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第19話 束の間の危険

 ユアと一時的に別行動を選択したセイヤは来た道を戻っていた。


 近くを見てくるといったセイヤだが、来た道を戻ることに何の意味があるのか。ユアは少なからずそう思っていたが、セイヤには確固たる目的が存在している。


 「この辺でいいか」


 セイヤは少し戻ったところで止まると、目の前に現れた魔獣を見て笑みを浮かべる。


 「ちょうどいい」


 セイヤの前に現れたのは四足歩行の魔獣。その外見は先ほど倒してきた魔獣と似ており、おそらくセイヤが討ち漏らした魔獣だろう。


 セイヤは魔獣を見据えると、愛剣であるホリンズを両手に召喚する。


 「さぁ、いくぞ」


 魔獣を見据えて双剣を構えるセイヤ。その魔獣は先ほどと同じ種族から闇属性で倒すことが可能だが、セイヤはあえて闇属性を使おうとはしない。


 なぜならこれは練習だから。


 練習といっても、相手は本物の魔獣だ。しかし実力差があまりにもあるため、勝敗はすでに見えている。だからセイヤはこの魔獣たちを練習相手に選んだ。


 ボアドとの戦闘を経て、セイヤの中で対魔力耐性に対する戦い方の必要性が強まった。魔力耐性以外にも、自分が闇属性に頼りすぎているところがあると薄々気付いている。


 そこでセイヤは基本に返って対魔獣戦を行いたいと考えた。だがユアのいる前で自分の手の内を晒すわけにはいかない。


 あくまでユアは一時協定を結んでいるだけであり、いつ戦うことになるかわからない。


 なのであまり手の内を見せるわけにはいかないのだ。


 だからセイヤはわざわざユアから離れて練習しにきたのである。


 「五体は少ないが、練習相手にはちょうどいい」


 セイヤは目の前の魔獣に対して魔法を行使する。この戦いでセイヤが己に架した条件は闇属性使用の不可。つまりセイヤは光属性だけで魔獣たちと戦うことになる。


 ついこの間までのセイヤなら苦戦を強いられただろう。


 けれども今のセイヤは違う。


 闇属性を取り戻したことで、脳と体が完全にリンクし、魔力も正常に流れている。この程度の魔獣、セイヤにとっては敵とも呼べない。


 「『光牙』」


 魔法名と共に、魔獣の足元に小さな黄色い魔方陣が展開される。


 魔方陣の数は全部で二十、どれも小型だが、複雑な魔法陣だ。そして魔法陣から黄色牙が発生すると、魔獣たちの足を貫き、その場に固定させる。


 「初めてにしては上出来か」


 完全には魔獣の動きを止めることのできなかったセイヤ。一体が動いてセイヤに襲い掛かるが、セイヤは目もくれず新たな魔法を駆使する。


 「『聖槌』」


 直後、ズドンという音と共にセイヤに襲い掛かろうとした魔獣がその場で何かにつぶされたかのように地面に押し付けられる。


 「終わりだ」


 押し付けられる魔獣に冷酷な瞳を向けたセイヤは魔獣の終わりを告げる。そして同時に、五体の魔獣すべてが何かにおそつぶされたようにその命を絶った。


 光属性最上級魔法『聖槌』。対象を不可視の圧によって地面に押し付ける光属性の中でも屈指の力を誇る魔法だ。


 その見た目から聖なる鉄槌と呼ばれ、かつて聖教会にいた女神リーナ=マリアが使ったことから由来している。


 現存する光属性で最も女神に近いと言われる魔法だ。しかし難易度が高いだけで、別段女神しか使えないわけではない。


 今となってはこの魔法を使う魔法師も少なからずいる。セイヤもセナビア魔法学園の図書館で読んだ本から知識を得たほどだ。


 「あとは指定範囲の明確化か」


 つぶされた魔獣を見ながら呟くセイヤ。


 実を言うと、セイヤは『聖槌』で倒す魔獣は自分に襲い掛かってくる魔獣一体だけだった。だが魔法のコントロールを誤り、すべての魔獣をつぶしてしまった。


 それにより、セイヤはせっかく召喚したホリンズを使うことがなかった。


 「まあ仕方ないか」


 ホリンズを消すと、セイヤは新しく魔獣を探す。そしてある程度練習を積むと、ユアの待つ泉に戻るのだった。






 泉に戻ったセイヤは後悔した。いや、プラスマイナスで言ったらむしろプラスかもしれない。だがこの先のことを考えると、マイナスの方が強いだろう。


 ちゃぽん


 静寂が支配する空間の中で反響する水音。


 しかしセイヤの耳にその音は入って来なかった。というよりも、視覚以外に神経を向けることができなかった。


 目の前に広がる光景は神秘的な光景。だが先ほどまでと違う点を挙げるならば、それは神秘的な風景の中に一人の女神が降臨したことだろう。


 「あ、えっと、これは……」


 何とかして言い訳を探すセイヤ。


 なぜならセイヤの目の前には一糸まとわぬ生まれたままの姿で水浴びをする白髪の美少女の姿があったから。濡れた髪が肩に掛かり色っぽさを出し、すらっと伸びる肢体は白く美しい。服の上からではわかりにくかったが、確かな存在感を示す雪のように白い双丘、そして純白の中に輝く赤い瞳。


 その姿は神秘的だった。


 「セイヤ……」

 「あ、悪い。覗くつもりはなかったんだ」

 「あまり見ないで……」

 「悪い。まさか水浴びをしているとは思わなくて」


 あわてて後ろを向くセイヤ。


 そんなセイヤをじーっと見つめながらユアが呟く。


 「えっち……」


 その後ユアが火属性の魔法で自分の体を乾かすと、服を着た。その際、布が擦れる音にセイヤが集中してしまったことは秘密だ。


 「もう大丈夫……」

 「ユア」

 「なに……?」

 「えっと、その、覗いて悪かった」


 素直に頭を下げて謝るセイヤ。このあたりはかつてのセイヤと似ている。


 自分に対して頭を下げるセイヤを見て、ユアが少しだけ考える素振りを見せる。


 「大丈夫……」

 「許してくれるのか?」

 「事故だから仕方ない……」

 「そうか、よかった」


 ユアの許しに心を撫でおろすセイヤだが、ユアの姿を見ることができない。見てしまうと、先ほどの映像が脳内再生されてしまうから。


 「セイヤ……?」

 「気にしないでくれ」


 目を合わせないセイヤに首をかしげるユアだったが、セイヤはそれどころではなかった。


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