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第1話 落ちこぼれ魔法師

 五月の始まりを知らせるような心地いい風が吹く中、今日も新たな一日が始まろうとしていた。しかし昨日まで休日だったこともあり、世の学生たちはどこか疲れた様子で学園へと登校している。


 それはこのセナビア魔法学園の生徒も同じだ。


 セナビア魔法学園はレイリア王国に十校しかない魔法学園の一つであり、ウィンディスタン地方北部のオルナの街にある。さらにこのセナビア魔法学園はウィンディスタン地方に三つしかない魔法学園の中でも、とくに名高い魔法学園だ。


 そんな生徒たちの中でも特に憂鬱な顔をしながら、いつもと同じように遅刻ギリギリに教室に向かう生徒がいた。


 金髪碧眼の気弱そうな少年。彼の名前はキリスナ=セイヤ、この学園の二年生に在籍する生徒だ。セイヤは自分の所属するクラスの前に着くと、教室の扉を開けて足早に自分の席に座った。


 クラスメイト達は一瞬だけセイヤのことを見るが、すぐに興味を失ったかのように友人との雑談を再開させる。彼らはセイヤのことを、まるで見えないかのように視界に入れなかった。


 しかしだれもが皆一緒ではない。セイヤの席に、三人の男子生徒が近づく。


「よぉ、今日もよく来たな。アンノーン」

「毎日、毎日よく学校に来れるなぁ。アンノーン」

「アンノーンだから仕方ないか~。だって自分の家族も知らないんだからな~」


 今日も日課のようにセイヤに嫌味を言うのはザック=ルニアス、ホア=ティール、シュラ=ナインズの三人。この三人はセイヤの所属するクラスの中で、セイヤと会話してくれる珍しい生徒たちだった。


 だが三人の態度は見るからに友好的とはいえず、非友好的な雰囲気を丸出しだ。こうしてセイヤに絡むことが三人の毎朝の日課だった。


 なぜこの三人が毎日のようにセイヤに絡むのかというと、理由はセイヤの生い立ちだ。セイヤは現在、一人で暮らしながらこのセナビア魔法学園に通っている。セイヤが一人暮らしをする理由は単純に親がいないから。


 といっても、ただ親がいないだけではこの三人も毎日絡んで来たりしない。問題はセイヤの親がいないだけではなく、セイヤが親のことや、自分の一族のことを何も知らないことだ。


 魔法師にとって家柄というのは特に重要なもので、家柄がその一族の王国内での地位を決めることもある。ましてや、このウィンディスタン地方では、特に家柄を重視する傾向が強く、学園内のカーストも家柄によって決まったりする。


 そのため家柄もなく、家族のこともわからないセイヤは、何も知らないことから、unknown、アンノーンと呼ばれ、クラス中、いや、学園中からまるでいないように扱われていた。


 たとえセイヤが困っていても誰も助けることはない。逆にセイヤが誰かを助けようとしても、そのものはセイヤのことを無視し続ける。


 関わって変な噂が立つくらいなら、無視して関わらないほうがいいというのがクラスメイトたちの基本的なスタンスなのだ。この三人を除いては。


 黒髪短髪で体つきの良い大将のような少年は中級魔法師一族ルニアス家次男のザック。

 茶髪のチャラそうな少年は初級魔法師一族ティール家三男、ホア。

 坊主頭の丸っこい少年が初級魔法師一族ナインズ家次男のシュラ。


 レイリア王国の人口の約半分は魔法師であり、魔法師は主に家業を継ぐか、王国の防衛職に就くかなどで生計を立てている。


 そして魔法師は特級魔法師、上級魔法師、中級魔法師、初級魔法師という四つの階級に分類され、階級が上がれば上がるほどその数は少なくなっていく。例えば特級魔法師はレイリア王国内でも十二人しかいないほどだ。


 一族の階級はその一族の当主の階級によって決まる。例えばザックの一族は中級魔法師一族となっているが、中級魔法師はザックの父親であり、ザック自身はまだ初級魔法師だ。


 だが、いくらザックが初級魔法師だからといっても彼は中級魔法師一族。初級魔法師一族よりは立場が上である。だから初級魔法師一族最底辺のセイヤは、中級魔法師一族のザックに逆らうことはできないのだ。


 けれどもそんな時間も学園の始業のチャイムが鳴れば終わる。


 ザックたちがセイヤに絡み始めてから一分もたたずに始業のチャイムが鳴り、担任であるラミアが教室に入ってきた。


 赤く長い髪と、赤い瞳を持つラミアからはクールな大人の色気というものが感じられる。しかしその視線はいつにも増して厳しい。


ラミアは中級魔法師一族であり、彼女自身も中級魔法師だ。セナビア魔法学園の中でも彼女は近接戦闘でトップクラスの実力を備えており、ウィンディスタンでも名の知れた火属性使いの魔法師だ。


 そんな彼女がいつも以上に厳しい表情をしていることを、クラスメイト全員が察する。


 「皆、おはよう。欠席者は……いないな。さて重要な連絡事項があるから心して聞け。近頃この付近で魔法師を狙った人攫いが多発している。この件に関しては教会だけでなく、聖教会からも調査隊がでるそうだから犯人はすぐに捕まると思うが、一応気を付けるように」


 教会とは各地を管理する機関であり、その教会をまとめ上げるのが中央王国首都、ラインッツにある聖教会だ。

聖教会には昔までリーナ=マリアという女神がいたが、数十年前に突如消えて今では臣下だった者たちが合同で七賢人としてこのレイリア王国を統治している。


 教会は中央王国の周りに三等分されたフレスタン、アクエリスタン、ウィンディスタンの各地の中心部にあり、各地を管理している機関だ。教会は各地の代表者数名と聖教会から派遣された数名で成り立っている。


 レイリア王国を上空から見るとその形はドーナッツ型だ。


 首都がある中央王国を中心とし、その周りにフレスタン、アクエリスタン、ウィンディスタンが三等分されるように存在し、この三つの地方の外周りを大きな壁が囲んでいる。

壁の外には暗黒領と呼ばれる地が広がっており、人の代わりに凶暴な魔獣が住んでいる。


「人攫いか……」

「珍しいね」


 ラミアの連絡に生徒たちがざわつき始める。


 魔法師を狙った人攫いは得られる金こそ大きいが、その分リスクがあるため中々起きない事件である。ましてや高額の金を欲するなら階級の高い魔法師を狙う必要があり、それこそ高リスクだ。


 そんなことをするくらいなら、その辺の子供を攫った方がまだ安全だ。


 それに魔法師の学園には実戦経験豊富な教師陣がいて、人攫いを実行するのは無謀に近い。だから魔法学園がある街での人攫いは珍しいのだ。


 「連絡は以上」


 朝のホームルームが終わると、ラミアが教室から出て行く。こうしてセナビア魔法学園の新たな一日が始まるのだった。



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