第13話 目指すべき場所
セイヤの目の前で跡形もなく消えた施設と魔法師たち。
「闇属性か……」
改めて自分の力を見たセイヤがどこか遠くを見るようにつぶやいた。これほどの力を有していれば、これから先、何事ともなく暮らすことは不可能だろう。ましてや争いなく暮らすなどもっての外。
だが幸いセイヤには帰る場所はない。だから誰かを巻き込む心配はない。それにユアの言う通りであれば、セイヤの力を隠すことができるかもしれない。
だから今はウィンディスタンには帰らない。ウィンディスタンに帰ってしまえば、恩人であるエドワードに迷惑をかけてしまうから。
「さて、レイリアに帰るか」
施設を跡形もなく消滅させたセイヤはレイリアの壁が見える方向に向かって歩き出す。はるかかなた薄くに見える壁だが、『単光』を行使していけば丸一日程度でたどり着ける距離だろう。
セイヤが早速『単光』を行使しようとするが、そこでユアが待ったをかける。
「待って……」
「どうした?」
「このまま帰るの……?」
「そうだが」
「どこに……?」
「どこって、まずはフレスタンに」
ユアの問いに首をかしげながら答えるセイヤ。
白衣の男の言葉が合っているのであれば、ここはフレスタン近くの暗黒領。ユアの家があるのはアクエリスタンであり、そこに帰るならばフレスタンを経由するのが最短だ。
だが浮かない表情のユア。
「どうかしたのか?」
「セイヤ……フレスタンには行かない方がいい……」
「どうしてだ?」
「フレスタンは実力の地方……戦いは避けられない……」
「確かにな。でも闇属性を使うようなヘマはしない」
ユアが言いたいのはフレスタンに行けば争い事に巻き込まれる可能性が高くなり、闇属性を使ってしまうのではないかということだ。
だがセイヤもそこまで馬鹿ではない。それにセイヤの光属性だってかつてに比べれば驚くくらい成長している。
「それだけではない……このままだと聖教会に連れていかれる……」
「それってどういう……ああ、そういうことか」
「そう……」
「つまりユアはこのままフレスタンに行ったら俺らは事件の被害者として扱われて、参考人として聖教会に連れていかれると」
「それに施設を見られたら……」
「闇属性の使用が明らかになる」
これは確かに一大事だ。このままフレスタンに行けばユアの言ったとことは避けられない。かといって被害者ではないと言えば、どうして学生が暗黒領にいたと問われて聖教会に連れていかれる。
つまりどちらにしろフレスタンに帰る手段、いや、レイリアの壁を超える手段が二人にはなかった。
「どうする?」
「アクエリスタンなら大丈夫……」
「どういう意味だ?」
「私のお父さんは影響力があるから……」
「いったいどんなお父さんだよ……」
「超有名人……」
自信満々に答えるユア。どうやらアクエリスタンまで行けば大丈夫のようだ。だがここからどうやってアクエリスタンに向かうのか。
「それでどうやってアクエリスタンに行くんだ? まさか暗黒領を通ってとは言わないよな?」
冗談のつもりで聞いたセイヤだったが、直後、その冗談が冗談でなくなることを知らなかった。
「その通り……」
「はぁ!? まさか本当に暗黒領を行くのか?」
「そう……」
「待て、いくらなんでも無謀だ。魔獣がうじゃうじゃいるんだぞ?」
「私とセイヤなら大丈夫……」
「そこらの魔獣ならそうかもしれないが、フレスタンとアクエリスタンの間にはダリス大峡谷があるんだぞ?」
ダリス大峡谷。それはレイリアでは知らぬ者はいないと言われるほどの観光スポット。ではなく、泣く子も黙る魔獣の生息地だ。
アクエリスタンとフレスタンの境界線上に位置する大きな峡谷であり、そこには強力な魔獣たちがひしめいており、ダリス大峡谷に行って帰って来た者はいないと言われている。
五年ほど前に、ダリス大峡谷には水の妖精がいるという噂が広まり、一部の一族が合同で調査を敢行したが、結果は全滅。それに加えてダリス大峡谷の魔獣たちがレイリアに襲い掛かってきた事件があった。
結局魔獣は聖教会の主導の下、解決はしたものの、後にダリス大峡谷はアンタッチャブルとなったほどだ。
「でもそれしか方法はない……」
「そうかもしれないが」
ユアの言うこともまた真実。ダリス大峡谷を通ってアクエリスタンに行かない限り、二人が聖教会行きだ。
強力な魔獣たちとの戦いを取るか、強力な人間たちとの終わりの見えない戦いを取るか、セイヤはどちらか一方を選ばなくてはならない。
(どうする……)
セイヤは必死に考える。自分がどちらを取るべきか。安全なのはフレスタンに行くことだ。だが後々困るのも事実。
かといってダリス大峡谷はリスクが高すぎる。だが成功すればセイヤの闇属性は隠し通せる。
ローリスクローリターンか、ハイリスクハイリターンか。
セイヤは葛藤の末、ついに結論を出す。
「ダリス大峡谷に行こう」
セイヤの答えはハイリスクハイリターンだった。
「わかった……」
嬉しそうに微笑むユア。実は彼女もまた、聖教会に見つかるわけにはいかない力を持っているのであった。こうして二人の異端魔法師はダリス大峡谷を経由してアクエリスタンに帰還することを目指すことにした。
ダリス大峡谷を経由してレイリア王国への帰還を目指す二人は、はるか彼方に広がるレイリアの壁を目指しながら進む。
地図を持っていない二人だが、レイリアの地形に関しては頭に入っているため、ダリス大峡谷まで迷うことはない。
聖教会のある中央王国を中心に、フレスタンは北、アクエリスタンは西、ウィンディスタンは東に位置しており、二人の前に見える壁がフレスタンの壁だとすれば、壁に沿って右に進めばダリス大峡谷に辿り着くはずだ。
だから二人は『単光』を行使しながら高速で進んでいた。
「セイヤ……」
「また魔獣か」
ユアの声に、セイヤが魔獣の群れを見つける。先ほどから何度か魔獣との衝突を経てる二人にとって、魔獣との遭遇は驚くことはない。
「俺がやっていいか?」
「構わない……」
「了解」
セイヤは魔獣の群れに対し、頭上と足元に紫色の魔法陣を展開する。使用する魔法は闇属性初級魔法の『闇波』。群れと言っても、施設ほどではないので十分だ。
魔獣の力は見た感じ、一体一体が、中級魔法師が複数人で倒せるレベルだ。その魔獣が二十体近くいるため、少なくとも中級魔法師が五十人以上は必要になる。
しかし異端の力を手にしたセイヤにとって、魔獣の群れは脅威ではなかった。
「『闇波』」
セイヤが魔法を行使した刹那、魔獣の群れが一瞬にしてその姿を消す。あとに残ったのは魔獣たちが起こした砂煙だけ。
普通の魔法師にとっては一息つきたくなる出来事だが、セイヤにとっては進むための障害程度。このようなことでわざわざ立ち止まる必要はない。
「このままいくぞ」
「わかった……」
二人は足に流し込む魔力の量を上げて、さらに加速する。そしてダリス大峡谷を目指して進み続けのであった。




