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2010  作者: 篠崎彩人
2「聖人の日」

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22「太陽の人メリス=メイ、そして空の瞳ピューリ=アミネ」

 彼女の背中には、葉の無い大木、大木はあの破棄された天国へと繋がっているのだろう、この白き海、天使の白のこの海のエネルギーを送り込む役割をこの大木が担っていたのだろう。彼女の事を考える時間は、幸せ過ぎてその経過感を全く感じられなかった、あっという間に私が施設から天国へと歩いたあの距離をこの海でも歩き終えてしまったらしい。私はそれを名残惜しいとでも言う風に彼女の顔をまじまじと見つめる。美しい、それ以外に表現し様が無い、こんな忌むべき場所に居るのが全く相応しくないと言う位に彼女の美しさはそこに浮き彫りにされている。この美しさは、もうすぐ私の知覚範囲を去ってしまうのだな、去って、そしてその美を遍く全ての人々に分け与えようと言うのだな、それ位に分散されてやっとその立場が落着くと言う程の美しさだ、私が今こうしてそれを一人だけで見つめている状況は、もはや罪と言ってさえいいだろう。私はその贖罪として死ぬ、こんな美しい人と共に愛を送り合えたその甘き重罪に身を捧げ消える、そんな考えがふと浮かぶ、そして私はその考えを嫌いではなかった。私は、この人をこれから先も独占したい、と言う願望をどうにか拒否し無視し切らなくてはいけない、そう思っている、それがどんなに些細な思考の欠片でも私が彼女をこうしてずっと見つめていたい欲求を軽減する一助となるのであれば、私はそれを喜んで身に纏う、死に装束は出来るだけ白い方がいい、純粋な方がいい、彼女への未練と言う血を地面へ無様に流しながら切腹などしたくない、その赤を、優しく綺麗に吸収してくれる、白がいい。彼女が微笑む、そして手をこちらへ差し出す。彼女は、彼女の世界へ行く。そして私は私の世界へ。これは、別れの動作だろう、この手を握った時、私は多分殺される、彼女と繋がる白の海にその意識を吹き飛ばされる、今にして思えば白の彼女が人の彼女に死を与えたそれだけで天国が崩壊したのはこの白の海、天国の礎が彼女と非常に密接に連結しておりその彼女の行為と連動して働いてしまったからだろう、彼女が、天国の中で生に死を齎せばそれだけで天国は寸時に崩壊する仕組みになっていたのだろう、こうして白と彼女が一体化している姿を見てよく分かる、というよりそうとしか思えない、白の海と彼女はそれ位その存在から受ける印象が近しかった、もはや同一だと言っても過言ではない程に。ただ、同一であるからこそ白の海は私がそこに足を踏み入れた瞬間に私を消す様な行為には出なかった、私と彼女が二人の生きた思い出の場所の下まで行く、そして私が彼女の今後についてより良く思考する時間を与えた、白の海もまた私の中の彼女への想いに何か期待しているのだろう。惟うに、私が今考えている事がそのまま今後の世界へと繋がっていく事になる気がする、例えば私が彼女を私の物として独占したい、他の人間などどうでもいい、と言う風に思いながら握手をしたら世界はそれに準じた物に変質する、と言うよりまたあの天国が再生してしまう事になるのかも知れない、子供を何時までも独占していたいという間違った考えの元に成立していたあの天国が。だから私は、心の底から彼女のこれからを祝福してあげなくてはならない、私を巣立って天の女神として旅立っていくのを。私がもし、彼女を強く愛するのなら、その握手の時に自分の独占欲に勝てないといけないと思う、そうでなくてはまた全てが元の木阿弥だ。この施設の製作者とは、もしかしていつかの私かもしれないな、と思った、私でなくてもいいが、私の様に人を愛しすぎた人なのだろうな、と。愛しすぎ、その人を失うのが恐ろしくなってしまった、もしくは実際に失ってしまったので永遠に停滞する二人だけの世界を望んで作り上げようとしたその結果がこれなのか、人間は恋人の関係だけでは有り得ないのでそのもう一つの究極の関係性親子を追加した世界(親子と恋人を置き換えた事が原因だとしても可笑しくは無い)があの天国とこの天使工場だったのか、と。その人はきっとこんな世界で満足はしていない、この必要悪(今や私が施設建設者かと思ってしまう程に私はこの施設の設立目的と共振してしまったのでもうこの悪をあまり責める気はなくなっていた、天使を代表する位置の私がこの悪の意味合いを判断できた事で弄ばれ続けて今は天国の天使達が少しでも報われた事になるだろうか。何にせよ、地面の精神体、白の海の在り方を司ったこの世界の創始者が誰であろうと完全に許せる程までは納得出来ないが)としての世界を通過した所にある何か、に賭けたのだと思う、その何かは私には見えて来ないが、いやそんな物はきっと何処にも無いのだろうが。何処にも無い、と悟ってみた所で私はでは独占欲に任せて彼女と世界の方向性をまた新たに定めるのであろう白の海、母胎と繋がれば、世界の精子となってしまえばいいとは思わない。きっと彼女が旅立っていく世界も本当の意味では素晴らしくはないのだろう、人が、愛故に苦しみ、愛故に迷いする世界なのだろう、だが、世界が本当の意味で素晴らしくなどなったらそれこそが停滞だと思う、欠点の何処にも無い世界、そんな終った世界に何の魅力があろうか、私は、ただ今の悪の色を少し変えてみるだけだ、自分好みの醜い世界を選ぶだけだ。その醜さを何とかしたくてもがき苦しむ人々の姿が美しいと思えるそんな世界を望むだけだ。私は、彼女と握手した。


ありがとう、私の大切な人


 私の中の蝿が私を突き破った。蝿だと思っていた虫は実際には蝶だった、彼女の愛した蝶だった。蝶は、彼女と共に天高く上って行く、蝶には眼が無い。空の千の瞳を自らの眼とするのか、世界をあの天国での様な愛の瞳で見つめる空になるのか。彼女は白の海と共に世界を作る、私の願いを糧にして。世界がまた人々の上に陽光を落とす時、その陽光に思わず人々が顔を顰め空を見る時、私の蝶よ、彼らにその顰め面を和らげる蒼い祝福の言葉を掛けてくれ、ようこそ、私達の子供達と。

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