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都築彩夏は不運である。  作者: 杏里
能力者編
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ナイフを1本くださいな?

 篝は都築の立てた作戦にある程度の説得力を感じたからこそ、それに従い、今こうして共犯者をおびき出すため、再度逃走を図ろうとしている。しかし、作戦に説得力を感じていても、実際に都築が自分の役割を遂行できるかどうかについては、疑わしく思っていた。


 だからこそ、都築がやられてしまう前に、篝は共犯者を倒し、助けに戻らなければならない。


 篝は、先ほど逃走の妨害にあった場所へとたどり着いた。


(いくら相手の居場所を突き止めるためとはいえ、妨害にやられてしまったら意味がないからな…。ここは慎重に…)


 そこまで考えて、ふと都築の言葉を思い返す。


(あいつは、僕がやったように逃げようとすると、とか言ってたな)


 出会ってからほとんど時間は立っていないが、都築の都築らしさを存分に見せつけられた篝は、まだ都築の実力を疑わしく思っていたものの、だからといって提案を却下することなく、おとなしく従うくらいには信頼していた。正確には都築の思考を信頼していた。


(あいつが意味のないことを言うとは思えない。あいつがやったように逃げることで何か意味があるのか…?)


 そんなことをしても、また同じことが起こるだけではないのか。いや、それならいいものの、攻撃を受けたら…。


(っ!!)


 篝は都築の狙いに気付いた。


 もう1人が姿を見せないのはなぜか?全てを1人がやっているとこちらに思わせたいからだ。実際に見つけるまでは確定できないものの、共犯者の存在を都築が看破した。そして篝が共犯者を倒すためには、共犯者の存在にこちらが気付いていないと思われていた方が、共犯者を見つけやすく、都合がいい。


 つまり篝は、先ほどの都築、共犯者の存在を認識していなかった時の都築と同じように振舞うのが1番いいのだ。


(どうなってんだよ、あいつは)


 都築に対しての感情は、驚愕を通り越し、恐怖に近いものに変わっていこうとしていると同時にある種の信頼のようなものも芽生え始めていることを、篝は感じていた。


(さっさと戻らないといけないからな)


 篝は全力で逃走するつもりで路地を駆け抜ける。予想していた通り、篝の目の前にナイフが突き刺さる。篝はそれを確認すると、身を翻し、建物の陰に隠れた。


 ナイフはどうやら建設途中で廃棄されたとみられる廃ビルの、屋上辺りから飛んできたようだった。篝は、引き返したと見せかけて建物の陰に隠れながら移動し、共犯者がいると思われるビルを昇っていく。素早くかつ慎重に。


 しかし、相手も全くの素人ではない。このような罠を張り、都築がいなければその仕組みに気付けなかったかもしれないくらいだ。篝の行動は想定されていなかったわけではないようで、移動する篝の目の前の壁にナイフが刺さる。


(気付かれたか…)


 理想は相手に気付かれることなく近づき、そのまま倒すことだったが、それが難しいことは篝にも分かっていた。見つかる可能性がある以上、お互いに相手を認識したうえでの戦闘を想定しなければならない。


 篝はビルの柱に隠れて飛んでくるナイフをやり過ごしながら、隙を見て相手の姿を確認する。


「っ!?」


 篝は、相手の姿、正確にはその顔に驚いた。先ほどまで篝と都築の2人を追いかけていた主犯と瓜二つだったからだ。服が全身真っ黒なことに加えて、前髪が長く、片方の目を覆っていた。しかし、隠れていたのは左目で、主犯の男とは逆だった。


(双子なのか…?)


 双子がともに能力者として覚醒するということは珍しいことではないと篝は聞いていたが、同じ能力を持っているというパターンは今まで聞いたことがなかった。


「くっ!?」


 柱の陰から覗いていた篝の目を狙い、ナイフが飛んでくる。篝はすんでのところでそれを避けた。


(都築の予想通り、直接見えていないところにはナイフは飛ばせないようだな)


 篝がどこに隠れているのか相手は分かっているにもかかわらず、今こうして攻撃を受けていないことがその証明となる。しかし、だからといってこのまま隠れていたのでは、相手を倒すことはできないし、相手に回り込まれれば攻撃を受けてしまう。それに、篝には悠長に戦っている余裕はないのだ。能力のない都築がいつまで逃げ回れるか、そう長くはもたないだろう。


 かといって、がむしゃらに突っ込んだのでは都築を助けるどころの話ではなくなる。


(少し時間を稼ぐ必要があるな)


