表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2010  作者: 篠崎彩人
0「成人の日」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/27

?1「憐羽蝶」

 私は今少女の跡を追っている。両少女の事、あの先に見た人としての少女ともう一人私の白から出でた私に口付けをして来た太陽少女の事だ。勿論先に見た方の彼女に関して女性を感じては未だ居ないがもはやあの人をモデルとした対象と口と口の無言なる愛の雄弁を交わした以上あの人を女性と考えない訳には行かない。とは言え、彼女をそれほどまでに近くに感じているとは言えやはり彼女自身はここから立ち去ってしまって居てこの場に居るのは目の前を緩やかに往く彼女の擬態、白の人影のみだ。白の彼女は、私と口付けを交わした後それ以上を求める事は無かった。私を精神崩壊の圧縮に丸め込んで自分の中に取り込んでしまおう、もう出る訳の無い白を私から一滴残らず搾り出そうと言うような狂気行動には出なかった、それどころか彼女の口付けは、とても優しく、暖かかった。肉と肉の潰れ合いと言う様な卑猥な感じが全く無かった、私の口でなく、心に直接口付けしてくれたような、そんな感じだった。つまり、性欲に因って彼女は私の唇を奪ってくれたのでは無い、愛、彼女の胸に何故か有った私への愛で以って彼女は私を私の唇を求めたのだった。何故だろう。何故、記憶の全て消去された様な私の心の中に彼女に、つまり先に見た方の人に確実に愛されていたと言う、それを拠り所に白の彼女があの人の私への愛を知ったのであろう、愛の日々の証拠記憶が残っていたのだろう。勿論、愛は強し、等と言えばロマンティックでそれもまた良しだが何となく不自然だと思った。第一、何故この白の彼女は私と口付けを交わした以後まるで私の方を介さず先の人である彼女の去った方角を目指しているのだ。何か大きな見えざる意思の手の平の上で小躍りさせられている嫌な感じ嫌な予感は拭えなかった。

 そう、嫌な感じ、それは施設を離れるに連れこの周りの木々の本数が減って来ている事にも増幅させられる。私が先程脳内で転がしていた予感とも何とも呼べない負の空想、地面がこれら死にかけの木々の様になった私を欲っして脳を破壊しようとしているとかこの木々がまるで射精後のペニスの様だとか脳が破壊されたら私も植物の様になってしまうのかとか一面に開ける空を見たら即死するだろうとか、それらが今は溶け合い化学反応し鼻を劈く様な異臭を放っている、その匂いは、死臭だった。私はもう恐ろし過ぎて空の方を見る事が出来ない。木々の視界保護が段々と薄くなっている今空を見たら、私は自分が一体何の為にあの人を見たのか何の為にあの人の擬態と口付けしたのか全く分からないまま、死ぬか、最低でも精神が崩壊するだろう。私の以前の天使達、恐らくはその殆ど、或いは全員が死んだのであろう私以前に人間浄化された人々、彼らはそんな風に空を見ては大変な事になると分かっていても空を見上げてしまった、空に救いを求めてしまった、空に自分の愛しい人の笑顔を求めてしまったが故にその身その心を滅ぼす事になったのだろう、多分、三日生きる可能性が有ると言っても彼らの殆どは半日と持たずに死んだのではないだろうか。そして死体は、死臭を放つ、私はそれを、今、すぐそばに有る物として感じているのだ。この木々、私を覆う木々、これに対する価値観がようやく強固で高温なる沈澱鉱物となって私の脳に焼け付いて来た。この木々は、この森はほぼ間違い無く私の以前の天使達の死骸を種とした畑だ。彼らの死に様彼らの死に場を克明に残して置いてそれを思い出す事で日々と楽しくにこやかに過ごす地面の憩いの園なのだ。なんて膨大な数の生命が弄ばれたのだろう、誰がこんな恐ろしい人体実験を考えたのだろう、いや、人体所か人類総体実験とでも言うべきか。人類、私が元属していた筈のその種族、それは今どんな暮らしをし、何を思って生きているのだ?そう、あの人は、去っていったあの人は今何を思って佇んでいるのだろう。

 白の彼女は、私のそんな陰鬱とした空想とは丸で関係の無い自由の世界の住人であるかのようだった。見れば何匹か綺麗な蝶が彼女を取り囲んでいる。物理的に何か有ると知覚出来る訳では無いから精神的な何かが有ると、そこに見えない心の花が開いていて透明ながら甘美なる蜜を宿していると感じてしまっているのだろう。彼女は時々そんな蝶を指先に止めようとするが上手く行かない、それはそうだ、肉体の存在次元が彼らとは違うのだから。私は、何となく私自身があの人の指先に止まろうとするも上手く行かない蝶の様だと思った。ただ違うのは、この蝶達は、この見えない花には止まれないと判れば別の花を目指せばいいが、私は、私には他の花など存在しない、私にはこの白の彼女の元となったあの人以外の花は無いと言う事だ。そしてその花は多分もはや永久に止まる事の叶わない花だ。花に止まれない蝶は、何に止まればいい、何の為に、何処を目指して羽ばたけばいいのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