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第10話 異端の目覚め

 それが夢か、はたまた走馬灯かはわからない。

 それでもセイヤは確かにそれを見た。




 場所はわからない。記憶にないはずなのに、どこか懐かしさを感じる森にセイヤは立っていた。周りには緑輝く木々が生えており、夕焼けが森の向こうに見える。


 体は軽く、先ほどまでの痛みはない。しかし体は自分の意思に反して動こうとはしない。


 セイヤの前には二人の親子がいた。


 父親は白い髪に紅い瞳をした屈強な戦士のような体つきをしている。


 子供の方はまだ五歳くらいだろうか。金色の髪に青い瞳。その手には紫色の魔法陣が展開されている。


 一見すると、二人の容姿はかけ離れており、親子には見えない。しかし二人を包み込む空気は親子そのものだった。


 「みてみて、まほうじん」

 「ほう、凄いな」

 「うん!」


 子供が魔法陣を見せると、父親は子供の頭をくしゃくしゃと撫でながら褒める。だがその表情にはどこかはかなさが見える。


 紫色の魔法陣。それはレイリア王国においての魔法体系では存在しない。


 火属性なら赤、水属性なら青、風属性なら緑、光属性なら黄色。これが基本属性の魔法陣の色である。他にも属性は存在するが、基本属性を基礎とする限り紫色の魔法陣はうまれない。


 「でもその魔方陣を人前で使っちゃだめだぞ」

 「なんで?」

 「大切な人がいなくなっちゃうからだ?」

 「大切な人?」

 「そう。パパやママ、それに友達も。そんなの嫌だろ?」

 「うん、やだ」

 「じゃあ使わないようにな」

 「わかった!」


 子供は元気に返事をすると、展開していた魔法陣を消す。


 「それと明日から魔法の練習だ」

 「えー」


 嫌そうな顔をする子供にやさしい微笑みを向ける父親。


 「みんなを守るためだ」

 「うー、わかった」


 子供は不満そうながらも、父親の言うことを受け止める。


 その後二人は肩車をしながら家へと勝っていく。


 セイヤの体はその親子についていくように家の前まで移動した。


 「おかえり、二人とも」


 家の前に着くと、中から一人の女性が出てくる。


 女性は金色の髪と碧い瞳が特徴的な美しい女性であり、その容姿は子供そっくりだ。


 「ただいま」

 「ただいま!」


 子供は元気に挨拶をすると、女性に抱き着く。女性は子供を抱き上げると、父親の方を見た。


 「どうしたの?」

 「それが……」


 歯切れの悪い父親。その姿を見て、母親も察する。


 「もしかして?」

 「ああ。闇属性が」

 「そう。なら光属性が出てくるのも近いわね」

 「そうなるな」

 「ごめん。ごめんね……」


 母親が突然、涙を流す。その姿を見て、子供が心配そうに母親の表情を伺う。


 「ママ?」

 「ごめん、ごめんね」

 「大丈夫だ。この子なら……」

 「そうね。あと少しだけ幸せを……」


 父親がそっと母親と息子のことを抱きしめる。


 「あと五年だ」

 「ええ、そうね」


 母親が子供のことをしっかりと抱きしめる。その姿から母親が子供を愛していることがよくわかる。


 「ごめんね、セイヤ」






 夢はそこで終わった。


 セイヤはゆっくりと目を覚ますと、静かに周りを伺う。


 そこは先ほどの手術室。セイヤの横で男が何やら叫んでいるが、セイヤには関係ない。いや、どうでもよかった。


 セイヤは静かに目を瞑り、魔力を錬成する。


 「なんだ、どうして麻酔が切れた!?」

 「わかりません。麻酔を再投入します」


 男たちが叫ぶが、セイヤは気にせず魔力を錬成していく。


 「なぜだ! なぜ魔封石があるにも関わらず魔力を錬成できる!?」

 「魔力量が異常値を示しています」


 男たちはセイヤが魔力を錬成していることに驚いているが、セイヤにとっては普通だった。


 魔封石はレイリアでは魔法を封じる鉱石と知られているが、万能ではない。封じることのできない属性も存在する。


 その一つが闇属性だ。


 闇属性はレイリア王国での魔法体系である基本属性に所属しない属性。いわば領域外の属性。そしてレイリア王国を統治する聖教会では闇属性を異端の魔法としている。


 聖教会でも一部しか知らないことを男たちが知るはずもなく、ただ騒ぐことしかできない。


 「くそ、麻酔を早くしろ」

 「はい!」


 急いで麻酔を再投入しようとする二人だが、当然セイヤがそんなことを許すはずがなかった。


 「やらせると思うか?」


 いつの間にかセイヤのことを拘束していた魔封石が消え、ベッドから起き上がるセイヤ。


 纏う雰囲気が先ほどまでとは明らかに違っており、一瞬別人かと錯覚してしまいそうになるくらいの殺気を放っている。


 セイヤの殺気の前に、男たちは立ちすくむことしかできない。


 「さっきは世話になったな」


 そう言って、セイヤが助手に向かい右手を向ける。


 すると助手の足元と頭上に紫色の魔法陣が展開された。


 「なぜ無詠唱で魔法陣を!?」


 白衣の男が驚きを隠せない様子でセイヤを見るが、セイヤは構わず魔法を行使する。


 「『闇波』」


 その刹那、助手の肉体が跡形もなく消える。それは比喩ではなく、本当に消えたのだ。骨も肉片も残さずに。


 一瞬なにが起きたのか理解できなかったが、白衣の男はすぐに助手がセイヤの手によって殺されたと理解する。


 セイヤに人を殺した罪悪感などは一切ない。男もそれなりの人数を手にかけて来たが、ここまで無心に人を殺せない。


 まるで作業のように人の命を手にかけたセイヤ。そんなセイヤに男はいつの間にか畏怖を覚えていた。


 「次はお前だ」


 セイヤが男の方を振り向き、足元と地面に紫色の魔法陣を展開させる。


 「ひぃぃぃ」


 男は悲鳴を上げるが、動くことができない。セイヤの纏う殺気を前にして腰が抜けてしまったのだ。


 「俺も遺言くらいは聞いてやろう」


 さきほど言われたように、最後の慈悲をかけるセイヤ。男は必死に命乞いをする。


 「た、助けてくれ。なんでもする。お前が欲しいのは金か? 女か? それとも地位か? なんでも用意する。だから命は、命だけは助けてくれ」


 見苦しく命乞いをする男だが、はなからセイヤに見逃すという選択肢はない。


 「今までそうやって助けを求めてきた人々を何人殺してきた?」

 「わかった。弔う、しっかりと弔って謝罪する。だから命だけは」

 「失せろ」


 次の瞬間、男の命は尽きた。いな、この世界から消えた。


 闇属性にも他の属性同様、副次的な特殊効果が存在する。効果の名称は消滅。形ある万物を消滅させる魔法だ。


 対象は人間に限らない。鋼鉄だろうが、岩石だろうが、形があれば消滅は可能だ。そして闇属性の最大の特徴は魔法行使の際に付随する詠唱も消滅させることができることだ。


 そのためセイヤはもう詠唱を必要としない。


 魔法陣構築に詠唱は必要ないから。


 これこそが闇属性の力であり、異端の力と言われる所以である。


 「闇属性か……」


 セイヤは自分の右手を見つめながら呟いた。

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