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第5話 そして1年が経った

「母様。僕としてはこちらの方が良いと思います」


 ヴァイスの声はいつ聞いても凛々しい。

 本当に、いつまでも聞いていたいと思う。

 産声を上げたっきりだったヴァイスが、3か月ほど前から突然流暢に話し始めたのだ。

 その時の私とパデリックの慌てっぷりと言ったら⋯⋯。

 フレイアに窘められるまで、高い高いをしたものだ。

 そして、今は新しい魔法理論を構築しようとヴァイスが一生懸命になっている。

 私はそれが嬉しくて、手伝っている。


「そうね。それがいいかもしれないわ」


 ヴァイスの指さした図を見て答えた。

 何枚かの紙に書かれている、ヴァイスが提案した魔法理論を元に私が実践するという方法を取っているのだ。


「母様、もう少しゆっくりしていただけると⋯⋯」


 むぅ⋯⋯。

 この子は魔法を使えないから、魔子を見ることも出来ない。だからそれを可視化させる必要があるのだけど、可視化させても、魔子の動きは速いので遅くする必要があった。

 この魔子というのもヴァイスが名付けたもので、これまでは名付けすらされていなかった。

 魔子というのは魔法を発動する際に動く原子というものらしい。ヴァイスはどこでこんな知識を⋯⋯と思ったけど、本ばかり見ていたのはもしかしたら、読んでいたのかもしれない。

 そう考えるといろいろストンと空白が埋まった気がした。


「なるほど、これはそういう⋯⋯」


 ヴァイスはよく、魔子の動きを見て納得するように頷き、ペンで紙に何かを綴っている。

 それを見てもただの記号にしか見えないので、読めない。

 文字を読めることは出来ても書けないということだろうか。それにしても、自分で言語を作り出すなんて偉業だ。


「母様、ありがとうございます。魔法理論が出来ました」


 やっとなのね!

 今日まで長かった⋯⋯と言っても、研究にしては随分と短い期間だ。もしこれをヴァイス以外とやっていたら、数十年くらいかかっていたかもしれない。

 いや、そもそも魔法理論なんてものを考えたりはしなかっただろう。


「教えてもらえる?」


「はい。ではまず———」


 そこから話されたのは、一緒に研究をしていた私でも理解するのに1時間ほど要した。おそらく何も知らない人がきちんと学ぼうとすれば、半年くらいかかるのではないだろうか。




「ふぅ⋯⋯凄いわね。魔法理論通りにやるのとやらないのでは何倍も効果が変わるわ」


 ヴァイスの頭を撫でると、嬉しそうにはにかむ。

 それを見て、私は癒されるのだ。


「今日はここまでね。ヴァイスも、よく眠っておくのよ」


「はい。⋯⋯おやすみなさい、母様」


 ヴァイスがベッドにもぐりこんだのを見て、私は双子の様子を見に足を運ぶ。

 ちなみにまだ太陽は昇っており、そろそろ子どもたちはおやつの時間だ。

 たまに、ヴァイスが3歳児なことを忘れそうになる。

 それだけ、大人びて見えるというか、なんというか。


「フォルテ、トンファ。休憩中かしら?」


「はい、お母様!一緒におやつを食べませんか?」


 フォルテが元気よく顔を覗かせる。それに頷くと、パっと顔を輝かせた。


「二人とも、勉強の方はどう?」


「⋯⋯それなりに」


「私は、問題ありません、お母様」


 フォルテが自信なさげに顔を背け、トンファが余裕だと言わんばかりに胸を張る。

 二人の頭を撫で、抱き寄せた。


「二人とも、偉いわ。フォルテもあまり落ち込む必要はないわよ。まだあと1年あるのだから」


「はい、お母様」


 フォルテが力強く頷いた。

 これなら大丈夫そうだ。


「二人とも、明日からは魔法理論の講義も増やすわよ」


「「魔法理論?」」


「ええ。ヴァイスと、今日完成させることが出来たの。すんごいわよ」


「さっすが私の弟だ!」


「⋯⋯ヴァイス、負けない」


 何故かフォルテが胸を張り、トンファは対抗心を静かに燃やす。

 トンファは座学だけならアルテよりも成績がいいらしく、教師役をやっているケンドレッジ(魔国軍14連隊副隊長)が教えるとすぐに吸収するので楽しいと言っていた。

 最近、ようやく魔国軍が復活してきたのだ。

 私が魔国軍の半分を機能停止させ、続いた異世界からの(瞬殺された)勇者に4分の1を壊滅させられてしまい、体制が十全とはいいがたかったのが、最近になって後続が引き継ぎをうまく終えることが出来て形になってきた。


 そんな時、慌てた様子のアルテが部屋に入ってきた。


「母上っ!父上はどこですかっ!?」


 アルテの慌てように疑問を浮かべながらも、パデリックの予定を思い出す。


「パデリックなら執務室か⋯⋯いえ、今日は視察に出かけているわね」


「そんな⋯⋯」


「どうしたの?そんなに慌てて」


 途方に暮れた顔をするアルテに少しばかり不安を募らせながら聞く。


「ゲルトニクス帝国で、勇者が召喚されたようなのです⋯⋯」


 そう言われ、ぽかんとする。

 勇者って、あの勇者?召喚と言うくらいだから、きっとあの瞬殺された勇者と同じくらいと思う。


「えっと⋯⋯それで?」


 あの時の光景を思い出して思わず聞き返した。

 気付いたときには遅く、


「それで⋯⋯?え、えっと、それで⋯⋯父上が危ない目に合っていないかと急ぎで帰ってきたのです」


 勇者が目指すならここ、魔王城だろうし、そもそも国境警備隊や魔国軍からの報告に勇者が侵入したというのはない。

 だから、魔国内であれば問題ないだろう。

 それに、パデリックにはマキトがついている。それだけで安心できるというものだ。


「とにかく、話がそれで終わりなら早く戻りなさい。パデリックは無事だから、ね?」


 パデリックと結婚指輪交換し、お互いが死んだときはすぐにわかるようになっている。指輪にはそれぞれの魔力が込められていて、人が死ぬとその魔力がなくなるので、こうして重宝されることが多い。

 その指輪がまだ健在なのだ。


「は、はい!母上、お気を付けて」


「あなたもね。一番危ないのはあなたなのよ、アルテ」


「⋯⋯重々承知しています」


 よろしい。

 ここ、魔国にはエルフの国にあるような学術院に関連する教育施設がない。

 基本的に魔国民は力技だし、語学力も元々高く、魔力量も総じて高めなので長命が多く、ということが重なり、学術院がなくてもそれぞれで勝手に学んでくる。

 とは言え、その学ぶ場所がどこなのか、という話だけど。

 アルテや双子に関して言えば、幾つもある人の国の中でも一番大きなケンタックー学術院に通うことになっている。

 6歳から通えるのだけど、上限はないのでいつでも入学できるようになっていて、初等部から高等部まである本当に大きなところだ。

 アルテは今初等部にいるので、朝の11時から夕方の6時までが学術院の時間となっている。


「お母様、お父様は本当に大丈夫なのですか⋯⋯?」


「ええ。あの人はお強いから、大丈夫よ。安心しなさい二人とも」


「「はい⋯⋯」」


 新しい勇者のことも気になるけど、研究もひと段落ついたことだし、子育ても落ち着いて来たことだし、そろそろエルフの国に一度帰ってみるのもいいかもしれない。

 その時は、ヴァイスも連れて行ってあげよう。

 私の最終目的は、魔国を世界に認めさせることなのだから。

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