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第11話 異端魔法師と囚われの級友

 初めて人を殺したセイヤ。それも二人。しかし不思議と罪悪感はない。それに人を殺したことに関する感情の機微さえも。


 変わってしまった。セイヤはそう思った。


 「帰るか」


 セイヤは闇属性を行使して手術室の扉を消滅させると、施設の外を目指して手術室を出る。


 そして歩くこと数分。いつの間にかセイヤは先ほどまで捕らえられていた牢屋の前にいた。その牢屋にはもちろん魔封石によって捕らえられているザックたちがいた。


 「な、アンノーン!?」

 「どうしてここに!?」

 「なぜだ!?」


 牢屋の外を歩くセイヤの姿に驚く三人。ついさっき見捨てた級友が牢屋の外を歩いているのだ。驚くのも当然だろう。


 だがセイヤからしてみれば、ザックたちはもうどうでもよかった。


 確かにセナビア魔法学園ではあまたの屈辱を味わい、殴られ、蹴られたかもしれない。しかしもう心の底からどうでもよかった。


 闇属性を手に入れたセイヤにとって、もう三人は相手にならない。


 闇属性は形あるものを消滅させることができる力。そこには当然ながら魔法も含まれる。つまりセイヤの前で魔法師は無力。


 セイヤの闇属性に対抗するにはそれを上回る闇属性か、同等以上の光属性が必要になる。光属性と闇属性は相反する属性であり、互いに互いを打ち消し合う力がある。


 そして今のセイヤの力は軽く上級魔法師に匹敵する。


 さきほどセイヤは闇属性を手に入れたと言ったが、それは語弊だ。セイヤはもともと闇属性を使える魔法師だった。ただその記憶を失っていたため、魔法をうまく使えなかったのだ。


