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2010  作者: 篠崎彩人
0「成人の日」

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11「終わりの夕焼け」

 白い海の真ん中に私は立っている。見渡せば私の視界の行き届く限りに私が一心不乱に吐き続けた白、その海域が広がっていた。その白と言う色は、とても良かった。目を傷付けんばかりに眩い太陽の直接視、それがもしそんな恥じらいの究極発光でなければずっとでも見続けていたい程の甘美なる雄大なる自然美、女神の裸身なのかも知れない、と言う妄想を時折抱く事があったが、この白はそれの要素を、その誘惑的感傷思考を呼応させるに相応しい美的虚無を持っていた、美的虚無、それは分かりやすく言うと夕焼けのセンチメンタルだ、夕焼け、太陽がその存在を終え行く頃になって、老婆になってやっと私達になんの羞恥も無く己が姿を晒す、あのべた付くように橙なそれでもそれが純白の発光する若い昼の少女だった時分を思い起こさせる、老体における若き血潮の影、手の届かない存在の筈の太陽が我々赤の鼓動者達に手を差し伸べる色、橙の夕焼け、それは美しいが虚しい、私は夕焼けとしてしょぼくれた彼女の肉体を見たい訳ではない、彼女が終わりという名の実りになった姿を見せ付けられても意味が無い、彼女が実りへの可能性、花、それで在った時の裸身をこそ憧れるのだ、しかも夕焼けの時に見せてくれる彼女の姿は夕焼けが故夜の入り口が故極々短時間だ、私は、夕焼けの時の様な素直な微笑みを昼の時分から見続けていたい、と言う願望を絶対に忘れる事が出来ない、何故なら、夕焼けは不完全だからだ、本来完全なる物の完全さを余りにも想起させる不完全さはそれ自体罪だ、私、だけでなく我々は不完全なる物の完全さをどうしても追い求める、その内本来完全なる物の完全さを追い求める衝動、この不完全世界に溶け込んでしまっていて一見不完全そのものでしか無いがそれでも不自然なまでの眩さを失わずにそこに確かに有る、有る事を示しつつ見え隠れする、見え隠れするが生を抱える内にその全体像が明らかになる事は無いのは分かり切っている、神世界、それへの虚しい完全視欲求、その幻想は同じ完全の探求者人間でしか無い他者への完全であるべき愛であるなり不完全極まりない存在自分から発生してやまない完全であるべき理想、夢、人生終始計算式であるなりそう言った人間界での代償行為に置き換えられいつかは消える。だが、私、私は十五からの五年間と言う子供から大人へと心理状態を移り変える一番重要な段階を奪われた、全く現実において役立たない人の世界の外側の物への憧れを上手く断ち切る事が出来なかったのだ、それ故、今こうして、憧れていた物の夕焼けを吐き出している、この液体は多分肉体的に大人になってしまった自分の子供部分そのものなのだろう、私が十五年間で培った太陽の裸身への妄想、無精的精液とでも言うべき太陽への結合欲求元素、それがこの何故か太陽に向けてではなく地面に向けて吐き出される白色なのだろう。この白は、私が妄想した純白の太陽少女のような形を持ちたくても持てなかった終わりの不完全なる実り、夕焼けだ、だから、とても美しく、とても虚しい、私は人としては何の価値有る結実を生めなかった、私の二十年の存在定義は、今、ここに潰えたのだ。だからもう私に存在の証を残す機会は、この三日間にしか無い、天使としてのこの三日間にしか、私の存在を輝かしく、太陽の欠片にする為の夢への扉の鍵は無い。鍵、と言う言葉と、先程の美しい人が共鳴したが、その時の私にはその共鳴信号のべクトルが何処を向いているのか、知る由も無かった。

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