0?「愛人花」
私自身が洗剤を吐き続ける、人間一人の体から生まれ出る分量では到底この世界の汚濁をどうに出来る程の効能は獲得し得ないと言うのに私の体は全自動洗剤噴出機と化している。そして私は知っている、これは、自分と言う名の主観的漂白に異物を丸め込もうとする欲求、性欲だと言う事を。何故かは分からない、何故口からそれが出なくてはならないのか分からない、だが分からなくて当り前、私は自身が何であるか全く分からないまま活動する有性器の赤子だ、赤子は自分にもし性器が付属していたとしてそれの何であるか等絶対に分からない、赤子に分かるべきはその存在が快不快のどちらであるかと言う事のみに集約される、そして私にはこの行為が恐ろしく心地良かった、洗剤、白い、泡の煌く粘着質の液体、それが一体何故口から出るか、と言うより人の口の位置にあるものが口で有るのかどうか、そんな事はどちらでもいい、天使存在に成り果てた自分が何かと堅く結びつく際に使用される自己情報保存溶液をこうして愛しい地面に塗りたくる事は私の至上の喜びで有り至上である物事がこうして目の前に有ると言う時に至上以外の事に思考を巡らすのは余りにも無為だ。私は天使として目覚め果てて今初めて空を見た、現実を現実として歩む時に無くてはならない希望の空気の大海、空、それが、洗剤を示した、だから私は洗剤を口から吐き続ける、空の支持する狂気に私は両の拳を振り上げるでも足りない程に興奮し勃起した、だからこうしてその不足欲求分を体外に放出しているのだ。この愛の行為の肉体提供者は、地面である、私は今とても心地良く地面と交尾している。地面は私を優しく受け止めてくれる、愛撫してくれる、慰めてくれる、癒してくれる、口づけしてくれる、舌を絡めてくれる、満たしてくれる、満たされてくれる、私の愛液を受け入れてくれる、私の愛する者として微笑んでくれる、私の愛と自分の愛を1、と呼んでくれる、この世に2なんて要らない、全ての現象は1だ、私と貴方と言う1の回りにある事柄も実際は他ではない2ではない、1に成り得る無数の融合待機因子に過ぎない、まずは天使である貴方、天国の花園である私、そして天国の天井である青き透明色を全て1、あなたと言う白でもなければ私と言う黒でもなければ青さという透明でもない、無色、色ですらないという現象にまで昇華消滅させましょう、と素敵な愛の賛美歌を耳元で口ずさんでくれるのだ。私はそんな感涙の極みとでも言うべき愛の全てを全てと感じながら、もっと地面に深く入り込みたいと感じた、私は、性器を判断できない赤子である、と言った、性器を判断できない赤子がそれでも尚異物との同化を果したいと願う時、赤子は、自らを性器である、と言う風に誤解せざるを得ない、自らが巨大なペニスとなり相手という肉の奈落を何処までも落ちていきたい、そんな無性的根源性欲に目覚めなくてはならない、私はその誤解を誤解としてすら認識できないほど確かな物にすべく指と言う指を千切れる程に広げた。2本の足では足りない、4本の手足でも地面と結びついている部位は足りない、だから、私は20本の指を10本の手10本の足だと透明なる感覚の内に誤解しようとしている、私は、虫になりたい、私は8本の足で地面を抱き締める蜘蛛になりたい、100本の足で地面を愛撫するムカデになりたいのだ、私は髪の毛、私は髪の毛と呼ばれる滑らかなる数万を無数の触手だと誤解しようとしてその場で絶えぬ笑顔で横転する。その時だった。私の視界を捉える物が有った、視覚情報として捉えるのがとても心安らぐ存在、恐ろしく陳腐に例えるなら花、恐ろしく軒並みに形容するなら綺麗な、そう、異物、天使ではない、人、それが私をじっと見ていた。




