第6話 出立
「パデリック、ちょっとエルフの国に行ってきますね」
ある日、私は切り出した。
そろそろ一度、父上の様子も気になるし、あの人も歳だから顔を見るくらいはしたい。
それに、孫を見てもらいたいという気持ちもある。
「⋯⋯正気か?」
「もちろん。私がエルフだって忘れてませんよね?」
「忘れているわけではないが⋯⋯」
大方、今更戻って何をしようというのか、と言ったところか。
だけど、エルフの国というのは王族でも分け隔てなく接したりするので居心地は最高だ。
王族と言っても、ただの地位であって、しかも木々の世話を永遠にしていたい私たちエルフにとって王の仕事とはひどく退屈なのだ。
そのため、王族は神への供物と認識されているのである⋯⋯。
「もう準備は済ませて、明日にでも行く予定です。しばらく留守にしますが、きちんと魔国を守ってくださいね。ああ、それと、ヴァイスを連れて行きます」
「⋯⋯そうだな。新たな勇者の実力がどの程度か気になるが、まだ攻めて来れないだろう。召喚国のゲルトニクスは内戦で忙しいからな」
最近の情勢は知らないので、これはありがたい情報だ。
ゲルトニクスでは内戦が起こっていて、勇者はそちらに狩りだされているらしい。要は対人戦の経験を少しでも積ませたいのだろう。
「それならば、安心できます。エルフの国はここからひと月以上かかるので、帰ってくるのは⋯⋯4カ月後、ということでいいですか?」
「ああ、それならば、迎えはマキトを寄越そう。これを持っていってくれ」
マキトを寄越すとはいったい⋯⋯と思いながらパデリックから渡されたものを見ると、それはネックレスのようだ。
しかも魔法付与がされている。
魔法付与が出来る鉱石はヌルッポ液と呼ばれるものが固体になると出来るらしい。
その鉱石の名はヌル。
世界にも僅かしかなく、今では土の中で眠るヌル鉱石も採掘出来ない状態が続いており、非常に高価な値段でやり取りされている。
そのヌル鉱石が何故、こうも簡単に出てくるのか⋯⋯。
「それには守りの魔法と位置発信の魔法付与がしてある。マキトは空間転移を出来るから、それで迎えに行ってもらうとしよう」
そういうことなのか。
だいたい理解出来た。
マキトを呼ぶときは、結婚時に貰った通信の魔法付与がされているイヤリングでパデリックに伝えればいい。
「わかりました。パデリック⋯⋯今、時間いいかしら」
顔を背けながら言うと、何がいいたいか察したようだ。
私はパデリックと愛の育みをし、長い間会えなくなる寂しさを紛らわせることに成功した。
「母様、この馬車は凄いですね」
ヴァイスとケンとフレイアと共に魔国最高級の馬車に荷物を乗せていく。
黒の光沢を放つ屋根と柱。その反対の色である純白の壁。
見た目は8人乗りの馬車に見えるが、実はこれ自体が魔法付与されている。と言っても馬車全体に付与させるなんてことは出来ない。
材料を全てヌル鉱石にするだなんてもったいないし、世界中からかき集めても集まらない。
まず、核となる少し大きめのヌル鉱石を用意し、それを中心として4か所に小さめのものを配置する。
こうすることによって効果が倍増し、馬車全体にかかっているように見えるようになっているのだ。
扉を開けると、外見とは違って縦10メートル横4メートルの空間が広がり、4人の荷物を全て乗せられた。
魔国はバカも多いけど天才も多く、こうした世界最先端技術のものをよく見かける。
「ヴァイスも気に入ってもらえたようね」
「はい。凄いです」
凄いと言われ、私が作ったものではないのに鼻が高くなる。
因みに、中から外は見えるけど外から中は見えない作りにもなっている。
「さて、そろそろ出発ね」
国内にいる間はせめて魔国軍の精鋭が護衛すると言っていたのを、私は拒否した。
家族水いらず⋯⋯というわけでもないけど、せっかく平穏な旅を出来そうなところに屈強な兵士を送られるとか⋯⋯有り得ない。
パデリックの申し出を丁重にお断りし、代わりに私の武器の持ち出し許可を得た。
私の実力をよく知っているパデリックだから、恐らくこれさえあれば問題ないと判断したのだろう。
私はエルフの国を目指して、魔国の中でも最高位に位置する馬車で移動を始めた。




