第17話 ユアの実力
セイヤが戦っていた一方、ユアも戦っていた。
「五十体……」
ユアは敵の数を大雑把だが数えると、頭の中でどのように対処するかを考える。相手は魔法の効かない魔獣、そして二人はその魔獣たちに囲まれている状態。
戦いはおのずと近接戦闘になってくる。
「顕現せよ……ユリエル……」
ユアは召喚魔法を行使すると、自らがよく使う武器を右手に収める。武器の名称はユリエル。白を基調としたレイピアであり、その姿はユアに似合っていた。
ユリエルを手にしたユアは構えると同時に『単光』を行使して脚力を上昇させる。
すでにユアの後ろで戦いを始めているセイヤは半分程度を倒している。
(さすがセイヤ……)
セイヤの戦いぶりを見て、自分の背中は大丈夫だと確認したユア。そして同時に、セイヤに負けていられないとも思った。
ユアはユリエルを構えると、地面を思いっきり蹴って、そのままボアドたちに向かってユリエルを突き刺す。
鋭くとがっているユリエルは簡単にボアドの体に突き刺さるが、セイヤの時と同様で刺しただけで絶命することはない。
だがユアは気にせずボアドからユリエルを抜くと、そのまま次のボアドにユリエルを刺していく。
ユリエルを刺したボアドが生きているにもかかわらず、次のボアドにユリエルを振るうユア。当然刺されたボアドは自分の前で無防備にレイピアをふるうユアに対し、鋭い爪を振り下ろして切りかかる。
「無駄……」
しかしユアが一言呟いた瞬間、ユアの背後から斬りかかっていたボアドが弾けた。それは比喩ではなく、本当に弾けたのだ。まるで体内で何かが爆発したように、ボアドは弾けて肉片となる。
そして肉片になったのは一体だけではない。
ユリエルによって傷を負ったボアドは例外なく、その直後に体内から弾けてその姿を肉片と化す。それは体内を消滅させられて萎んでいくセイヤの攻撃よりも衝撃的で、グロテスクな光景だ。
ボアドたちはユアの攻撃に恐怖を覚える。
ユアの行った攻撃は方法こそ違うが、その手段はセイヤと同じだ。ホリンズを刺して体内に闇属性の魔力を流し込むセイヤと同じように、ユアは刺したユリエルからボアドに体内に魔力を流し込んだ。
だが流し込む魔力は闇属性ではなく、光属性だ。
「あれは活性化による人間爆弾か?」
ホリンズを振りながらも、後ろでユアの戦闘を見ていたセイヤが呟く。
活性化による人間爆弾とは、火属性を使う魔法師の中でも、特に魔力適正の強い一部の魔法師ができる大技だ。
体内に火属性の魔力を流し込み、血流や細胞分裂、さらには呼吸速度を活性化させることで対象の体内を常人の何百倍にも活性化させ、肉体に限界を迎えさせて、その肉体を崩壊させるという攻撃方法だ。
すでにユアが火属性を使えることを知っているセイヤは、ユアが人間爆弾を行使したのかと思った。
しかしそれは違うとすぐに悟る。
「いや、あれは光属性の魔力!?」
その時セイヤは見た。ボアドから抜かれたユアのレイピアの先端に微量ながら黄色い魔力が残っていることに。セイヤは一瞬、自分の見間違いかと疑ったが、セイヤの目は正しい。
「もしかして光属性で人間爆弾をやっているのか」
自分が見たものが本当に正しいのかと疑うセイヤ。
それほどまでにユアの攻撃方法は衝撃的だった。
ユアが行っている攻撃方法は原理こそ火属性の人間爆弾と同じだが、その過程は明らかに違う。火属性で爆発させるのに比べ、光属性で爆発させるには相当な魔力量と質が必要になる。
魔力の質とはその名の通りであり、魔法師が魔力に込める丁寧さと言えばいいだろうか。同等の魔力量でも、質の高い方が勝利する。