 篝の右手が赤く熱を持ち始める。相手が近づいてくる足音を聞き、篝は柱の陰から飛び出し、また別の柱の陰へと移動する。


 篝の反撃が始まろうとしていた。


 一方その頃、都築はとにかく逃げ回っていた。次々と飛んでくるナイフを避け続けていられるのは、都築の逃走スキルが優れているのか。それとも片目男が遊んでいるだけなのか。どちらにしても、ヘロヘロになりながらも何とか生きて、逃げ続けていた。


「おいおい、いつまで逃げるつもりだぁ?そんなんじゃ、死ぬだけだぞ?あぁ?ほら、攻撃して来いよっ!」


 片目男が飛ばしたナイフを、ギリギリのところで避ける都築。しかし、そのままアルミのごみ箱や廃材が集められている場所に倒れこんだ。


「何だよ、もう終わりかぁ?あぁん?もっと必死に逃げろよ!泣きわめいて、命乞いしてみろよ!」


 都築は息を切らしながら、やっとのことで立ち上がる。


「はぁ、はぁ。今更こんなこと言うのもおかしいけど、実は能力者でもないし、カードも持ってないんですけど、見逃してくれませんかね?」


「何だそれ?命乞いのつもりか?もっとましな嘘をつけないのか?話にならねぇ」


(ですよねー)


 都築の話を信じて見逃してもらえるわけがないことは本人にも分かっていたし、これ以上説得を試みても、都築から感じるらしい能力者のオーラがある以上、能力者でないことを証明することは不可能だと分かっていた。この命乞いは、見逃してもらうためのものではなく、体力の限界が見えてきて、いつまで続けることができるか分からない攻撃を避けながら逃げ続ける状況から、会話による時間稼ぎへのシフトが目的だった。


「それに、もしカードを持っていようがいまいが関係ねぇ。殺して奪う。やることはそれだけだ」


 ほかの場所にカードを隠しておいたので、自分を殺すとカードが手に入らなくなるぞ、という作戦も用意していた都築だったが、片目男がこの様子では、1人残っていればいい、と篝を残して都築を殺しかねない。


「そもそも、前提がおかしいでしょ?こっちは丸腰だってのに、そっちはバリバリ武装してるじゃん。ずるい。不公平だ。人をいきなり呼びつけたと思ったら、こんなところに連れ込んで、こっちはさっさと買い物を済ませて、家に帰ったら学校の課題を終わらせなきゃいけないってのに。それに攻撃して来いってなんだよ!?こっちは丸腰だってわかって言ってるだろ?どう攻撃しろっていうんだ!………というわけで、ナイフを1本くださいな?」


「は?」


 都築が差し出した手を見ながら、こいつ頭おかしいんじゃねえか、と片目男は思った。


「でもまあ、それでやる気になるってんなら、やってもいいぜ。もし、受け取れたらの話だが」


 片目男が手に持っていたナイフが一本宙に浮かび、都築の方を向く。やっとやる気になったんだ。獲物は抵抗するほど殺すときが面白い。ナイフ1本あったところで自分をどうにかするなんてことは不可能だが、それでも殺しに来るのならば、それでこそ殺し甲斐があるというものだ、と片目男は思った。


「あっ、顔はやめてくださいよ!?傷がついたら困りますから!」


 わざとらしいほど大げさに慌てた様子の都築を見ながら、片目男は笑った。 


「あぁ、お望み通りのナイフだ!」


 都築に向けてナイフが飛び出す。そのナイフは当たり前のように都築の顔面を狙っていた。


「大事な顔で受け止めろや!」


 ドスッ!!ナイフが刺さり停止する。しかし、狙い通り都築の顔に穴が開くということにはならなかった。ナイフは都築の顔ではなく、都築が手に持っているゴミ箱のふたに刺さっていた。倒れこんだ先にあったゴミ箱のふたでナイフを受けたのだ。


 とはいえ、片目男の飛ばすナイフの威力はコンクリートに穴をあけるほどだ。普通にしていては、このアルミ、あるいはブリキで出来ているように見えるゴミ箱のふたで、ナイフを受け止めることができるとは、都築は思っていなかった。あらかじめ飛んでくる場所が分かっていたなら、勢いを殺しながら受け止めることができるのでは、と都築は考えた。誘導に引っかからない可能性も考えて、ゴミ箱のふたを投げつけ、避けることもできるように構えていたのだが、片目男は都築が想定していた最悪のパターンより単純だった。


「おぉ!狙いばっちり!ナイスコントロール!世界狙えるよっ!なんつって」


 ゴミ箱のふたからナイフを抜きながら、都築は笑った。


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