第23話 聖なる法
セイヤが白虎と戦っている一方で、ユアもラストに向けて準備していた。
ユアの左手には弓であるユリアルが握られている。両者の戦いをリアルタイムで追うことのできないユアは、戦いの痕跡を追って両者の居場所を掴んでいる。
しかしそれはあくまでも痕跡であって、二人の存在ではない。だから仮に両者の戦いの流れ弾がユアの方に飛んできても、ユアには反応することができない。
「セイヤなら大丈夫……」
ユアは自分にそう言い聞かせながら、ラストアタックに向けて準備を整える。
「顕現せよ、ユリエル」
左手にユリアルを持っているにもかかわらず、ユアは右手にレイピアであるユリエルを召喚する。
ユアの右手に握られるのは白を基調としたレイピア。
ユアの左手に握られるのは白を基調とした弓。
ユリエルとユリアル。二つの武器が揃った今、ユアの最強の攻撃が姿を現す。
ユアは左手に握るユリアルを構えると、結弦に右手に握るユリエルをかける。そして結弦をゆっくりと引いていき、いつでも撃ち出せる準備をした。
弓矢を構えたユアは小さく口を動かす。
「力の解放……我は許可する……」
短い言葉の直後、ユアの身に変化が生じた。ユアの全身から魔力が流れ出し、その魔力がゆっくりとユアの構えるユリアルへと吸収されていく。そしてユリアルを経由して、レイピアのユリエルにまで流れ込んでいく。
ユアの構えるユリエルが魔力を纏っていく。
魔力の色は白。
それはレイリア王国で一人しか使うことのできないはずの魔力。ここ二十年、その魔力を確認したという報告はない。
その魔力はセイヤの闇属性と同様に聖教会が注視する属性。
そんな属性を、ユアは使えた。
「セイヤ……準備できた……」
「わかった!」
ユアは戦いの痕跡を追いながら、この空間のどこかにいるセイヤに向かって準備ができたことを伝える。神速の世界でその言葉を聞いたセイヤは、現在進行形でぶつかり合う白虎に向かって言う。
「どうやら幕引きのようだ」
グルッ
白虎に言葉が通じたのかはわからない。
しかし白虎もここぞとばかりに攻撃に力を籠める。
「負けるかぁぁぁぁぁ」
グワァァァァァァァァァ
ぶつかり合うホリンズと白虎の牙。ここまでで見れば、両者力のぶつけ合いだろう。しかしセイヤには最初からそんなことをする気はなかった。
「悪いな。『光牙』」
その刹那、セイヤとぶつかり合う白虎の足元に小さな黄色い魔方陣が展開される。
セイヤに集中していた白虎は一瞬だけ反応が遅れる。そしてその反応が勝負を決する最大の原因であった。
グギャァァ
魔方陣から出て来た薄く延びた光の牙が白虎の爪を貫く。雷を纏っていない爪はいとも容易く貫かれ、白虎はその場に留め置かれてしまう。
けれどもそれだけでは白虎を五秒間その場に留めておくのは不可能だ。止めることができたとして、せいぜい三秒がいいところ。
事実、白虎は自らの爪を犠牲に、その場から離脱しようとしている。
「させるか! 『聖槌』!」
セイヤは続けて光属性最上級魔法の『聖槌』を白虎に向かって行使した。
グギャァァァァァァァァァァ
白虎の頭上に展開された大きな魔法陣から魔力の圧がかかり、白虎をその場に押し付ける。
グルルル、グギャァァ
どうやら白虎も魔力の圧からは逃れられなかったようで、その場に押し付けられたままになる。だがこれでも留めておけるのは七秒だ。
しかし、七秒もあれば十分だった。
「ユア!」
「任せて……」
ユアはセイヤが白虎の動きを止めたことを確認すると、白虎に向かって弓矢を構える。
「これで終わり……」
白虎を見据え、ユアがユリアルの結弦から指を離す。
「ホーリー・ロー」
結弦を離したことで、ユリアルからユリエルが撃ち出される。白い魔力を纏ったユリエルが螺旋回転をしながら一直線で白虎に向かって突き進む。
そしてユリエルは白虎の左頬に直撃すると、そのまま容赦のない螺旋回転を続ける。
グギャァァァァァァァァァァ
白虎が苦痛の悲鳴をあげるが、ユリエルは止まったりしない。そして止まることのない螺旋回転がついに白虎の硬化された毛皮を貫き、体内にのめり込んでいく。
ギャァァァァァァァァァァァァァァ
白虎の断末魔が響く。
これで終わった。二人はそう思った。体内にのめり込んだユリエルはそのまま螺旋回転を続けて白虎の体を貫き、そのまま体外に出ると壁にぶつかって霧散する。
体に一筋の穴が開いた白虎の命はもうない。
なぜなら完全に体内を対角線で貫かれたのだから。だから二人は油断していた。
グルァァァァァ
白虎はその命を絶やす直前、最後の攻撃とばかりにユアに向かって雷を撃ち出した。 それは変哲もないただの雷。
だがユリエルを撃ち出したユアは終わったと思い完全に油断している。
今から防御魔法を行使しても遅い。
言葉を発しようにも、人間の反応速度よりも速い雷がユアに向かって襲い掛かっていた。
終わった……
ユアは本能的に自分の終焉を悟る。それはセイヤも同じだった。
セイヤもユアが最後の攻撃で仕留めたと思い、油断していた。だから反応が遅れる。ただセイヤは幸いにも神速の世界にいた。
だからユアよりは雷の動きを視認できる。
だがそれでもギリギリだ。今から闇属性を行使しても間に合わない。かといって、防御魔法を行使しても遅い。
いくらセイヤが神速の世界で魔法を行使しようとも、魔法が発動される時間に変わりはない。だからセイヤの体は動いていた。それも無意識のうちに。
「ユア!」
「えっ……」
ユアは突然自分の体が突き飛ばされる感覚にあった。最初は雷が自分に当たったのだと思ったが、明らかに違う方向だ。
そして直後、ユアはそれを見た。
「ぐはっ……」
目の前で雷に貫かれ、口から血を吐き出すセイヤの姿を。それはあまりに一瞬の出来事で、ユアには何が起きたのか理解できなかった。
しかし落ち着けば、状況は嫌でもわかる。
「セイ……ヤ……」
倒れ込んだ先で、目にしたのはあまりに無残な光景だった。




