第21話 白虎の正体
ユアの視界から消えたセイヤ。それは白虎も同じようで、セイヤの動きについていけない。
「終わりだ」
次の瞬間、白虎の背後にセイヤが現れると、その体にホリンズを突き刺そうとする。白虎は咄嗟に防御態勢に入ろうとしたが、それでは遅かった。
「遅い」
セイヤの右手に握られたホリンズが白虎の背中に深々と突き刺さる。あとは刺したホリンズから闇属性の魔力を流し込めば終わり、のはずだった。
しかしセイヤが闇属性の魔力を流し込む前に白虎の反撃がセイヤに襲い掛かる。
「これは!?」
不意に自分の右腕が痺れたことを感じるセイヤ。それが白虎の攻撃だと理解するのにさほど時間はかからない。
「くっ……」
セイヤは痺れる右手に力を入れてホリンズを抜く。だがその動きは先ほどに比べると圧倒的に遅い。
よって生じる結果はセイヤの大きな隙。白虎はその隙を逃さんとばかりにセイヤのことを睨みつける。
「ちっ……」
セイヤは自分の一瞬の不覚を呪った。ダメージは避けられない。そう思った時だった。
「セイヤ、避けて……」
ユアの声が洞窟内に響くと同時に、セイヤは上昇した脚力で地面を思いっきり蹴ってその場から離脱する。すると直後、白虎に向かって無数の光の矢が降り注いだ。
魔法の固有名称は『千華乱舞』。一本の矢が空中で千本に増えることから名付けられた魔法だ。そしてその魔法を行使したのはもちろんユア。
ユアの左手には白を基調とした弓が握られている。
弓の名はユリアル。レイピアのユリエル同様にユアがよく使う武器の一つだ。
「助かった」
「気にしないで……」
援護してくれたユアに対して短く礼を言うセイヤ。セイヤの目の前で千本の光の矢が白虎に向かって降り注ぐ。だが白虎も黙って見ているはずがない。
グルワァ!
猛々しい咆哮を行った瞬間、白虎に迫っていた千本の矢の全てが内部から爆発して霧散する。
そして矢を放ったまま無防備に立つユアに向かって魔法を行使する。
「あれは!?」
セイヤはその光景を見て驚愕する。だがセイヤの驚愕も致し方ないだろう。目の前で魔獣が魔法陣を展開したら誰だって驚くに決まっている。
白虎は口の前に緑色の魔法陣を展開すると、咆哮と共に魔法を撃ち出す。
「あれは、雷属性か」
魔法の属性は一般的に風属性から派生したとされている雷属性。一筋の稲妻がユアに向かって襲い掛かる。
「ユア!」
「大丈夫……『光壁』……」
ユアは自分の前に光の壁を展開することで白虎の攻撃を防いだ。そして一瞬だけ攻撃を防いだことで油断してしまった。
「ユア!」
「!?」
セイヤがユアの名前を叫ぶとほぼ同時に、ユアの視界から白虎が消える。それは先ほど『纏光』を行使したセイヤを見失った時と同じように。
ユアが次に白虎を視認したのは自分の目の前だった。
「嘘……」
ユアの目の前に現れた白虎がその鋭い爪を振り抜くと、ユアの展開していた光の壁が無残に散る。そして無残に散った光の壁の前で呆然とするユアに向かって、白虎がもう片方の爪を振るった。
その爪は例によって風属性の魔力を纏った鋭く硬い爪。
生身の人間が受けたら一溜りもない。
「させるかぁぁぁぁぁ」
そんな叫び声と共に、セイヤがホリンズで今にもユアのことを切り殺そうとする白虎を貫こうとする。
グルァ!
「硬い……」
しかし白虎の強固な毛皮がホリンズの攻撃を弾く。
「まだだ! 『闇波』」
攻撃が防がれたセイヤは弾かれる直前に白虎の頭上と足元に展開した紫色の魔法陣から闇の波動を発して白虎を消滅させようとした。
さすがに白虎も闇属性に耐性がないのか、すぐにその場から離脱し、辛うじて消滅を逃れる。
「速い……」
今の戦いを完全に認識できたなかったユアが呟く。だがセイヤの表情は焦りの色でいっぱいだ。
「ユア、一度立て直すぞ」
「わかった……」
「「『光壁』」」
二人は全方向に『光壁』を展開して、一時的な安全エリアを構築する。白虎はすぐに二人を守る壁に襲いかかるが、お互いに上昇させ合っている壁の防御力は硬く、そう簡単には破れない。
二人はそのうちに作戦を練る。
「ユア。あいつの動きを追えるか?」
セイヤの問いに、ユアは目を背ける。その反応からユアが反応できていないのは明白だ。
「わかった。あいつは俺が引き受ける」
「それは……わかった……」
セイヤの提案を否定しようとしたユアだったが、ここで無理を言って戦いに参加してもセイヤの足手まといにしかならない。
ユアは自分にそう言い聞かせて、頷いた。
けれどもセイヤには不安があった。
「残念だが俺の攻撃じゃあ、あいつの体に傷をつけられない」
光属性の魔力で強化されたセイヤのホリンズでは白虎の毛皮を貫くことはできない。それは先ほどの戦いで明白になった。
かといってセイヤにこれ以上の強度を誇る武器があるかと言えば、そんなものは存在しない。もともとセイヤはスピード型の近接戦闘タイプであって、圧倒的な攻撃力を持った技を持たない。
だから白虎に対して有効な決定打がないのだ。
「それなら……」
「あるのか?」
「多分大丈夫……」
しかしユアには決定打になり得る威力を備えた魔法があった。だがその魔法を使うには課題がたくさんある。
「どうすればいい?」
「まずは動きを止める……」
「どれくらい必要だ?」
「最低でも五秒……」
「五秒か」
実力者の戦いにおいて、五秒という時間は極めて長い。ましてやそれがスピードタイプ同士の戦いなら尚更。けれども逆に言えば、白虎を五秒同じ場所にとどめることができればセイヤたちの勝ちというわけだ。
「わかった。なんとかする」
「それと……集中する時間が欲しい……」
「それなら大丈夫だ」
どうやらユアの魔法はかなり集中力を必要とするらしい。しかしセイヤからすればユアに流れ弾を当てることなどあり得ない。
そこは安心していい。
「あとは大丈夫か?」
「大丈夫……」
「じゃあこれを解いて決行するぞ」
「待って……」
「どうした?」
ホリンズを構えるセイヤの手を握るユア。
「敵は火属性も使う……」
「火属性? なるほど、そういうことか」
白虎が火属性を使うと聞いて納得するセイヤ。火属性であれば、先ほどの白虎の目にも止まらぬ速さと千本の矢を爆発させた現象を説明できる。
火属性の効果は活性化。白虎は自身の体内を活性化させることで身体能力をあげているのだろう。原理としてはセイヤの『纏光』と同じだ。
そしてユアの攻撃を爆発させた咆哮も火属性。
千本の矢に対して無秩序に火属性の魔力を浴びせることで矢の魔力を活性化させて暴走させたのだろう。原理としてはユアが魔獣のボアドを体内から弾けさせたのに近い。むしろ白虎の方がオリジナルだ。
「風に雷、そこに火か。やっかいだな」
「大丈夫……?」
「問題ない。ユアはあいつを仕留める準備だけをしておいてくれ。あとは任せろ」
「わかった……」
ユアは少しだけ嬉しそうに微笑んで頷くと、セイヤの手から自分の手を離す。セイヤは光の壁を破壊しようと試みる白虎を見据えると、低い声で言った。
「さあ、クライマックスといこうぜ」




