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2010  作者: 篠崎彩人
1「審判の日」

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16/27

?0「愛実心」

 場合によっては私の死刑執行人、若しくはその立会人になる人、白の彼女が、人の彼女の住んでいた筈の場所から出てきた。相変らず、病的に真白い、人の彼女の返り血を浴びてもそれが身体に附着する事は無いのだろう、この私がそうである筈な様に。ただ建物に入り込んだりする為には体の在り方をどう歪めさせてもその建物の輪郭を形作る所の物即ち壁をすり抜ける事は不可能であるので彼女はまた開いているドア、自分からは勿論開ける事の出来ないそれから出て来たのだろう。その推測を確定事項とするべく私も人の彼女の爆破現場へと繋がるその魔への入り口に行って自分の特殊な身体物理性を確認してみよう等と言うちんけな遊び心の為に行動する精神的余裕は、無い。私にとって今開かれている門扉は、死へのそれか、生へのそれかだ、それ以外の方向へ行動を起こすにはまず生の門扉をくぐらねばならない、生の門扉をくぐり終えた所で私に待っているのは空しさの雨風でしか無いのだろうが。そんな風雨を凌げる程私の肉体は暖かさを強く残しては居ないし、強さを暖かく守っても居ない。もう、手なんて足なんて、頭脳なんて存在してもむず痒いだけだ、私はもう、死んでしまいたい、死ぬ事は変態愛癖を持つ地面に許されていないのだろうが、少なくとも積極的に何をする必要の無い、天使の死骸、死の樹木、あれになってしまいたい、地面に愛玩具として蒐集されて私の手足や頭脳を好きに弄ばれたい、もう、人の彼女には、どんな想いも届かず、どんなに駆けても一寸も近づけない、どんなに抱きしめようとしても、彼女の体は何処にも無いのだから。ならば、地面にその熱い想いを消化してもらいたい、地面に愛の言葉を囁かれて口付けされて犯されて汚されて手足をもがれて頭脳を食われてこの想いが粉々になってしまって欲しい、さも無くば私は過剰情報五感がどうのでは無くこの想いの膨張もしくは異常発熱で爆発炎上してしまうだろう。白の彼女はそんな私の想いを知ってか知らでか確実に私の方に近付いてくる、顔中の至る所から液体を垂れ流し頭を抱え笑いながら失禁している無様な人間の方に。私は彼女の爆発を感知してから初めて能動的に行動を成した、白の彼女を見上げる、と言う。白の彼女は、私に口付して来た時と同様、表情が無い、人とのコミュニケーションは彼女の中での優先度がかなり下位に位置しているのだろう、若しくはそんな物の存在自体設定されていないのかも知れない、彼女は、私の三日間の為にだけ生まれて来たのでありその三日の己の仕事以外の余分な因子は全て排除されているのかも分からない。私にして来た口付けだとて、幾分かでも私の人の彼女への愛を思い出させる為の物でしか無かったのかも知れない、私は彼女への愛以外に行動する原動力を持ち合わせていないのだから。だが、私はそんな計算式上の愛情表現に等飢えていない、もし彼女がまた私を奮い立たせようとして微笑みを持とうものなら私はその微笑みを憎みさえするかも知れない、彼女の美しい笑顔をそんな詰まらないイミテーションで表現しようとするな、私の彼女への記憶を汚すな、と。だから私が白の彼女を見上げたのはその慰めの笑顔を求めたからでは毛頭無い。私は彼女に求めたのは、死への許可だ。白の彼女はこんな風に天国を終わりにしてまで私に成して貰いたい事が有るのだろうが、私はもう何もしたくないのだ、そんな責任を背負わされる筋合いは無いのだ、だから、死んでも良いですか、この天国領域を抜けた所に有る眼球の青空を見上げて呪詛の幾千の刃でこの身を貫いても良いですか。彼女は、果たして微笑んだ。私は、その笑顔に負の感情を全て吹き飛ばされた、何故なら、その笑顔は、人の彼女の笑顔そのものだったからだ。大粒の涙を流しながら、それでも優しく、嫋やかに微笑む白の彼女、間違い無い、白の彼女は人の彼女との接触で人の彼女の魂に触れたのだ。白の彼女が人の彼女の所へ向かったと言うよりはむしろ人の彼女が自分の想いを私に伝える手段として白の彼女を呼んだと言う事なのかも知れない、その接触で、つまり人の肉体のまま天使と重なる、人の肉体の物理を完全に拒絶する天使の肉体に触れる事で己がどうなってしまうかを知りながらも。その決死の想いの手紙が、この白の彼女と言う伝書鳩に託され今こうして私に全てを吹き飛ばされる程の衝撃を与えているのではないだろうか。論理的証拠は何処にも無いが、私は、この笑顔なら信じられると思った、こんな笑顔の出来る白の彼女なら。いや、もう人の彼女と白の彼女は一つと言っても良い、この笑顔が出来る人間は、私にとっては一人しか有り得ない。私は五年振りに本当の意味で彼女に再会したのだ。気付けば私も微笑んでいた、先程までの狂気の笑顔等では無い、幸せの、微笑みだ。二人が人として出会ってお互いを愛情で暖め合うという様な理想の幸せは勿論実現しない訳だが、それでも今、私の笑顔、彼女の笑顔、このふたつの間に存在する揺ぎ無い暖かな物を、幸せ以外の言葉で形容するのは不可能だと思えた。死ねない、死ぬ訳には行かない、私は、彼女と子供を成し得なくとも、私がこうして天使として、彼女と共に有る事行動する事で結実させる事の出来る何かを見つけるまでは死に物狂いで生き続けてみせる。その結実、未だ見ぬ私達の人ならざる、天使の子。私は彼女の為、そしてその子の為に今、私を縛っていた負の鎖を全て引き千切って、立ち上がった。

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