第16話 異端魔法師の殲滅
成長を感じ始め、自分の力に自信を持ってきたセイヤ。しかし世の中そう上手くはいかない。
強力な魔獣の住処と知られるダリス大峡谷の魔獣は確かに手ごわかったが、それでもセイヤの闇属性の前では脅威にならない。これは案外楽勝に行けるのではとセイヤが思い始めた頃に問題は起きた。
場所は一本道から開けた場所。セナビア魔法学園の闘技場ほどの大きさの広間にそれはいた。
顔は鋭い牙が特徴のイノシシ、体は鋭い爪が目立つクマ、明らかにバランスの取れていない魔獣がそこにはいた。それも百体ほど。
百体の魔獣に囲まれた二人。魔獣たちは鼻息を荒くして二人の様子を見ている。
「『闇波』」
威嚇する魔獣に対してセイヤがその肉体を消滅させようと、頭上と足元に魔法陣を展開して魔法を行使するが、手ごたえが感じられない。
「『闇波』が効かない……」
セイヤの言う通り、その魔獣に闇属性の魔法が通じなかったのだ。予想外の出来事だがセイヤはすぐにほかの魔法を行使する。
「『闇風』」
セイヤが展開した魔方陣から鋭い風が吹き荒れて魔獣たちに襲い掛かるが、やはり魔獣たちには聞いていない様子だ。
闇属性初級魔法の『闇風』は消滅の効果はないものの、その分威力が増した鋭い攻撃だが、魔獣たちには効いている様子がない。
「魔法が効かないだと!?」
魔獣に対して魔法が効かないことに驚きを隠せないセイヤ。そこでユアがあることに気づく。
「セイヤ……あれ、ボアドだ……」
「ボアド?」
聞き慣れない単語に首をかしげるセイヤ。
「そう……魔獣の名称……」
「あの魔獣はボアドっていうのか? でもどうして知っている?」
魔獣に個別の名称はない。
レイリア王国の魔法学園では魔力を生成する器官がある獣を総じて魔獣と呼び、わざわざ呼び分けたりはしない。だがそれはあくまで一般ではだ。
しかし聖教会の上層部では確認した魔獣に名称を付け、特徴なども記している。そしてその情報を一部の魔法師たちに公開していた。
「お父さんに聞いた……」
「なるほど」
もうユアのお父さんが絡めば何でもありだと思い始めたセイヤ。だからセイヤは重要なことだけを聞いた。
「それでどうすればいい?」
「ボアドの毛皮は魔力耐性がある……」
「魔力耐性? つまり魔力が効かないと?」
「そう……」
「ならどうすれば倒せるんだ?」
「物理攻撃……それか体内からの魔力攻撃……」
「なるほどな」
どうやらボアドに魔法攻撃は無意味らしい。そのことが分かったセイヤはすぐに攻撃手段を魔法から物理攻撃に変える。
「顕現しろ、ホリンズ」
召喚された双剣ホリンズがセイヤの両手に収まる。
魔法が苦手だったセイヤは日々剣術を鍛えていたため、剣術には自信がある。しかし相手が未知の魔獣の上、百体もいるとなると一人ですべて相手にするのは厳しい。
そこでセイヤは自分の背後にいたユアに尋ねる。
「ユア、背中は任せていいか?」
セイヤの言葉に、ユアは驚いた表情をする。だがすぐ嬉しそうな表情となって答える。
「任せて……」
背中をユアに任せたセイヤ。これにより一人当たりの頭数は五十体となる。それならセイヤにも十分戦える数だ。
セイヤはホリンズを構えると、殺気を纏う。その殺気を感じ取ったボアドたちも爪を構えてセイヤのことを見据える。
「いくぞ」
「「「「「ぐおん」」」」」
セイヤが足を踏み出すと、ボアドたちも一斉にセイヤに向かって襲いかかる。その鋭い爪を振り下ろし、セイヤに向かって斬撃を繰り出すボアド。
ボアドの攻撃をセイヤはホリンズで弾き、そのまま近くにいたボアドのお腹に右手のホリンズを突き刺す。
「ぐるる」
腹にホリンズを突き刺されたボアドは苦痛の声を上げるが、絶命に至るには程遠い。ボアドはそのまま右手を振り下ろしてセイヤに斬りかかるが、その攻撃は叶わなかった。
なぜなら攻撃をしようとした直前、ボアドの体がまるで空気の抜けた風船のように萎んでいったから。
あり得ない光景にほかのボアドたちは驚き、セイヤから距離を取るが、セイヤはそのまま地面を蹴って二体目のボアドに迫る。
今セイヤが行った攻撃方法は極めて単純だ。
魔力が弾かれる毛皮に対し、セイヤはただの剣でボアドを刺し、刺したホリンズの先端から闇属性の魔力をボアドの体内に流し込む。
これによりボアドの体内は消滅させられ、魔力耐性のあるボアドの毛皮だけが残ったというわけだ。だがそのことを知る由もないボアドたちは混乱してパニックになる。
セイヤはその隙をついて次々とボアドのことを全滅させていく。
「ぐぎょー」
「ぐひゃー」
「ぐふー」
次々と仲間が殺されていくボアド。それが血を流したりすればボアドたちも落ち着いていたのだろうが、仲間が、体内が消えたように萎んでいく様子は魔獣でも恐怖心を覚えた。
もしこれが人間なら、過ぎにこの場から逃げただろう。しかし魔獣には逃げるという選択肢がない。ましてやダリス大峡谷でも上位層にいるボアドたちなら尚更。
彼らは負けたことがない。そして逃げたこともない。さらには一方的に殲滅させられる経験もない。
だから己の本能に従い、一斉にセイヤに向かって襲いかかる。
「ちっ、さすがに多いな」
自分に飛び掛かるボアドたちの姿を見て、セイヤが愚痴をこぼす。
「仕方ない。『単光』」
セイヤは光属性の魔力を自身の両足に流し込み、脚力を上昇させる。けれども肉体の強化はそれだけにとどまらない。
「『単光』」
セイヤは両足以外に、両腕にも光属性の魔力を流し込む。そして両腕両足の身体能力を上昇させると、今までの数倍の速度でボアドたちを殲滅していく。
セイヤの振るう剣に一切の慈悲はない。
殺気だけが乗った剣が振るわれていき、次々とボアドの体内を消滅させていく。その光景はボアドたちからしても恐怖心を覚えるものだった。
おそらくボアドたちは生まれて初めて恐怖心を抱いただろう。そして同時に、もっと生きたいと思っただろう。だがセイヤはそれを許さない。
無慈悲に振られていくホリンズが、彼らの命を奪っていく。
そして残りが五体になったところで、ボアドたちはやっと逃げるという選択肢に辿り着いた。
五体のボアドたちが一斉に背中を向けて逃げ出す。
「逃がすか」
脚力を上昇させたセイヤがボアドたちに迫っていき、ホリンズを突き刺して体内に闇属性の魔力を流し込んでいく。
おそらくボアドたちもわかっているのだろう。
セイヤの持つホリンズを刺されると体内が消滅させられると。理屈ではわからなくとも、本能的に理解している。
だからボアドはホリンズを防ぐのではなく、回避しようと試みる。
けれども普段から回避するような魔獣ではないボアドの回避はお世辞にもうまいとは言えなかった。だからボアドは次々とホリンズを刺されて体内を消滅させられていく。
そして戦闘開始から五分、五十体のボアドすべてがセイヤの剣によって絶命した。




