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第14話 吊り橋効果でお泊り会

 二人がダリス大峡谷を目指して進み続けること半日、太陽はすでに地平線に沈みかけており、暗黒領は闇に包まれようとしていた。


 すでに休みなしで進み続けている二人にも、さすがに疲れの色が見え始めるが、ここで止まるわけにはいかない。いや、止まることができなかった。


 暗黒領は人の住まない地だ。そのため当然ながら夜間の街頭など存在しない。


 つまり夜の暗黒領は完全に闇に包まれ、視界を確保することが困難になる。それに加え、夜目の効かない人間が暗黒領で魔獣と戦うことは自殺行為に等しい。


 かといって光を発せば、魔獣たちの格好の的である。


 「どうする、ユア?」


 セイヤは移動しながらも一時的な相棒であるユアに問う。


 ユアの父親は有名人のようで、ユアには相当な知識がある。暗黒領に関して無知なセイヤよりは何か有効な策を見つけてくれるかもしれない。


 「確かこの近くに森がある……」

 「森? この近くにか?」


 森と言われて辺りを見渡すセイヤだが、視界に納まるのは赤茶色の大地。緑の気配など皆無だ。


 「小さい頃見た……」

 「何を?」

 「地図……」

 「地図? そこに森が?」

 「そう……ダリス大峡谷の前にあるはず……」


 地図と言われ、セイヤは一瞬だけ疑う。通常、レイリア王国の地図は聖教会の認めた施設にしか存在しない。セイヤがレイリア王国の地図を見たことがあるのはセナビア魔法学園にあるものだけ。


 だがそこに暗黒領の情報は載っていなかった。だからユアの言っていることが本当かはわからない。しかしユアの父親は聖教会にも影響力を持つ男らしい。それなら暗黒領の地図を持っていても不思議ではない。


 「ならその森まで飛ばすか?」

 「わかった……」


 二人は完全に視界を失う前に森に到着するため、足に流し込む魔力の量を限界まで上げてさらに加速した。その速度はそこらの魔獣たちでは到底追い付かない速度であり、二人は進むことだけに集中した。


 この時、二人の速度は音速に近付いていた。しかし二人から無意識に体を守るために放出された光属性の魔力が肉体の強度を上昇させるため、肉体が損傷することはない。


 そして音速に入り、しばらくすると、遂に森が姿を現す。


 「あれか」

 「そう……」


 二人が森に着いたとき、すでに太陽は地平線に沈んでいた。だから二人は細心の注意を払いながら、安心して寝られる場所を探す。


 「ユア、この洞窟なんてどうだ?」

 「いい……」


 セイヤが見つけたのは岩山に開いた洞窟。中は暗くなっているが、かなり深く、気配を隠すにはもってこいだ。


 「行くか?」

 「うん……」


 洞窟の中に歩みを進める二人。だが洞窟内は想像以上に暗く、視界を確保するのが困難だった。


 「仕方ない、ここは魔法で……」

 「『灯火』」


 セイヤが光属性の魔法で視界を確保しようとした直前、ユアが火属性初級魔法『灯火』を行使して視界を確保する。


 「ユアは火属性も使えるのか?」

 「そう……」


 ユアが光属性意外に火属性を使えることにセイヤは少しばかり驚く。


 通常、魔法師は生まれながらにして基本属性に対する適正を有している。例えばセイヤは光属性と闇属性の二つ。だが複数の適正を持っている魔法師は珍しく、ましてや無詠唱で行使するのはレイリアでもユアとセイヤぐらいだろう。


 いくら適正があるからといっても詠唱を完全に省略することはできず、何かしらの詠唱は必要だ。


 とはいっても、適正がないからといって他の属性が使えないということはない。ただ適性のある属性よりも使いにくいというだけだ。言うのであれば右利きが左で剣を振るようなものである。


