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第12話 異端魔法師の逆襲

 セイヤの闇属性を打ち消した少女。



 「光属性か。それに無詠唱での魔法陣展開。お前、何者だ」


 少女が行ったことは光属性による闇属性の相殺。光で闇を相殺できることを知っているのも驚きだが、それ以上に少女が無詠唱で魔法陣を展開したことにセイヤは驚きを隠せない。


 少女もまた闇属性を使えるのかと一瞬だけ考えるが、すぐにその可能性を捨てる。それなら少女が魔封石によって拘束されているはずがないから。


 ならいったい少女は何者なのか、そしてどうして無詠唱で魔法を使えるのか。


 セイヤは気になった。


 「私はユア……魔法師……」


 少女は立ち上がると、ユアと名乗る。


 ユアが立ち上がったことで初めて分かったが、彼女は子供体型ながらも成長するところは成長しており、その顔を控えめに言って美少女。まさに完成された美少女だった。


 「争う気はない……。そして闇属性のことも黙っている……」

 「だから戦いは止めようと?」

 「そう……」

 「どうやってそれを信じろと?」

 「証明はできない……」


 ユアがセイヤの瞳をまっすぐ見つめる。その瞳が嘘を言っていないと物語っているが、ここで信じるほどセイヤも馬鹿ではない。


 「なら信じられないな」

 「信じないのは勝手……でもここで消耗するのは適切ではない……」

 「確かにな」


 ユアの言うことも一理ある。ここは暗黒領の上、具体的な位置もわからない。レイリアに帰ることを考えると、消耗は避けたい。


 「それに共闘したほうがいい……」

 「どうしてだ?」

 「闇属性はレイリアでは生きられない……でも私の家なら安全……」

 「どういう意味だ?」


 ユアの言う意味が理解できないセイヤ。


 「私の家は聖教会も手を出せない……だから安全……」

 「つまり戦わず一緒におまえの家に行けと?」

 「そう……」

 「ところでどうして闇属性を知っている?」

 「お父さんから聞いた……」


 ユアの言っていることはどこまで真実かはわからない。しかし闇属性の存在を知っていることからその地位はかなり高いと思われる。


 確かに闇属性が使える限り、セイヤに聖教会というリスクは伴う。だが仮にユアの言う通りであれば、セイヤの安全な暮らしが保証される。


 セイヤは考え込む。どちらを取るか。


 「わかった。交渉成立だ」

 「話が早くていい……」


 セイヤが牢の扉を開けると、ユアが出てくる。その華奢な体が心配になるが、実力は確かだ。それに闇属性があれば大抵の魔獣は倒すことができる。


 二人は出口を目指して施設内を散策する。


 「よくわからない造りの施設だな」

 「犯罪集団だから……」


 セイヤの愚痴にユアが真面目に答える。


 確かにこの施設の造りはセイヤの言う通り、分かりにくい。具体的に言うのであれば、壁一面を無機質のコンクリートのようなものが多い、窓などはついておらず、明かりは頭上に周期的に設置された鉱石が埋め込まれているだけだ。


