネがユアの攻撃に反応するのは不可能だった。聖なる魔力を纏ったユリエルがウンディーネに襲いかかる。
「終わり……」
ユアが終わりを告げる。
しかしウンディーネの表情にはまだ余裕があった。
「完璧な攻撃ね。でも、残念」
パチン
ウンディーネが指を鳴らす。直後、ウンディーネの座っていた椅子が水に変化して霧散すると、ウンディーネの体を包み込むように球体を形成した。
ユリエルは構わず進むが、その球体に突有した直後、当然勢いを弱めていき、白い魔力も消えてしまう。そして水の中でユリエルは崩壊した。
「これは……」
「特別に教えてあげる。あの椅子は私が何百年もかけて生成した水でできているの。だからそこらの水より断然沈静化が強力。その水を敗れる攻撃なんて存在しないわ」
「まあ、一回限りの秘密兵器だけどね」と付け加えたウンディーネだが、ユアの耳には届いていない。
「開始と共に電光石火の大技、格上相手の戦い方としては間違っていないわね。でもそれは相手が油断しているときにしか意味がない。そして私はあなたを舐めてはいなかった」
「くっ……」
ユアは自分の最強にして最高の攻撃が防がれたことにショックを隠し切れない。だが茫然自失している余裕をウンディーネがくれるはずもなかった。
ユアはすぐに新しいユリエルを『聖成』で生成すると、ウンディーネに向かって構える。
「あら、まだやる気はあるのね」
「まだ始まったばかり……それに椅子から降ろした……」
強気になるユア。だが戦況は圧倒的に不利だ。ユアが奥の手を使ったのに対し、ウンディーネは欠片も全力を見せていない。
だからといって、ここで戦意を喪失するほどユアの心は弱くない。
「確かに椅子を使わざるを得なかった状況に追い込んだことは褒めてあげる。でもその程度の聖属性が使えるからって、自信過剰になることはお勧めしないわ」
「聖属性を知っているとは……」
ウンディーネが聖属性を知っていることに表情を厳しくするユア。しかしウンディーネからしてみれば聖属性を知らないと思われる方が不快だった。
「聖属性を知っているなんて当然でしょ? その力の根源を考えれば」
ウンディーネの言うことをよく理解できないユアだが、今はそんなことを考えている暇はない。
ウンディーネが攻撃を仕掛けて来た。
「蹴散らして。ウォータータイガー」
ウンディーネが指を鳴らし、三体の水のトラを作り出す。水のトラたちは命令された通り、ユアに向かって突進を始める。
「無駄……『聖槌』……」
自分に向かってくる虎たちに対し、ユアは光属性最上級魔法の『聖槌』で行使する。これはセイヤが使っていた魔法だが、光属性を使うユアも当然使えた。
魔力の圧力に水のトラたちがつぶされて水に戻る。
「まだよ。ウォーター二ドル」
再び指を鳴らすと、弾けた水たちからユアに向かって無数の水の針が撃ち出される。
「邪魔……『風牙』……」
すかさずユアが風で水の針を打ち返す。そしてそのままユリエルを片手にウンディーネに向かって攻撃を仕掛けた。
「遅いわよ。ウォーターバリア」
ウンディーネが水の壁を構築して、ユアの行く手を阻む。けれどもこの程度の防壁、ユアにとっては障害とも呼べない。
「『単光』……」
ユアは自身の脚力を上昇させると、そのまま水の防壁を跳躍して飛び越える。
「あら、驚きね」
ユアの行動に驚くウンディーネ。だがその表情にはまだ余裕の色が見える。
「その余裕……失くしてあげる……」
「楽しみね」
「『風床』……」
魔法を行使した直後、ユアが空中を蹴ってウンディーネに向かって加速する。
「空気を蹴った? なるほど、風属性ね」
「正解……」
ユアが魔法を行使した対象は空気中に存在する窒素。風属性の魔法には硬化以外にも固定化という効果が存在する。
硬化よりも消費魔力は多いが、空気中を一時的に固定化することで、まるで地面を蹴るかのように大気を蹴ることが可能だ。
ユアはこの効果を使って一気にウンディーネに迫る。
「でも、まだ甘いわ。ウォーターバレット」
ウンディーネが再び指を鳴らすと、水の防壁から水の弾がユアに向かって撃ち出される。その数は軽く百を超えており、避けるには攻撃を止めなければならない。
しかしユアは一向に避けるそぶりを見せない。なぜならすでに対処は済ませているから。
「『火昇』……」
いつの間にか地面に展開された魔方陣から炎が噴き出す。
それにより、水の弾は蒸発して霧散する。
「あらあら、読まれていたかしら」
「蒸発させれば操れない……」
水の妖精ウンディーネは水であれば何でも操れる。そのため攻撃を弾くだけでは根本的な解決にはならない。だからユアはあえて苦手な火属性を使って攻撃を蒸発させたのだ。
「残念、流石よ。私の負けね……」
「終わり……」
その言葉と共に、ユアがユリエルをウンディーネの胸に突き刺した。完全に貫通しているユリエル。胸を貫かれたウンディーネは即死に違いない。
「というとでも思った?」
「ど、どうして……」
胸をレイピアで貫いたにもかかわらず、ウンディーネは余裕の微笑み浮かべながらユアを見た。なぜまだ生きているのか、答えはすぐにわかった。
「これは……水……?」
「私は水の妖精よ? 体が水でできていたっておかしくないでしょ?」
ウンディーネの言う通り、彼女の体は水でできていた。そのためレイピアで貫かれようが、彼女が死ぬことはなかった。
「そして終わりよ」
「!?」
次の瞬間、どこからか出てきた水がユアの体に纏わり付き始め、あっという間にユアの水の球体の中に拘束してしまった。
「『水牢』。見えなくとも水は大気中に存在する。そして水なら操れるわ」
付け足すように説明するウンディーネだが、ユアの耳には当然届かない。
水の中に閉じ込められ、呼吸のできないユア。魔法を使おうにも、沈静化のせいでうまく魔力を錬成でない。
「ゴボッ……」
苦しそうなユアをウンディーネは冷徹な瞳で見つめる。
「終わりよ。諦めなさい」
(セイヤ……)
水の中で必死にセイヤを呼ぶユア。だが次第に意識が遠のいていき、体が重くなる。セイヤはゲドちゃんと交戦中でこちらに気づいていない。
ユアは必死にセイヤを見つめたが、セイヤが気付くことはなかった。
視界がかすれていく中、最後にユアは呟いた。
(ごめん……セイヤ……)
ユアの意識はそこで途切れた。
「まず一人、ね」
ウンディーネは最後に球体をつぶすと、ユアの遺体を地面に投げ捨てた。