 だが同時に、戦闘でそのようなハンディを背負うことを嫌い、ほとんどの魔法師は適性のない属性は使いたがらない。


 「セイヤ……あれ……」

 「おう」


 そんなことを考えていると、セイヤの前に大型の鹿が姿を現す。全長は約三メルほど、そして威圧感たっぷりの鋭く伸びる太い角。どうやらその鹿は魔獣のようだ。


 「この洞窟の主ってところか」

 「セイヤ……」

 「わかっている。消しはしない」


 ユアの確認にうなずくセイヤ。


 「顕現しろ、ホリンズ」


 召喚魔法を行使すると、セイヤの手にはホリンズが収まる。


 セイヤはホリンズを召喚すると、鹿の魔獣を見据え、双剣ホリンズを構えた。


 「ギュルルル」

 「ふぅー」


 次の瞬間、両者が一斉に地面を蹴り相手に向かって飛びかかる。


 魔獣はその角でセイヤのことを貫こうとし、セイヤはホリンズで鹿の首を刈ろうとする。


 結果はすぐに出た。セイヤが自分に突っ込んでくる魔獣のことを避け、すれ違いざまに魔獣のうなじにホリンズを刺し、魔獣を絶命させる。


 うなじを貫かれた魔獣は着地と同時にその場に倒れ込み、息を引き取る。セイヤはホリンズを霧散させて召喚を解くと魔獣の角を掴み、持ち上げる。


 「よし、今日の寝床と食糧確保だ」

 「さすが……」


 ユアがセイヤに確認した理由。それは魔獣を消滅させて今日の夕飯はなしという最悪の結果を回避するため。夜目の効かない夜に森に出るのは自殺行為だ。だから洞窟内に鹿がいたのは幸運であった。


 ちなみに魔獣と普通の動物は生体上では大して変わらない。ただ魔力を生成する器官があるかないかである。


 魔力があれば成長時に肉体に何かしらの影響を及ぼし、肥大化や凶暴化するが、それを除けばただの獣と変わらない。だから食べることは可能だ。


 ごくまれに強力な魔獣は魔力を使って魔法を行使するようだが、それは例外中の例外。それにそんな魔獣でも一応は食することができる。


 二人は洞窟の最奥につくとユアの魔法で炊いた火で暖を取り、魔獣の肉を焼いて食す。魔獣の肉は普通の肉よりも歯ごたえがあり美味で、二人はあっという間に全ての肉を食してしまった。


 夕食を終えた二人は明日に備えて寝床を作る。


 寝床と言っても洞窟の近くで取れた大きな葉を重ねた簡易的なベッドだが、無いよりはましだ。そしていよいよ就寝しようかという時、ユアが唐突に枝をもって地面に線を引き始めた。


 「それは?」

 「境界線……」

 「なんの?」

 「セイヤが獣にならないための……」

 「安心しろ。俺に幼女趣味はない」

 「そう……」


 幼女と言われ、すこし悲しげな表情を見せるユア。


 一方セイヤは、幼女趣味はないといったが、ユアの魅力の前では獣になりかねない。しかし二人が今いるのは暗黒領であり、ここで間違いを起こせば信頼関係に関わる。


 それにユアの父親は聖教会にも影響力を持つ存在だ。ここで欲望の赴くままに間違いを起こせば異端の力だけでなく、幼女好きのレッテルまで張られてしまう。


 そのことを考えれば、ここで下手な真似は出来なかった。


 「それよりユア」

 「なに……?」

 「ダリス大峡谷まではあとどれくらいだ?」

 「今のペースだと明日には着く……」

 「そうか」


 ダリス大峡谷がすぐ近くに迫っている。その緊張感がセイヤにのしかかるが、今は束の間の休息。セイヤはとりあえず体を休めることにした。


 「セイヤ……」

 「なんだ?」

 「おやすみ……」

 「ああ、おやすみ」


 二人の会話はそこで途切れた。しかしセイヤが寝付くにはしばらく時間がかかるのであった。


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