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第18話 奇跡の泉

 ボアドの群れを殲滅した二人は、その後も魔獣を倒してダリス大峡谷を進んでいく。出現する魔獣はどれも強力な魔獣なのだが、ボアドのような魔力耐性がないため、セイヤの闇属性で瞬殺が可能だ。


 そして最初よりもさらに深く潜っていくと、再び開けた場所に出た。


 「ここは……」

 「綺麗……」


 二人の前に広がる光景。それは波風一つ立たぬ澄んだ泉。地上からかなり深いにも関わらず明るい日光が差し込む静寂に包み込まれた神秘的な場所だった。


 「ユア、ここで少し休むか?」

 「そうする……」


 近くに魔獣の気配のないことを確認し、二人はそこでしばしの休息をとることにした。朝から休みなしで行動してきた体は悲鳴を上げており、ここらで休息が必要である。


 「はぁ……」

 「疲れた……」


 まだ折り返し地点にも達していないが、魔獣との激闘により二人の精神はかなり消耗している。いくら実力があるといえども、二人はまだ子供だ。


 強力な魔獣の住処であるダリス大峡谷に長時間いれば座っているだけでも体力が削られる。


 その点、この場所には魔獣が寄ってくる気配がないので安心して休むことができる。二人は泉の近くまでよると、警戒しながら水面に目を凝らす。


 「すごいな……」

 「下まで見える……」


 泉は澄んでおり、泉の底が見えるまでだ。同時に泉に魔獣がいないことを確認すると、今度こそ二人は心からリラックスをした。


 「ふぅ、とりあえずひと段落だな」

 「疲れた……」


 二人は肩の力を抜くと、地面に座り込む。座った瞬間、朝から動き続けた疲労が二人の体にのしかかる。


 「それで、あとどれくらいかわかるか?」

 「難しい……でもまだ先は長い……」

 「だよな」


 現在地を詳しく把握できていない二人は、アクエリスタンまでどれくらいかわからない。着実に進んでいることは確かだが、やはりゴールが見えないと精神的な負担が大きくなる。


 「まあ、しばらくは休憩だな」

 「そうする……」

 「ところでこの水は飲めるのか?」

 「わからない……」


 セイヤが泉の水を指差しながら聞くが、ユアもその答えは知らない。


 「澄んでいることから害はなさそうだが」

 「危険……」

 「でも飲まないと干乾びるぞ?」

 「確かに……」


 連戦の疲れが二人に蓄積されているうえ、朝から飲まず食わずで来ている。そろそろ体が悲鳴を上げてもおかしくない。


 疲労困憊に加えて空腹の二人には目の前の澄んだ水がとてもおいしそうに見える。


 「飲んで……いいよな……?」


 すでに右手を泉に入れながら確認を取るセイヤ。


 「…………大丈夫……」


 少しの間をおいて、ユアが答えると、セイヤは一気に右手で水をすくって口に運ぶ。


 ゴクリ。


 セイヤが水を飲むと、ユアがセイヤのことを注意深く見る。この水にもしかしたら毒が含まれているかもしれない。


 そうであるなら、セイヤのことを治療するのはユアだ。だからユアはセイヤの動作の一つ一つに目を配る。


 「うっ……」

 「うっ……?」

 「うまい!」


 ユアの心配をよそに、セイヤは次々と泉の水を口に運ぶ。


 挙句の果ては口をそのまま泉につけて水を飲む。


 「ぷはっ、この水上手いぞ。ユアも飲んでみろよ?」

 「わかった……」


 セイヤに言われ、ユアも恐る恐る水をすくって口に運ぶ。もし水に遅効性の毒が含まれていれば、二人はここで息絶えるだろう。


 だが目の前で美味しいと言われてしまえば、体がその水を本能的に欲する。


 ユアは覚悟を決めて水を口に含む。


 ゴクリ。


 水を飲んだ瞬間、体に広がる潤い。体の奥底にたまっていた疲労がまるで体外に湧き出るかのようにスーッと消えて行く。


 まだ一口しか飲んでいないにも関わらず、これほどの回復力。


 その水はまさに奇跡の水だ。


 ユアは心の中で泉の水にそう名付けた。


 「美味しい……」

 「だろ?」


 一口水を飲んだユアはすかさず二口目の水を飲む。


 二口目も同様に体の中から疲労が抜けていき、体が軽くなる。


 そして変化は三口目で起きた。


 三口目を口に含んだユアは今まだの二階と明らかに違う感じがしたことに気づく。一瞬、遅効性の毒と思ったが違う。


 「これは……」

 「驚いただろ? 魔力が回復しているんだ」


 セイヤの言う通り、水を飲んだ瞬間、体内から疲労が抜ける代わりに魔力が沸き上がってきたのだ。


 「この水には疲労回復と魔力回復の効果がある」

 「すごい……」


 奇跡の水だ。ユアは改めて思う。


 疲労回復に魔力回復が加わった水があれば、もうその魔法師は最強と言ってもいい。水が切れない限り魔力が切れない。しかも魔力を回復する度に疲労も回復。もしこの水の存在がレイリアに知られれば、皆が皆この水に群がるだろう。


 実を言うとユアにも魔力を回復する手段がある。だがこの水のような回復力もなければ、疲労回復もできない。


 この水は魔法師にとって喉から手が出るほど欲しい水だった。だからこそ、この水は危険だ。


 この水の存在が知られれば、数々の魔法師がこの水を求めてダリス大峡谷に赴く。そうなれば、あの悲劇が繰り返される。


 ダリス大峡谷の魔獣たちによるレイリア襲撃。


 あの悲劇を繰り返さないために、二人はこの水の存在を黙っていなければならない。セイヤもそのことを理解しているようで、決して持ち帰ろうとは言いださない。


 「ユア、どうする? 少しここで休むか?」

 「うん……」


 話題を変えようとばかりにセイヤがユアに聞いた。おそらくセイヤもこの話題はもう話さない方がいいと思ったのだろう。


 そして水を飲んだといっても精神的に疲労がたまっているユアは休息を希望した。


 「わかった。俺はこの近くを見てくるからユアは待っていてくれ」

 「わかった……」


 ユアの返事を聞き、セイヤは来た道を戻るように一本道に入って行く。


 ユアは泉を見つめながら、セイヤの姿が消えることを確認すると、ある魔法を行使するのだった。

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