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2010  作者: 篠崎彩人
0「成人の日」

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?0「愛終歌」

 最初むしろ其処には何も居ないと思った。空間が、それの今居る場所だけ綺麗に切り取られて何処か知覚の認識し得ない虚無世界に飛ばされたのだと感じた。だが、違う。虚無空間とは私の属する側の世界だ、むしろ彼女の存在域だけが実存であり私と地面が滑稽な性技を繰り広げていた場所には何の光り輝きも無い、有るのは光を受けてその闇を恥部を晒す暗い広がりだけだ、だがその暗い広がりは彼女の居る場所で千切れている、切り裂かれている、何故なら、彼女は光、彼女は太陽だからだ。私は、彼女と言った、性別を認識できない筈の私が、だ、私がそもそも何故性判断を許されないのかと言えば私には地面と私自身以外への物理的干渉が許されていないからだ。私は自分の体の表皮にそっと触れるか、地面に激しく自分の肉体を擦りつけるか、それ以外の動作において触覚を働かせることが出来ない、何故なら他の物体に触れる必然が無いからだ、私は地面への性器として存在しそれ以上の物になる事は許されない、丁度人々の空想する天使が彼らの想像域を越えて、肉を得て彼らに慈しみの抱擁をしてあげられる訳ではない様に、私と言う堕天使も人や木や虫等自分と地面の交尾以外の事に興味を持ちそれらに触れようと願った所で何の意味も無い、ただ薄気味悪い情報画像としての彼らを痛む目痛む心で見つめる事が精一杯だ(どうゆう規則によるのかあの人の姿を例外として)。それ故私は、性欲そのものである私はしかしその性欲を物理的結合欲求を地面以外の方向には全く向ける事が出来ない、そう設定されている、だから先程のあの人にも性は微塵も感じられなかった。だが今回は違う、彼女は、私側の地平、私と地面、その範囲内に立ってそこに存在している、彼女は、私から発生してしまった白、太陽少女なのだ。私のあの綺麗な人が女性で有って欲しい私の女神で有って欲しいと言うその妄想が私自身であるこの白に今目の前に居る眩い全裸の少女、あの人をモデルとしたこの少女を形成させてしまった。それは、とても恐ろしい事だった。自分に性を感じている訳だ、自分に欲情しているのだ、何と言う恐るべき事態なのだろう。

 全裸の少女は、一片の迷いも無く私に歩み寄ってくる。恐い。この少女ともし性交に及んだら私はどうなるのだろう、この少女に自分を孕ませるのか。自分と自分を掛け合わせて自分を作る、もう、訳が分からなかった、それでも私は逃げられなかった、この少女に欲情しているからだ。私は性器でありその目的は性交でありそれ以外の存在意義は無い、例えばこの行為の余りの異様さに精神が崩壊して予定より早く死ぬことになったとしてもそれはそれで受け入れるべき終局なのだ、私には性行為以降の何らかが期待されていないのだ、その後この少女と家族を作って生きていくとか性行為後の発展材料は私には用意されていない、むしろ私自身が発展材料、精子の塊なのだ。

 少女は私の前に立つと、そっと頬に手を添えて来た。性交の前に口付けでもする気なのだろうか。そんな余計な愛の確かめ合いをして私を延命させてくれるとでも言うのか。それも悪い気はしない、あの人と愛を確かめ合えないので有ればこの少女を代わりとして最後の愛の思い出を作ってこの世を去ると言うのも、一番悪い死に方と言う物でも無い。私のあの人への憧れが今この場の気違いじみた愛のメロディーを奏でているのだとしたら私はそれを歌おう、この少女の口の中でそれを歌おう。果たして私は少女と口付けた。

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