 命の危機に瀕し、セイヤはやっと記憶を思い出した。そして本当の力を取り戻したのだ。


 もはやセイヤはアンノーンではない。魔法師キリスナ=セイヤだ


 「なんだ、お前らか」


 セイヤは捕らわれの身の三人を見下すように見る。


 そんなセイヤの態度に三人は怒りを見せる。


 「その態度は何だ、アンノーン」

 「偉そうだな」

 「もういっぺん懲らしめた方がいいかな~」


 三人はセイヤの纏う雰囲気が変わったことに気づいていない。そして口調の変化にも。


 彼らは生き延びたい。そのために利用できるものは利用しようと考えていた。


 「とりあえず鍵をとってこい。そしたら逃げるぞ」


 ザックはセイヤに鍵を持ってくるようにと命令するが、そんな義理、セイヤにはない。


 「どうした? 早く行けよ、アンノーン」


 セイヤをかつてのセイヤだと思っているザックが強気な態度で命令するが、セイヤは動こうとはしない。


 セイヤの反抗的な態度にザックは声を荒げる。


 「さっさと行けって言っているだろ!」

 「少し黙れ」


 声を荒げたザックだが、セイヤは殺気を放ち黙らせる。


 すでに二人を手にかけたセイヤの殺気は本物。三人を黙らせるには十分すぎた。


 「なんだよ……これ……」


 セイヤの豹変にやっと気づいた三人。もうセイヤは三人の知るセイヤではない。


 「俺におまえらを助ける義理はない。わかったら黙ってろ」


 セイヤの傲慢な態度。いつもの三人ならすぐに制裁を加えただろうが、今ばかりは違った。


 セイヤから放たれる本物の殺気。自分たちを対等に見ていない冷酷な瞳。こいつは自分たちを殺すことにためらいを持たないだろう、と三人は本能的に察した。


 「まあ同じクラスの好だ。拘束ぐらいは解いてやる」


 セイヤはそう言って三人を拘束していた魔封石を消滅させると、その場を去る。


 魔法を使えるようになった三人なら牢屋を壊すことは容易い。あとは魔獣ばかりの暗黒領を生き残れるかだ。

 気まぐれで三人の拘束を消滅させたセイヤそのまま通路を進んでいく。


 一方、三人は豹変したセイヤに背中を見つめながらしばらく呆然とするのであった





 セイヤは施設内を進みながら出口を探す。途中、施設の職員らしき屈強な男たちに見つかり襲われたが、そこは魔法で撃退した。


 戦ってみてわかったのは、セイヤの魔力量が前までよりも格段に上がっていること。その魔力量は並みの魔法師を軽く凌駕する。


 セイヤの魔力量が上がった原因として考えられることは、闇属性の復活により脳と体のリンクが正常になったことが考えられる。


 かつてのセイヤの脳は闇属性の存在を知らず、光属性だけを使おうとしていた。しかし体が闇属性の存在を覚えており、そこにズレが生じてうまく魔力が供給されなかったのだ。


 つまりセイヤの魔法師としての潜在能力はザックたちと比にならないということである。


 セイヤが自分の進化の理由を考えていると、一つの牢の前で足を止めた。


 「大丈夫か?」


 牢の中には白い髪に紅い瞳をした少女がザックたちと同じように魔封石で拘束されていた。


 少女はセイヤの姿に気づくと、警戒の視線を向ける。どうやらセイヤのことを敵とみなしているようだ。


 「安心しろ。俺はこの施設の人間じゃない」

 「じゃあ誰……?」

 「お前と同じ被害者だ」

 「そう……」


 少女は素っ気なく頷くと、そのままセイヤに対する興味を失ったように視線を外す。彼女は決してセイヤに助けを求めようとはしなかった。


 (こいつ、相当な手練れだな)


 セイヤは一目で少女の実力に気づく。少女の纏う雰囲気が普通の魔法師とは違っていた。


 「なあ、一つ提案がある」

 「なに……?」

 「出口を教えてくれ。そしたら拘束を解いてやる」

 「鍵はあるの……?」

 「ない」


 セイヤの答えを聞き、少女は再びセイヤから視線を外す。鍵がなければ魔封石は外せないことを少女は知っていた。


 だからセイヤが冷やかしできたか、不公平な取引を持ち掛けて来たと思い相手にするのを止めたのだ。


 「ま、そうなるな」


 少女の反応を見て、セイヤは当然だと思った。


 だからセイヤは先に対価を払う。


 「『闇波』」


 魔法を行使して、少女の拘束具を消滅させるセイヤ。これで少女は自由のみだ。


 「拘束は解いた。だから出口を教えてくれ」

 「知らない……」

 「なに?」

 「出口の位置を知らない……」

 「そうか」


 少女の答えにセイヤは短く返事をすると、今度はセイヤが少女に興味を失う。


 よく考えれば少女は出口を知っているとは一言も言っていない。


 拘束を解いたのはセイヤの早とちりだ。まあ、気まぐれと考えれば痛くもかゆくもない。


 セイヤは少女が捕まっている牢屋を後にしようとした。


 だがその時、少女が小さくつぶやく。


 「闇属性……」

 「!?」


 少女のつぶやきにセイヤは心臓を掴まれた気分になる。


 「まさか闇属性を知っているのか?」


 セイヤは突然目の前の少女に対し興味が出た。


 「知ってる……」

 「なぜ知っている?」


 闇属性は聖教会でも一部の人間しか知らない極秘事項。そこらの少女が知っているはずがない。少女の纏う雰囲気を見る限り、かなりの実力者だとはわかるが、それでも聖教会に関わりがあるとは思えない。


 だがセイヤの闇属性を言い当てた。


 これは純粋に賞賛すべきことであるが、同時にセイヤにとっては危機だった。


 闇属性とはその強さから異端の力と認定されており、もしその力の存在が知られれば、聖教会が主導となってセイヤの存在を消しに来るだろう。


 お尋ね者ならまだいいのだが、暗殺対象となってしまえばセイヤもひとたまりもない。つまりセイヤの闇属性が他人に知られることは、セイヤがレイリアで暮らすことができなくなるということである。


 もちろんセイヤはそんなことを望んではいない。本望ではないが、ここで少女の消すことがセイヤの安全を守る結果につながる。


 セイヤは自分のために、少女を手にかける。罪悪感がないと言えば嘘になるが、生き延びるためには仕方ない。


 「悪いな、消えてくれ」


 セイヤが少女の頭上と足元に紫色の魔法陣を展開する。


 「苦しみはない。すまないな」

 「無駄……」


 いざセイヤが魔法を行使しようとした刹那、少女がセイヤの展開した魔法陣に黄色い魔方陣を上書きして封じた。

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