 いくら歩いても出てくるには同じ光景。たまに牢が出て来たとしても、中に人はいない。


 自分たちが一体どこにいるのかセイヤたちにはわからなかった。


 「ちっ、こうなったら全部消滅させるか」

 「それが一番効率的……」


 ユアの賛同を得たセイヤは立ち止まると、壁に向かって右手を伸ばし、紫色の魔法陣を展開する。詠唱などはいらない。


 「『闇の息吹』」


 展開された魔法陣から無秩序に撃ち出された紫色の魔力が無機質な壁を消滅させる。それは一枚ではなく、その先にも存在していた壁全てを例外なく。


 「見えた……」

 「ああ、出口だ」


 二人の前に現れたのは壁十枚分先に生まれた自然の光。


 「あそこが出口だな」

 「間違いない……」


 出口が分かった二人はそのまま通路を横切って出口に向かう。しかし壁を消滅させた際に多量の魔力を使ったため、当然ながら犯人グル―プたちも異変に気付いた。


 「何事だ!?」

 「見ろ、あれ!」

 「モルモットが外に出たぞ!」

 「なに!? 魔封石がないぞ!」

 「今すぐ魔法師部隊を呼んで来い!」


 次々と姿を現す男たち。しかし彼らは魔法師ではない非魔法師。魔法を使える、それも異端の力を手にしたセイヤの相手には到底ならない。


 「どけ」


 セイヤが殺気を込めながら男たちを睨むと、男たちはその場で怯む。しかし彼らも一応は犯罪組織の端くれ。申し訳程度の修羅場はかいくぐってきていた。


 「くそ、舐めやがって」

 「魔法が何だ」

 「やれ!」


 一人の男の掛け声によって、怯んでいた男たちが次々と武器を抜いてセイヤたちに向かって構える。

 だが彼らが構えた武器は所詮、非魔法が使うことのできる武器。魔法の前では後れを取るに決まっていた。


 「『闇波』」


 セイヤがその一言を告げた刹那、男たちの頭上と足元に紫色の魔法陣が展開され、一瞬にしてその肉体を消滅させていく。


 残ったのはその男たちが手にしていた武器の一部。男たちの痕跡は跡形もなくセイヤの手によって消滅させられた。


 「ユア、走るぞ」

 「うん……」


 敵を殲滅した二人はこれ以上の厄介事を避けるため、口に向かって駆け出す。その際、二人は自らの足に光属性の魔力を流し込み脚力を上昇させる『単光』を行使する。


 『単光』はセイヤの開発した『纏光』と違い、体の一部に魔力を流し込む魔法である。魔力を余すところなく全身に纏わせる『纏光』とは違い、魔力を体の、それも一部に流し込む『単光』は魔力消費量の効率が極めていい。


 二人は上昇した脚力で地面を蹴ると、そのまま一気に出口を通り過ぎて施設外に出た。


 「これは……」

 「ここが暗黒領……」


 外に出た二人の目の間に広がる光景は辺り一面に広がる赤茶色の大地。周りにはゴロゴロとした岩ばかりが存在し、木などの植物は皆無。唯一存在するとするならば、はるかかなたの地平線に見えるレイリアの壁ぐらいだろう。


 そこはまさに人の住まない地、暗黒領だった。


 「セイヤ……」


 初めての暗黒領に目を奪われていたセイヤの袖をユアが引っ張る。


 「どうし……なるほどな」

 「どうした?」と聞こうとしたセイヤだったが、振り向きざまにユアが何を言いたいのか察する。


 セイヤの視線の先には施設内を走り回る犯人グループの姿。どうやら異変に気付いた施設内の人々が異変の原因を探ろうとしているようだ。


 「あれは……」


 セイヤは施設内を駆け回る犯人グループを見てあることに気づく。それは駆けずり回る犯人グループの中に魔法師たちがいること。


 正規の魔法師が犯罪者に協力することはまずありえない。各一族は自分たちの一族を誇りに思っており、例え命を奪われようとも犯罪者に与することはない。


 「となると、傭兵か」


 傭兵、それは各一族から見捨てられた魔法師のこと。通常、魔法師一族は家督を代々長男に次いでおり、それより下の魔法師たちは家の仕事を手伝うか、自ら職を探すかで生計を立てる。


 しかし中には職を見つけられず没落し、傭兵となって犯罪者グループに身を落とす者もいる。そしてセイヤの目の前にいる魔法師たちもまさにそれだった。


 「セイヤ……?」

 「なぁユア、あそこって俺ら以外の被害者っているか?」

 「いないと思う……人員はなくなるごとに補充されているから……」

 「なるほど。じゃあ最新が俺らってことは生きている被害者はいないな」


 セイヤは少しだけ安堵すると、殺気を纏いながら施設を見据える。


 その殺気に気づいた魔法師たちが一斉にセイヤのことを見つけるが、セイヤは気にせず魔法陣を展開させる。魔法陣を展開させる場所は施設の地面と施設の上部。魔法の有効エリアは施設全体。


 大きな紫色の魔法陣が施設を挟み込むように展開されるが、相手の魔法師たちは気づかない。


 もしかしたら彼らに罪はないのかもしれない。彼らは自分が生きるために犯罪組織に身を置いているのかもしれない。


 しかしここは魔法の世界。


 魔法師は自分の身は自分で守り、死んだとしてもそれは自分の弱さが原因で自分のせい。魔法師は自分の行動に責任も持たなくてはならない。


 ましてやこれは命がかかった戦い。慈悲は己を窮地に導く害でしかない。


 だからセイヤは無慈悲に魔法名を告げて行使した。


 「『闇震』」


 それは闇属性初級魔法の『闇波』の上位互換にして闇属性上級魔法の一つ。あらゆる有機物を問答無用で消し去る闇属性の中でも強力な魔法だ。


 弱点があるとすれば、それは加減ができないこと。範囲内に入ったものはすべて消滅させられる。


 そして今、セイヤの目の前で大きな施設が一瞬にして姿を消した。いや、その存在をセイヤによって消滅させられた。


 施設内に何人の人がいたかは知らない。だが誰もが例外なくセイヤによってその身を消滅させられたのであった。


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