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第2話 落ちこぼれの努力

 セナビア魔法学園の一日は六つの授業から構成されている。これはほとんどの魔法学園でも共通のことであり、基本的に二時間単位で区切られている。


 一、二時間目に座学で魔法の理論を学び、少し長い休み時間をはさみ、三、四時間目は自主練の時間となる。


 自主練の時間は各自の課題や悩みを解決するための時間であり、場合によっては教師陣に相談することも可能だ。そして昼休みを挟んだ後の五、六時間目には魔法や武術を組み込んだ実践演習や実践訓練などが行われる。


 ラミアが教室から出ていくと、セイヤは授業の準備を始める。一時間目の授業は詠唱説明。魔法を発動する際に使う詠唱の意味についての理解をしていくという授業だ。


 魔法を発動する際の詠唱の一言、一言にはそれぞれ意味が存在し、その意味が魔法陣を構成する。


 だがセイヤが授業の準備をしていると、例の三人の影が近づいてくる。


 「アンノーン、もう授業の準備かぁ?」

 「意識が高いな」

 「まあ、アンノーンは人一倍努力しないとな~」


 三人は朝だけではなく、ほとんどの休み時間、セイヤに絡んでいた。セイヤも毎度毎度のことなので、いつものように低姿勢で応える。


 下手な態度をとって三人の機嫌を損ねて、もっと面倒くさいことになるよりは、プライドを捨てた方がセイヤにとっても楽だから。


 「うん……僕はみんなに劣っているからね。頑張らないと」


 ザック達の言葉にセイヤは苦笑いを浮かべながら答える。いつもならここでセイヤのことを馬鹿にし、満足して席に戻っていくのだが、残念なことに今日の三人はいつもより機嫌が悪かった。


 「おいおいアンノーン。その言いようだと俺らに追いつくみたいじゃないかぁ」


 ザックが憎たらしい笑みを浮かべながらセイヤのことを睨む。


 「別に僕はそんな意味で言ったんじゃ……」


 セイヤは誤解を解こうとするが、簡単に解けるわけない。なにしろ三人はわざとやっているのだから。


 「調子に乗るなよ、アンノーン」

 「そうだぞ~」

 「別に……」


 何を言っても悪い方向へと持っていかれる。だが黙るとそれはそれで無視と捉えられてしまう。


 「あぁん? 口答えするのか?」

 「調子に乗ったんだから謝罪しないとな」

 「土下座かな~」


 三人がセイヤに土下座を要求する。どう考えてもやりすぎだ。けれどもクラスの中に三人を止める者はいない。

クラスにはザックたちよりも家柄が高いものはいるが、セイヤを助ける者はいない。


 「ハハッ、それはいい。じゃあ土下座な」

 「調子に乗ってすいませーん、って言えよ」

 「早くしろよな~アンノ~ン」

 「わかったよ」


 セイヤはゆっくりと地面に手をつく。その顔にはプライドというものはなく、まるで作業のようだ。そんな光景をクラス中がチラチラと見ているが、やはり止める者はいない。


 「調子に乗ってすいませんでした。許してください」

 「「「ギャハハハハハハハ」」」


 ザック達はセイヤの土下座を見て喜々とした表情を浮かべる。そしてザックが土下座をしているセイヤの頭を踏みながら言った。


 「初級魔法師の最底辺が中級魔法師一族様に口答えしているんじゃねえよ。あっ、あとこれは暴行ではなく制裁だからな。ふっはははは」


 ザックの行為には一応だが正当性がある。魔法師の世界では上位の者が下位の者を制裁する権利があり、過剰でなければ合法だ。そしてこれは合法のうちに収まっていた。


 もしこれで他の二人がセイヤに手を出したらそれは問題になるが、ザックたちもその辺のことを理解している。クラスメイト達はセイヤたちが見えないふりをしながら、雑談やら授業の準備などをしている。セイヤは毎日のようにこのような仕打ちを受けていた。


 少しでも反論したら謝罪させられる毎日。現状を変えようにも家柄のない初級魔法師一人にはどうすることもできない。しかし授業が始まれば、これらの仕打ちも必然的に終わりを迎える。


 「魔法は詠唱によって構築された魔法陣に魔法師自身の魔力を通してこの世界に発現させる力である」


 黒板に図を書きながら説明するのは担当教諭のボクト。彼は魔法詠唱学の世界で有名な人物であり、数年前に理論上無詠唱を可能にしていた偉大な人物だ。


 けれども発表と同時に無詠唱はリスクが高く危険であるという結論に至り、称賛の声を受けると同時に、可能性の否定について非難され、一躍時の人になった人物だ。


 「魔法は火、水、風、光の四種を基本属性とし、それぞれを合わせたり、または派生させたりして新たな属性を生むことができる」


 扱っている内容は基本事項だが、基本こそが魔法を成長させる。


 ちなみにセイヤの適正属性は光だ。しかし強力な光属性魔法はおろか、簡単な魔法でも完全詠唱が必要になるほど魔法が不得意であった。


 理由としては両親がいないため幼少時の魔法訓練ができなかったことが大きい。


 幼少期に訓練できなかったということは、人よりも魔法の基本を習う時期が遅いということであり、すでにこの時点で周りと圧倒的な差が開いてしまっている。


 なので、セイヤはひたすら剣術を鍛え、座学を勉強していた。おかげでセイヤの座学の成績はかなりいい。


 このように授業が続き、一時間目が終わると次は二時間目の座学だ。


 本日の二時間目の座学は属性別特殊効果についてである。教壇に立つのはマダムという言葉が似合いそうな女性教諭。


「各基本属性には副次的な効果が存在するざます。火は活性化、水は沈静化、風は硬化、光は上昇。それぞれの効果は戦闘だけでなく、他にも使えるのでしっかりと覚えるざます」


 こうして二時間目が終わりを迎えるのであった。


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