これは魔法師の世界での常識だ。
そして光属性で人間爆弾を再現するには相当な質が求められる。
ユアの人間爆弾の過程はこうだ。
まずは体内に光属性の魔力を流し込む。次に光属性の効果でもある上昇を発動する。上昇の対象は通常の人間爆弾と同じように血流の速さや細胞分裂の速さなど。
だが活性化させる火属性とは違い、上昇させる光属性では魔力の対象とする範囲が複雑すぎる上、消耗が著しく激しい。
普通の魔法師が行えばボアド一体で魔力欠乏症を発症するだろう。
しかしユアは先ほどから何体もボアドを肉片にしているのにもかかわらず、まったく消耗している様子がない。
「一体それほどの魔力量を有しているんだ……」
自分の異端さを棚に上げ、ユアの底知れぬ魔力量に驚きを隠せないセイヤ。
セイヤがボアドを殲滅した直後、ユアも殲滅を終えた。
残ったのはボアドの毛皮と元の姿が分からない肉片の塊。その数は大体同じだ。
「流石セイヤ……スマート……」
「いや、ユアの方がいろいろ凄いぞ」
セイヤの戦いぶりに賞賛するユアだが、セイヤには素直に受け止めることができなかった。
「あれほどの魔力を使って消耗無しって、一体どれほどの魔力を所有しているんだ」
五十体のボアドを倒したというのに、息の一つも切らせていないユア。
その魔力量は少なくとも常人の五十一倍。
セイヤが言うのもなんだが、ユアは控え目に言って化け物だ。
「魔力量は普通……」
「普通ならいったいどうやって魔力の消耗を防いでいるんだ?」
「ひみつ……」
「はは、だろうな」
魔法師の間で魔法のプロセスや術者の秘密を探ることはマナー違反だ。だからセイヤもこれ以上は詮索しない。それでも一つだけわかったことがある。
(もしかしたらこの場で一番恐ろしいのはユアなのかもな……)
底知れぬ魔力量に、剣術に特化したセイヤから見ても驚かされるユアのレイピアを振る技術、それに魔獣を相手にしても足がすくむ様子もない。
普通の魔法師、それも学生魔術師ならば魔獣との戦闘で最初からあのようには動けない。少なくとも一度や二度、下手をしたら五度以上は魔獣との実戦を経験している動きだ。
それはセイヤも同じなのだが、やはりセイヤは自分のことを棚に上げて、ユアに警戒していた。
もしユアと戦ったら、セイヤに勝てる確証はない。
おそらくかなりの激闘になるはずだ。
剣術での戦いは百歩譲って双剣であるセイヤに分がある。しかし魔法戦となると、ユアの魔力が切れる前にセイヤの魔力が切れそうだ。
おそらく戦い方が重要になる。
セイヤは心の中でそう思っていた。
しかしそう考えているのは何もセイヤだけではない。
ユアもまた、セイヤの実力に警戒していた。
(セイヤの実力は相当……)
今まで後ろから見て来てセイヤの実力は把握できた。魔法もさることながら、剣を振るう腕も相当なものだ。それに魔獣との戦闘での位置取り。それは実戦をかなり積んでいる戦い慣れた剣士の位置取りだ。
(セイヤ……あなたは一体……)
ユアは心の中で、セイヤの正体が何者なのかと思う。
あれほどの実力があればレイリアでも有名になるはずだ。
それは闇属性を抜きにしても同じだ。光属性の扱いと剣術だけで言えば、上級魔法師に相当するのではないだろうか。
だがユアは聞いたことがない。
光を操る双剣使いの噂など。
ユアの場合は父親がユアの情報を隠している。だがセイヤにそのようなことはできないはずだ。
(何者なの……?)
ユアは心の中で、セイヤの正体が知りたくなった。しかしユアがセイヤの正体を知るのはもう少し先の話であった。




