00「天使の嘘、そして真実」
悲しみの瞳に見守られる中を、私と彼女は只一直線に進んでいる。今にして思えば可笑しな話だ、何故、私と彼女の歩む道がこうも整然と存在しているのだ。やはり、地面が天使の死に様を操っていると言う事なのだろうが、とすると地面は天使をただいつまでも屍姦対象としていたい訳ではないのかも知れない。むしろ私の様な生有る対象を我が物としたいのにその生有る対象が自身の居場所に来るまでをどうしても我慢出来ずに自分の上を蠱惑的な足取りで進む者を植物化と言う鎖で縛り上げてしまって居るのかも知れない。自分が、いつまでも天使捕獲の網でなくてはならない現状を心の何処かでは憂いているのかも分からない、丁度女性姦淫癖の捨てられない男が純粋な姦淫願望からだけ女性を犯し続けてしまう訳ではないかも知れない様に。その男や、この地面には確実にその在り方に於ける何らかの歪みが有るのだ、あんな綺麗な花を咲かせたり、子供に喜びの内にその上を走らせたり出来るこの地面が何もかも汚濁の間歇泉に支配され切っているとは思えない、その汚濁が時折止まる、その時に見せるこの地面の暖かな表情を私は見逃しては居なかった。だが私は、この地面が何もかもその何らかの汚れのせいで悪しき物へ零落れているとは思わない、地面が選んだ自主性も有ろう、だから地面を許したいとは思わない、地面と言うか、この地面の精神を司っている何者かを。だが、その何者かは、今はまだ見えないがそれでもその何者かにとっては間違い無く正義である何かに従って行動していると思う、この汚れを敢えて身に蒙ってでも成し遂げたい巨大な目的が有って身の在り方を定めているのだと思う。ここまで徹底した悪は、逆に気高くすらある。その者にとってすればこれは必要悪であり、その必要悪を超えた所に有る大目的を獲得する事で早く自らに附着した負の呪いを浄化したいと思っている筈だ。だがここで危険なのは、それが主観的必要悪である、と言う事だ、客観的に見ればそんな物只の純粋悪でしか無い、受け入れざる異物でしか無いかも知れないのだ。私は今、客観と主観の間に立っている、私は今この必要悪が果たして主観的でしかないかそれとも客観的にも(ある程度)そうだと言えるか、その判断を委ねられているのだ。勿論私がこの必要悪を客観だと判断しても基本的にその主観性は変らないだろう、主観の幾つかの積み重ねが客観と呼ばれる曖昧な観点である事は否定出来ない。だが、私は現在の主観寄りに過ぎる主観からその主観的客観に辿り着く為にもこの加害者地面を被害者天使その総体の代表として裁く権利と義務が有ると思う。私は間違い無く、天使として自分から地面にコンタクトを取れる最初で最後の存在だろう、私の行動如何で今後の人間の、若しくは人間の次なる存在の決定的な動向が出来上がってしまう気がする。空一面見渡す限りの瞳の海なのだ、これはとある小さな一地域で起こっている人間の陵辱ではない、勿論、それを人類全体等とひっくるめる事の正しさは何処にも無いのだが、そうも気負わなくては私はこの重たい歩みを進める事が出来ない。そうゆう壮大な嘘と、前に居る人との小さな真実だけが、今、私が人を正しい方向へと導く為の天使である、と囁いてくれていた。




